ep.33 三千寵愛在一身? 中はただの現代人です。
『男は金を掛けた女に執着し、女は時を懸けた男に執着する。
そして、大抵の人間と動物は"古巣"に執着しがちだ』
美しく、広大な領土を誇る。この国で一番偉いのは?
豊かで、華々しい歴史を誇る。この国で一番の英雄は?
……けれど、いくら文明的に着飾ったところで"人"が人である限り、
「ですので、まず。今回の件について、こちらの条件を述べましょう」
「……………」
…………
結局世の中、弱肉強食。
散々現地集合か屋敷集合かで揉めた登場、形式めいたカーテシーもほどほどに。最も注意すべき場の最高権力者の顔色を
初めこそこちらの"装い"に呆気に取られるも、すぐさま向かい席から不快な目を向けてくる。本日の『対戦相手』より先に、彼女は
『もうどうとでもなれ、いっそ戦争になった方が早い。やっておしまいなさい』
……故に、こうして初っ端からかっ飛ばす姿勢を見せつける我らが姫。鳴る前に挫かれたゴングの音に、敢えて誰それと言わぬが。
(いくらその様な"
だってうちのちまいの、偶に物凄く馬鹿になるから……。
普段のやる気皆無、草臥れ田舎感から一変、今日ばかりはビシッとキメ……既に9割
「? あなた方は"その為"にわたくしをこの
ですのに、何故その様なお顔を……(੭ ᐕ))??
事前通達された味方以外、見るから多重の意味で面食らっているのに、お構いなし。
瞬く間もなく、異様な空気が流れ始めた場に、大なり小なり誰もが驚きの表情を隠せずにいた。
……第三者からすれば、今や
然し、どう盛れど実年齢からして、可憐な少女が出るものだと思っていたのに。
「何もないのでしたら、結構です」
「なっ……!」
コレは、一体何ヤツだ?
『…もし、万が一。私が勢い余って、"本当に不味い"ことを口走りそうになりましたら、殴ってでも止めてください。自覚があろうとなかろうと、ハンムラビの精神に基づき、倍返しに痺れ、時折りリメンバー、若しくは9……兎に角"その手の"テロ染みた思考回路になる。
———故に。
あ、自覚あったんだ……。
(こんの隠れ……)
ているかは、ともかく。
(実はお転婆である。通り魔め……!)
向かい席に座るオジサンたちの頬が引き攣った反面、ここに至るまで頼まれた"斬新過ぎる自殺"の未来が脳裏を過る。
理由や経緯はともあれ、姫が許してもそのパパは決して許さぬだろう提案に、北の野郎どもはもう一度内心 ♰ を切った。
「…………」
『王家』やその他公爵、有力貴族が何を考えているか確信を持てない以上、突如セッティングされたこの様な場……にも関わらず、リラックスしているのは意外にも当人だけである。
真綿でジワジワ首を絞めるよう、呼吸さえ儘ならない。余所の男らの瞠目先に、この世のモノとは思えないほど美しい
「お話、続けても?」
さらり小首を傾げる仕草はかわゆく、年相応だのに、令嬢の口から出ているとは到底信じられない。理路整然とした口調は、なんの情を宿すことなく、ただただ理路整然としていた。
如何にも『シゴト』を熟している、大人のそれである。
そのため驚きやら何やら、一瞬にして
誰かの言葉を借りるなら、まだ始まってすらいないのに。ありえない位の美貌を誇る星の乙女、心なし目に映る少女の背後に現北部公爵の
「では、まず手初めに」
流水の如く涼やかな声に反し、強硬な態度、丁寧な口調。
元来初参戦でなくとも、大の大人ですらこのようなメンツに囲まれた場で
「先ほども一度申し上げましたが、この度の案件について、こちらが提示する条件から述べましょう」
長い睫毛に覆われた藍とまばらな星屑が混じり合う瞳は無機質で、確かに吸い込まれるほど美しいが、周囲の不安と異質な恐怖を煽る。
———野蛮なんてとんでもない!
肥えた男の目からしても、仕草の一つ一つに気品があり、極めて優雅。一回の瞬きですら、まるで芸術のようだ。
「ですから、反論であろうと苦情であろうと。あなた方が
……けれど、こちらを見ているようで、恐らく認識すらしていない。
いくらかの公爵家直系の姫とは言え、少々異常と感じる落ち着きようである。
(身内以外みんな風景か、同じ様に映っているのだろう)
誰かが、そう思う。
なので無論、何時しかの夜会ごとく。完全に想定外の展開に向かい出した空気に、このような話し合いの場を進言した"方々"の顔色がことさらカラフルになったのは、言わずもがな。
その美しさ、品位溢れる姿と言ったら…。
「少なくとも、本日の議題である。この度突破したダンジョンに対する全権は、私に委ねられました。故に、この場での私の発言は北の総意、アストライヤ公爵のご意向と受け取って頂いて構いません」
そもそもとした根底、人としての格差を見せつけられているようだ。
普通の人なら竦みあがる様な場であろうと、堂々とした口ぶりはまさに上位に席を連ねる人間、"生れながらの支配者"に相応しいそれで…。
自分たちの知る「十五の少女」の影もない、
(……何より、例え実の
上手く言葉にできない感情が胸に湧き上がり。それでも、唯一ハッキリと分かるのは、そんな妙な迫力が『
……何処ぞの一部と違い、見るから虚勢ではない。
正しく、藪蛇。
というか確たる芯を持つ雪国からお届けされた、言わば"天災"三秒前かのような事態に。
(———こんなの聞いていた話と違うじゃないか!)
耳当たりよくすると、「お話合い」。
だが、ぶっちゃけると成人したばかりの女の子に大の男達が集って、囲んで、怖がらせて、好きなだけ搾取しようぜ!
……この時代にまだカメラはないが人目はある、集団イジメの現場からお送りいたします。
(と、本日の「わたくし」に擬態したアタイは思う。↑と、言いた気な顔をしている。真面目に領地経営すると、それこそ問答無用、年中無休、マジ卍解、インフィニティに舞い込んでくる仕事や雑務。だというのに、中央のお貴族様ってほんと暇なんだなぁ……)
もし現代でこんな場面が撮られたら、国内だけでなく海の向こうからも血税泥棒と罵倒され。絶対バズ……一国家の威厳どころの話でなくなる。
そう考えれば"この手の方々"に対し、今ほど
(Deth ヮ。まぁ、同じ特権階級である以上、私も人をどうこう言えた立ち位置ではないけど……)
昔ヤってた。
てか、見て好きだった中国ドラマの主人公が、いわゆる「自分が手を下す前に、仲違いをさせろ」計算高いタイプで。そこに憧れと
『いくらかの公爵家直系とは言え、未だ成人して間もない子供。この前は同い年相手だからこそ。大勢に囲まれ、何より陛下の御前でまともに対応できるはずがない』
『普段からして例の公爵令嬢は随分と嫌われている様子。北部の薄情さは国内随一ですし……ハハハ、伯爵も悪い。いやぁ、当日が楽しみですな!』
……例え今の身分生れでなくとも、前世の記憶を持っているだけ「
真っ当そうな事を言うも、結局誰も彼も私利私欲塗れ。
この様な思惑・悪意駄々洩れな場を設けたであろう本日の対戦相手、どうせ「もし私の娘が王妃に着いた暁には~」的なことを言って、自分の味方をしろ!
そう唆された取り巻き数名に非難めいた視線を向けられている向かい陣営を、良く
本来なら心理的な問題を抱える患者に対し、カウンセラーが使うテクニックではある。
(……が、オタク云々を差し引こうと)
オシゴトでなくとも人に関わる以上『
「………ッ、」
大学で専攻していたのはまた別であるものの……現代社会に揉まれる、対人関係に揉まれる、歳をとる、趣味に入れ込むうち専門が完全に変わって仕舞った違法滞在ネキ。
過ぎた今だからこそ思い返せば、大学時の専攻を完全に間違えて仕舞ったとしか。
(ただマ、その辺り"今更"考えてもしょうがない……)
そんなことが頭で流れる最中も、向かい席の軍勢に乾ききった視線を向けて。然し、オフィーリアは一瞬
———何故なら、
(アタイの知る"この手の場面"は大抵一コマ二コマで
始まる前から物言わぬ屍と化している相手に、首を傾げた反動で、黒髪を彩る『簪』がじゃらり、静まり返った場にやたら大きく響いた。
その様な現場にて、ほんと今更だけど———
(この国会議事堂? 会議室? は水も出ねぇのか……)
偶に飲まなきゃやってられない案件もあるから、私の開く会と付く回は基本フリードリンクなのにね。
終始無言であるが、よく見れば面白そうにこちらを見ている、
(
あと顔が良い。
ある程度
(うちの野郎どもとは違う白日で生きるタイプの、寧ろちょっと良すぎるレベルの……)
向こうは分からぬが、少なくとも
……もしこれが"話の通じないタイプ"の陛下(カツラ)だったら、今後の態度や方針を変えなきゃだけど———これは、うむ。
「……?」
流石異世界。
(今や向こうが異世界である)同志たちが
主にどこぞのちまいヤツのせいで、ここ最近完全に影を潜めるも、それでも昔、周囲の乙女たちが王子様王子様ときゃっきゃするのを見ては、ひどい苦痛を味わってきた。
なので正直、旦那や地元の野郎どもを含め、こんな時であろうと彼らのパパに目が行ってしまう。
毎度のコトながら、年齢差を突き付けられた此度の戦犯は、脳内に浮かんでは消えて行く煩悩を振り払うように ニコ… と微笑んだ。
『顔を赤らめたら、浮気だから』
『生理現象なのに? 理不尽過ぎる』
『心拍上げても、浮気だから』
『生命現象なのに? 細か過ぎる』
『目を合わせても、浮気です』
『これでも私、公女』
つまり我々の業界にて、フラグの化身と言っても過言ではない
その様な、他でもない"わたくし"が。
『あんな不平等まる分かり条約、結んで差し上げたのに? 心が狭過ぎる……』
そしてナニより、食後のごろごろにて。何となく聞いた質問(:浮気ジャッジ基準)に対し、
カー○ィ並みの吸引力、隙あらば古のパックマンよろしく喰らい付いてくる自分を棚に上げて、この変態は一体ナニをほざきやがるのかしら……(੭ ᐕ))??
……絶対駄々を捏ねると思われる、そのため。
『レオくんの~ちょっといいとこ見てみたい~♪』
『…………』
『ほら旦那、待望の「新作」です。どうぞグイっと、一気にイッてください』
諦めの討ち入り前夜、私はその横でノンアルを飲んでいるので。
思い赴くままシャカシャカして、氷や果物をしばき倒し。まるで繁忙期最中、無限に酒を出すバーテンダー気分に浸っているので。
『
『自分が水タイプの酒豪だからって、り、理不尽過ぎる……』
チ―ン!
(※昔に比べ厳しい社会になりました。パワハラもアルハラも立派な犯罪行為です。世の中死ななければ許されるわけではありません。いい子も悪い子も決して真似しないように※)
本日の出頭に対し、会わせたくない野郎が
だから、前もって潰しておいた旦那をミア姐さんに託し。
だからこそ遅刻することなく———私は今、ここに居る……。
「ただそうですねぇ……クライマックスまで程遠い。条件を述べる前に、一つだけ確認させてください。事前、こちらが聞きしに及んでいる。"中央"側の提示は、『当のダンジョン所有権を中央に譲渡する』という内容で間違いないでしょうか?」
「ッ、あ、ああ! そうだ!! 例え攻略者が北部の者とは言え、我々にその権利がある!!」
正直ちょっと早まったかもしれないと後悔している。
遅刻を免れた一方、失うであろうモノは多い。コレはこうしたで帰った後が……。
「なるほど。分かりました」
ただそれでも、背に腹は代えられぬ。
紅を差せば、黒が深まる。
油と水の立ち位置だけれど、他でもないアストライヤが「分かった」と理解を示しただけでなく。優しく微笑んだのを見て、思わずほっとしたのも束の間。
「———無礼者」
やはり小娘だな。こうも素直なら初めからこんな場を設けずとも、よかったかもしれない。
そう本日の勝利を確信した一部は、赤ほっぺのまま、口角を反射的に吊り上げた顔のまま、凍り付いた。
異様でありながら、心地よい春陽射しで温められていた場が途端、氷点下まで下がる。
先ほどと同じ顔、迦陵頻伽の声であるにも関わらず……まるで、白蛇の女が突如現れたよう。
「わたくし、言いました」
僅かに
「今回の件について、一に、わたくしに全権がある。つまり少なくともこの場における、今の私は北部公爵の代理です。恐れ入りますが、貴方の爵位は如何ほどに?」
「あ、い、いや……」
「まぁ、それは良いとしましょう。なんせこんな見てくれですので、あなた方がそう思って仕舞うのはある意味
ですがね。
「二に、わたくしは確認しました。今回の事と次第、そして要求は"中央"側の提示であるか? と。どうもお分かり頂けていないようなので、もう一度聞いて差し上げますね。あなた方が、今回こちらに言い渡した『当のダンジョン所有権を中央に譲渡する』という内容は———"中央から
「だ、だから、なんだというだ! 大体かの公爵家の姫とは言え、ご令嬢に何が……っ」
その時、柔らかな柳眉をした、女の口元が明らかに歪む。
余りにも綺麗に曲げられたソレに、ゾッと全身に悪寒が走り。言い切る寸前、牙を覗かせた獣たちの爪が自分にかかっていると、ようやく気付く。
「へー?」
「それはそれは……」
何時もの如く、数秒前まで見るから心ここにあらず。誰もがどこ吹く風、我関せず顔を貫いていた『北部の男』たちの目が、今の発言にパッと輝いた。
その様子を見て、この場の発端を作った"例の伯爵"を始め、ほとんどの人の呼吸が詰まる。
反射から伯爵は周囲に助けを求めるように目を泳がすも、決定的な失言を零した人間を厳しい目で見ているか、こちらと視線を合わせまいとしているだけ。
そんな本日の対戦相手・陣営を見て、オフィーリアは緩やかな笑みを浮かべ…。
「ほら、言わんこっちゃない。だから、わたくしは『なるほど。分かりました』と述べた上で、もう一度聞いて差し上げたのに、大の大人が三回もチャンスを貰えると? 国の長たる陛下だけでなく、様々な要人もいらしている場で、伯爵が"我々中央"と名乗る」
「……っ」
「これほどの証人を集める、場を整えるのにさぞご苦労なされたでしょう。以前の夜会は
とりま礼を述べる。
腐っても大人なのですから、自分の吐いた唾の責任くらいとってくださいますよね……(੭ ᐕ))??
「土地柄どうしても魔物や自然相手ばかりとなって仕舞うため、丁度良かった。———対人相手だとどうしてもこのような名分、
コレでお父様のご意向にも沿えれる、アハッ( ᐛ ) そうあっけらかんと微笑む目の前の少女こそ、
そんな臣下同士のやり取りを終始無言を貫き、当代の国王はずっと玉座から見下ろしていた。
「ち、違う!」
「違う?」
「そ、そう、違う!! 私はただ、」
「ただ?」
「ッ、わた、兎に角! 私はただ娘の…そ、その様なつもりは滅相も……ッ!!」
……すると一言二言で本題から脱線させただけでなく、こんな不穏極まりない空気にしておいて。然し、口先でオウム返しのように攻め立てるも———
「もしや、貴族……伯爵であろう者が、一度吐いた唾を呑むおつもりで? なるほど、それが
「なっ、だ、だから、」
「だから?」
だから、なんです……(੭ ᐕ))??
「仮にも先達として、何事もハッキリ仰ってくださいませんと。……お恥ずかしながら、なんせわたくし、あなた方からすれば田舎生れの田舎育ち、ただの小娘風情ですので。突如お呼ばれされた、このような場での言い回し、作法に明るくありませんの」
「~~~~~~ッ!!」
(何とも器用なことだ。纏う
兎にも角にも、第三の傍から見れば
丁寧な言葉使いで好きなだけ相手の上げ足をとる、その姿。けれど、それでも、場の最上位にいる
『"引き際"は心得てます、ご安心ください』
と言わんばかり。小さくはにかむ息子の思い人に、国で最も偉い男は吹き出しそうになった。
王子という地位や建前、王族の美貌上、モテないはずないのに。長年に渡り、何故あの子が悪夢に見るほどこの令嬢に"こだわる"のか、僅か数刻ながら身を以て理解する。
(———まだ幼いながらも、恐ろしいほど頭も、口も回るのだろう)
どうやら我が家の末っ子は自分に似て、女の趣味が大層
それだけ『王家』のみならず、古今東西の権力者が求める、"理想を見る"パートナーというのは。美しいやら優しいやらだけで、到底務まらない席故に。
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