第65話 交わらない世界

 ぬりや様が部室を出た後、僕はカバンから村上春樹の本を取り出し、読書に励むことにした。文芸部部長でありながら、僕は読書体験が少なかった。今更ハルキ?と思われて仕方がないが、読書家の三人と楽しく部活動をやっていくためには、そういう努力が必要だった。


 僕は単純に友達が欲しくて、便宜的に部活を発足したのだ。僕は人見知りだから、実は人間関係は受け身だ。人様の近況ノートや作品にコメントをする勇気はなかなか出なかった。だから僕のカクヨム学園での交友関係は非常に狭かった。


 突然、他校のぬりや様が現れたとき、僕は慌てふためいていた。「この部室にまともな人が足を踏み入れるなんて」と、豆は様に謝らなくてはいけないようなセリフが頭に浮かんだ(豆は様以外には謝る気はない)。本当はもっと色々お話ししたかったが、こんなとき僕は借りてきた猫のようになってしまう。


「当たり障りない返事ばかりで、ぬりや様がつまらなかったんじゃないだろうか」と後悔あるいは恥ずかしいといった感情が渦巻いて、なかなか本が読み進められなかった。


 廊下から人の話し声がする。なんだろうか。少し気になったが、僕は野次馬をするような人間ではない。僕みたいな非力な人間なんかがいようがいまいが、事態は変わらない。むしろ下手に関わると事がいよいよ悪くなる。僕は無関心を貫いた。

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