・3-11 第39話 「頼もしい仲間」
数日振りにディルクがたずねて来てくれた理由。
それは、周囲のケモミミたちに自分たちが危険ではないと分かってもらうために、おすそ分けして欲しいと渡した野菜の結果を教えてくれるためだった。
「いや~、ほんとに、みんな喜んでくれていたよ!
それに、ずいぶん安心してくれたみたいだった。
人間さんがなにをしているのかって不安がっていたんだけど、こういう美味しい食べ物を作っているんだよ、って教えたら、みんな納得してくれてね!
ボクも、なんだか肩の荷がおりたよ~」
どうやら、配ってもらった野菜は好評だったようだ。
もちろん、そのことは嬉しい。
だがなによりも良かったことは、この辺りに暮らしているケモミミたちの警戒心がずいぶんと解かれたらしいことだった。
人間は恐ろしい存在だ。
まだその噂は強く信じられ続けている様子だったが、少なくとも、穣司たちが行おうとしていることは危ないものではないのだと分かってもらえた。
もしかするとこれからもっと多くのケモミミたちと遭遇し、話す機会を得られるかもしれない。
そしてそれは、大きな進歩になるはずだった。
仲間が増えればやれることがもっと増やせるし、自分で調べるだけではなかなか分からなかったことが簡単に判明するかもしれない。
「ところで、その……。
ちょっと聞いておきたいな~って思ってることがあるんだけど」
素直に喜んでいると、ディルクがもじもじとしていることに気がついた。
背丈では穣司に並ぶか、やや高いほどなのだが、少し前かがみになって上目遣いになり、こちらの様子をうかがうようにしている。
「うん? なんだい? 」
「えっと、そのぅ……。
できれば、またあの美味しいニンジンを食べたいんだけど、どうしたら分けてもらえるかな、って。
そういうのは、もしかしてダメ、なのかな? 」
思わず吹き出してしまう。
気に入ってくれているな、とは思っていたが、ディルクはどうしてもあの味わいが忘れられなくなってしまったらしい。
「あはは!
そうだな、もしよければ、農作業を手伝って欲しい。
そしたら、次に収穫した時にいくらか分けてあげるよ」
「ほんと!?
手伝うだけでいいなら、喜んでさせてもらうよ! 」
もう、二つ返事だ。
よほどニンジンを食べたいのか、「ね、どうすればいいの!? 」と、さっそくクワを手に取ってたずねてくる。
気が早いと苦笑しつつも、穣司は、今は収穫を待っている最中だから、後で森から腐葉土を運び込むのを手伝って欲しいと頼んでいた。
土を耕して植え付けまでを行ってしまうと、実がなるまではけっこうやることが無かったりする。
毎日きちんと水分を与えれば、堆肥を加えられた土の養分を吸収し、後は日光の力で育ってくれるのだ。
今も、ちょうど水やりを終えて休憩しながら、さて、今日はなにをしようかと悩んでいたところだったのだ。
今すぐにディルクに手伝って欲しいことは残っていなかった。
「そ、そっかぁ……」
彼女は残念そうに馬耳を垂れさせたが、すぐに気を取り直して一緒に森に向かう約束を取り付けると、元気に手を振りながら去って行った。
そうして、翌日。
穣司は
「これを運べばいいんだね? 」
約束通り森まで一緒に来てくれたディルクはなんでもないことのようにそう言うと、「よいしょ! 」というかけ声で、腐葉土が詰まったカゴを軽々と持ち上げる。
ひとつではない。
ふたつ同時に、だ。
「えっ? ちょっ!?
そんなに持って、大丈夫なのかい!? 」
パワードスーツで安定的に運べる重量はおよそ百キロ程度。
だがディルクはその倍の重さを軽々と持ち上げている。
無理をしていないか。
穣司は慌てて止めようとしたが、返って来たのは不思議そうな視線だけだった。
「えっ?
別に、このくらいは全然、平気だけれど? 」
余裕たっぷり。
涼しそうな顔をしている。
その様子を目にしてしまうと、彼女はまったく無理をしていないのだと信じる以外にはない。
「は~、コイツは、驚いた!
ディルクさん、思ってたよりももっと、力持ちなんだな」
「あ~、初対面だとよく言われるね、ソレ!
見た目よりもずっと力持ちだ、って。
だけどね、ジョウジ。
ボクはもっともっと、力持ちなんだよ! 」
「というと? 」
「それはね~、ホラ、あそこ! 」
そう言って楽しそうにある方向を指さしたのは、コハクだった。
その先にあるのは、一本の倒木。
かなり太いし背が高く、その重さは数百キログラムもありそうな大木が森の木々の中に寝かされており、自然に朽ちて行くままにされている。
「あれ。あのおっきな木をね、ディルクさんが動かしてくれたの!
道が塞がれちゃって困っていたらね、すっごい力でどかしてくれたんだよ! 」
以前、コハクはディルクに助けてもらったことがあると言っていたが、どうやらあの大木がその時の倒木であるらしい。
「ふっふ~ん、すごいでしょ?
力仕事なら、ボクに任せてよ! 」
驚きの余り口を半開きにしている穣司に向かって馬耳の女性は得意満面だ。
「それで、これをみんなのお家まで運べばいいんだね? 」
「あ、ああ。
そうしてくれたら、次の収穫の時にニンジンを分けてあげるから」
「やった!
へへへ~、こ~んなに簡単なお仕事であんなに美味しいものが食べられるなら、何度だって手伝ってあげちゃうよ! 」
呆気にとられながらうなずくと、にへら、と口元を緩ませたディルクはさっそく、カゴをふたつ担ぎあげたまま歩き出す。
そしてその後を、森でまた果物をたくさん見つけたコハクが、嬉しそうにおしゃべりをしながらついて行った。
「いろんなケモミミがいるんだなぁ」
二人の後ろ姿を見送りながら、穣司はそう
自分とディルクでひとつずつ、という計算でカゴをふたつだけ用意して来たのだが、この調子ならばみっつ、いや、よっつでも持ち帰ることもできたのだろう。
これからも手伝ってもらえるのだったら、持ち運べる荷物の量は格段に増加する。
畑の面積をもっともっと広げたり、森を訪れて腐葉土を持ち帰る頻度を減らしたりできるかもしれない。
あるいは、すっかり馬耳の
とにかく、穣司たち開拓団には、頼もしい仲間が加わってくれたようだった。
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