勇者の命を狙うサブイベント令嬢ですが、前世の記憶を思い出したので命を狙うのを止めたら「なんで殺しに来ないんだ」と勇者に執着されました
めぐめぐ
第1話 私死ぬじゃん
それは唐突に訪れた。
私の記憶……じゃない。これは、私が私じゃなかった頃の記憶だ。
そう。
――前世と呼ばれるもの。
次の瞬間、私の手に衝撃が走り、振り下ろしたナイフが弾き飛ばされた。ほぼ同時に私の身体がぐらりと揺れ、おしりに衝撃と痛み、地面の硬さを感じた。
尻餅をついて痛む臀部をさすりながら、私は顔をあげる。
目の前にいるのは、滲んだ汗すら宝石と見紛うほどの美しい金髪の青年。細身ながらも、その服の下に鍛え抜かれた筋肉が隠れていることを、私は知っている。
ナイフを弾き飛ばした剣筋は早すぎて、私には見えなかったが、これが彼の通常動作だということも知っている。
そして――彼の名と役割も。
彼の名前はジークフリード。
家庭用ゲーム機用に発売された、少し昔を思い出す王道RPGゲームの主人公であり、ゆくゆくは魔王を倒して勇者と呼ばれる存在だ。
そして私は――
剣が鞘に収められる音が聞こえ、私は意識を今へと戻した。
視界には、私を捕まえようとする仲間を手で制止、こちらに向かって微笑みかけるジークフリートの姿が映る。
形の良い唇が、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「君の悲しみが癒えるまで、僕は何度でも君の凶刃を受け入れるよ。それが……君の父上を殺してしまった僕の償いだから」
優しい言葉だ。
自分を殺そうと刃を振り上げた相手に向かって言える発言じゃない。
ジークフリートは王道RPGらしく、懐が深く、慈悲深い青年なのだ。
今までの私なら、憎々しげに頬を引き攣らせながら、
「……首を洗って待ってなさい、ジークフリート。お父様を殺したあなたを、私は絶対に許さない‼」
と言って立ち去るんだけど――
「ア、ハイ。いや、な、なんか今まですみませんでした! ごめんなさいっ! 今までの凶行、ほんっっっっっっと許してください‼」
それだけ言うと、私は一目散に立ち去った。
私が立ち去る直前、微笑みからポカン顔になったジークが、
「え、あ、ちょっと……」
と言いながら、手を伸ばす姿が見えたけど、それに構っている心の余裕も時間もなかった。
このままいけば、私死ぬじゃん。
ジークが父を殺したと勘違いした私は、彼の命を狙い続け、それに目をつけた悪の組織が私と接触し、最終的に悪の組織に裏切られて私、殺されるじゃん。
死亡エンドが確定しているサブイベント令嬢リタ・クラインが、今世の私。
前世で過労死した私に、そりゃないでしょうよ、神様ぁぁぁ‼
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