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あなたは至って平凡な学生です。特筆するような特徴も特技もなく、可もなく不可もない学生生活を送っていました。
学業も可もなく不可もなく。ちょっと成績が悪ければ母にガミガミ言われ、ゲームを少しの間禁止されたり、成績が良くなるとお小遣いにほんのちょっと色がついたり。今時珍しくもない一人っ子の家で、わがまま放題をしているわけでもなく、家は極端に貧しいわけでも裕福なわけでもありません。平凡すぎて、日記の内容が「今日も平和だった」で終わるような生活をあなたは送っていました。
過不足のないこの生活をあなたが不満に思ったことはありません。それは、平凡すぎて少しばかり刺激がほしくなることはありますが、ゲームセンターにでも行けば済む程度のものです。あなたはリズムゲームが好きですが、高難易度でフルコンボをするほどではなく、普通の難易度でクリアできれば満足な感じです。
本当に変わったところがなくて、自己紹介をするとき毎回違う紹介をします。
そんなあなたの身近で、最近変わったことといえば、同級生が一人、行方不明になったことでしょうか。その同級生はあなたとは違い、異常な家庭で過ごしているのが一目でわかるような子でした。いつも暗い顔をしているし、どんなに暑くても長袖だし、たびたび顔に絆創膏やガーゼを貼りつけていました。おそらく虐待を受けていたのでしょう。
けれどその同級生は不幸ぶることもなく、淡々と、何事もないかのように学校に来ていました。驚くくらい勉強ができて、驚くくらい運動ができて。なんでこんな子を虐待なんてするんだろうな、とあなたは他人事ながらに思っていました。
人様の家庭に口を出すなんて大それたこと、あなたはできないと思っていましたし、暴力が恐ろしくもありました。あなたはただの学生なのです。特別な能力もなければ、特別な知識もありません。持たざるものは無力なのです。
とまあ、特別気にかけていたわけでもないのですが、目立っていた同級生が消えると、胸がなんだかざわざわしますし、実際クラスはざわざわしていました。色々な噂が泡のように浮いては消えていきます。
とうとう殺されてしまったとか。
とうとう自殺してしまったとか。
どこかに逃げたのだろうとか。
それはもう色々と。死んでもおかしくなかったですし、世を儚んでも不思議ではありません。逃げ延びているのだとしたら、思っていたより逞しいかも、とあなたは思いました。
そんな中、ある噂があなたの耳に留まります。
「連れて行かれたんじゃない? 例のラジオに」
ラジオ? と思ってあなたは聞き耳を立てました。
「ラジオって……ああ、最近噂の都市伝説?」
「そうそう、変なテンションのラジオパーソナリティが話しかけてきたらラジオの中に取り込まれるって話」
都市伝説とは胡散臭い。見ればその話をしていたのはオカルト好きで有名な同級生でした。なるほどなるほど。
オカルトなだけあって、変な話です。なんですか、ラジオの中に取り込まれるって。とあなたは呆れてその話を忘れていました。
帰り道、座った公園のベンチの横に古びたラジオが現れるまでは。
「今宵も始まるミラクルナイト……曇った夜空に……シューティングスター……あ、ラジオパーソナリティです……どうも……」
台詞は陽気なDJみたいなのに滅茶苦茶陰気な声がして、これは確かにテンションがおかしい、とあなたは思いました。まあ、テンション高く言われても、テンションがおかしいことに変わりはないのですが。
「あの……何故そんなに驚かれているんですか……?」
「喋った!?」
「ラジオなんですから当たり前でしょう」
それはそうですが、視聴者と直接会話するらしいが一体どこの世界にあるというのでしょう。
「ああ、これはこのラジオの仕様でして」
どんな仕様だ、とあなたは思いましたが、さして興味が湧きませんでした。
そこまで説明を受けて、あなたはあれ、と思いました。パーソナリティの声に聞き覚えがあったのです。
けれどどこで聞いたのか、なかなか思い出せません。
あ、そうだ、とあなたはラジオに話しかけました。
「あのさ、もしかしてあなたが噂の都市伝説のラジオ?」
「都市伝説、なんですか?」
「又聞きだけどね。変なテンションのラジオパーソナリティがラジオから声をかけてくるんだって。最近学校で同級生がいなくなって、そのラジオに連れて行かれたって……」
「ラジオに連れて行かれる……都市伝説ということは、心霊現象のようなものなのでしょうか」
あなたは肩を竦めました。
「さてね。もし、ラジオに連れて行かれるっていうのが、あの世に行くってことなら、あながち悪いことでもなかったかもしれないよ」
あなたはその同級生が親から虐待を受けていたと話しました。
「死んで救われたんじゃない? 暴力を振るう親のところに戻ったって」
「そんなの」
パーソナリティがあなたの言葉を遮るように告げます。
「死んで救われるかどうかなんて、死んでみないとわからないじゃないですか」
その言葉にあなたの背筋に悪寒が走りました。まるで死んで試させようとしているかのように聞こえたのです。
それにあなたは思い出しました。パーソナリティに声をかけられたら、連れて行かれる──
「ゲストの方、ありがとうございました。ではまた次回」
ぶつん。
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