あなたはサイコパスと呼ばれました。

 とても明るく、カリスマがあり、クラスの人気者でしたが、動物を殺すことに快感を感じる異常者でした。カエルの解剖なんて楽勝です。

 人とは違う考え方を持つが故に、人に理解されないあなたは、けれど孤独ではありませんでした。自分が楽しければそれでいいので。

 楽しいままに、あなたは事業を立ち上げ、成功し、充実した生活を送っていました。

 そんなあなたですが、所帯を持つことだけはしませんでした。家族なんて面倒なだけです。家族でさえ、自分のことは理解してくれませんでした。というか、理解するのを放棄されており、半ば絶縁状態でした。

 別にそれを悲しくは思いません。人間という生き物の思考回路を解読するのは面白く、何をしたら怒るか、何をしたら悲しむか、何をしたら笑うのか、自分に理解できないものを見るのが楽しかったので、あなたはウィンウィンだと思っていました。

 人間の感情の機微というものを家族で観察したあなたですが、だからといってそれを理解したわけではありません。自分以外は全て他者なので、理解できなくて当然ですし、理解する必要性をあなたは感じていませんでした。

 そんなあなたは会社のトップに立っててきぱきと仕事をこなす一見すると素晴らしい人間です。その実力と不思議な倫理観が醸し出す魅力に釣られる人々は多くいました。

 そんなとき、あなたに言い寄る異性が現れたのです。これがあなたの人生の分岐点だったと言えるでしょう。

 あなたと本気で結ばれたいと言い寄ってきた人物はあなたの会社の社員でした。あなたは所帯を持つ気は相変わらずなかったのですが、あることを試したくなり、その人物と交際を始めることにしました。

 その相手の執着のすごいことすごいこと。あなた以外考えられない、好き、愛してる、果てにはあなたのためなら死んでもいい、とまで言って、その睦言を懸命にあなたに聞かせました。

 そこであなたは相手に問います。

「死んでもいいなら死ねるよね?」

 そうして、あなたはその人物を殺したのです。

 愛のために死ねて、本望なのかどうなのか、あなたは事切れる間際まで観察しました。何故かその顔には絶望やら失望やらが宿っていて、あなたはおや? と思いました。

 死んでもいいとは嘘だったのでしょうか。嘘なら何故そんなことを言ったのでしょう。まあ嘘つきは死んでもいいですよね。

 と、まあ、恋する人間の感情の機微の研究をあなたは始めたのです。殺人は研究の延長線上にあるだけ。とても楽しい研究でした。

 けれどそろそろ飽きてきたなあ、と細切れにした死体を海に捨てた帰りに、あなたは歩いておりました。人気のない道です。それはまあ殺人の隠蔽を行ったのですから、人気はありません。

 そんなとき、道端の廃屋から、ザザ、とノイズがしました。ラジオでしょうか。ああ、そろそろ前の殺人がバレた頃かと思い、あなたはニュースでも聞こうと廃屋を探索することにしました。

 そこそこな豪邸であっただろう廃屋の吹き抜けの中央になんとも古風なステレオラジオがありました。ざあっとノイズが流れているので、周波数が合っていないのでしょう。あなたはラジオに手を伸ばしました。

 すると。

「今宵も始まるミラクルナイト……曇った夜空にシューティングスター? どうもラジオパーソナリティです。これでいい?」

 いやいやそんなことを聞かれましても。というか思い切りミステイクのラジオが流れてきたではありませんか。ラジオパーソナリティはものすごくやる気がなさそうです。

 ニュースなんてどうでもよくなりました。何せそんなものより面白いオモチャを発見したのですから。フレーズだけならウケがよさそうなのに、パーソナリティのやる気のなさで台無しなラジオ。面白すぎるとあなたは思いました。

 ラジオの隣にちょこんと座ると、あなたはラジオの続きを待ちました。するとパーソナリティのぼそぼそとした声が聞こえてきます。

「あの、あなたに聞いているんですけど」

 ん? とあなたは首を傾げます。この廃屋には見たところ自分しかおりません。パーソナリティの言う「あなた」とはもしや自分のことなのでしょうか。

 あなたは自分を指差し、再度首を傾げました。

「あなた以外誰がいるっていうんですか?」

 ラジオから返事が返ってきます。あなたは驚きました。ラジオと会話ができるなんて、普通はないことですからね。

 もしかして、隠しカメラでもあるのかと思いましたが、全くそんな気配はありません。パーソナリティからも「カメラなんてありませんよ」と指摘される始末です。

「ところであなたはどうして人を殺すんですか?」

 唐突な質問に、あなたは目を丸くします。あなたの殺人は今のところ世の中にバレていないのです。

 ただまあ、このラジオパーソナリティとやらが尋常でないことはわかっていましたから、あなたは肩を竦めて答えます。

 自分のためなら死んでもいいと言う者たちが、本当に自分のために死んでもいいと思ってくれているのか、観察し、研究しているのだ、と。

「死んでもいい、ですか……」

 考え込むように沈黙するパーソナリティにあなたはからからと笑いながら告げました。

「でも不思議だよねえ。死んでもいいっていうから殺したのに、みんな不本意そうな顔するんだ。死にたくないなら最初からそんなこと言わなきゃいいのに」

 あなたの言葉を聞き届けると、パーソナリティが疑問を投げました。

「本当に死んでいいのかどうかなんて、死んでみないとわからないんじゃありません?」

「ほう?」

 あなたは興味深く思って続きを促そうとしましたが、何故か意識がぶつんと途切れました。

 最後に聞こえたのはパーソナリティの相変わらずやる気のない声。

「ゲストの方、ありがとうございました。それではまた次回。さようなら」

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