一冊のノート

祇斬 戀

賃貸


「このマンション、騒音トラブルが多くてね。前の住人も、上の階の音でノイローゼになったとか――」


不動産屋が苦笑いしながら鍵を渡してきたとき、ユカは少しだけ胸に違和感を覚えた。


けれど、家賃が相場よりかなり安い。都心でこの条件なら、多少の騒音は我慢できる――そう思った。


引っ越して3日目。

ポストに差し込まれた一冊のノートが、ユカの平穏を壊し始めた。


表紙にはただ一言、「記録」とだけ書かれている。


ページをめくると、日付と共に、ある人物の行動が分刻みで書かれていた。


7:13 起床

7:15 水道使用音

7:17 トイレ

7:23 冷蔵庫を開ける音


まるで、誰かが一日中、彼女の生活を見張っているようだった。


だが、その記録は――まだ、ユカがこの部屋に引っ越す前の日付から始まっていた。


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