第1章 幼少期編

第1話 適応

 この世界には適応試験というものがありました。12歳の誕生日にすべての人間が受けなければいけない義務。


 それはわたくし、ヴィリアス=エクソシア公爵令嬢とて例外ではありませんでした。


 わたくしは他の人に比べて感応器官というものが大きいのだそうです。お父様もお母様もわたくしの試験の結果を楽しみにしています。必ずよい結果を出さなければいけません。


「ではお嬢様、コックピットへどうぞ」


 爺やに導かれるまま、わたくしはシートに腰を下ろします。


「両手で操縦桿を握り、ペダルに足を置いてください。落ち着いてやれば大丈夫です、お嬢様」


「ええ。大丈夫です」


 そう言いながらもわたくしは不安でたまりませんでした。コックピットのハッチが閉められ、機内の光は正面にあるマギコークスクリスタルの輝きだけになりました。


「ではお嬢様。適応試験を開始します」


「はい」


 機内に設置されたスピーカーから爺やの声がします。握った操縦桿から何かを吸われているような、それでいて体が熱くなるような、不思議な感覚がわたくしの体を襲いました。


 しかしそれは嫌ではなく、むしろ……。


「きもち……いい……」


 私の視界がに染まりました。それからのことは……。



◇────────────────◇



 いやぁ驚いた。目を覚ますと何かの乗り物の中に居たのだから。そしてとてつもなく頭が痛い。頭の中がぐちゃぐちゃだ。


「お嬢様! お嬢様!」


 外野が何やらずっと叫び続けている。外野じゃなくて爺やか……。


 あー……これ、MAマギアスピーダの中じゃないか? なんか見たことあるぞ。右足のところに緊急開放装置があるんだっけ? なんか赤い引っ張るレバーみたいなやつが……。


「あったあった。おい、開けるぞ! ハッチから離れろ!」


「お、お嬢様!?」


 これって爆発して開くやつなんだよな?


 俺が……いや、わたくしが? 必死にクソ固いレバーを必死に引っ張ると、ボグン! と無駄にいい音を鳴らしながらハッチが吹き飛んだ。うるさかったやつらもちゃんとハッチの前からどいていたらしい。


「おぉ~?」


 俺がハッチから出ると、腰から上と頭部、肩にコックピットだけがついたMAが固定されたボルトをすべて引きちぎり、今にも飛び出しそうな姿で静止していました。


「ちゃんと固定してなかったのか?」


「お嬢様! ご無事で!」


 ん? 爺やでっか……。 あれ? そういえば俺の背が低いし、手も細いような……?


「とにかく御屋敷に戻りましょう! お車へ!」


「……新聞を一部もらえ……ますか?」



◇────────────────◇



 新聞の名前がセントキング聖王誌ねぇ……。


 乗ったこともないような高級車の後部座席に押し込められた俺は、そのふかふかのシートに埋まりながら新聞を読んでいた。いました。


 『ウィングリー寮第3機動部隊 新鉱床を確保 しかし所属不明部隊に攻撃を受ける』か……。


 ……ここ「カルヴォノ・マギストリア」の世界じゃないか? そして俺はヴィアリス=エクソシアっぽいな……。


 夢なら早く醒めて欲しいんだけど……。


 細い指で新聞をめくるたびに、カルヴォノ・マギストリアの世界だという確信が深まっていきます。


 カルヴォノ・マギストリアは簡単にいうとロボ鬱エロゲーだ。そしてわたくしは現在そのロボ鬱エロゲーで悲惨な末路を辿る悪役公爵令嬢らしい。


 んー……まだ醒めないか?


 カルヴォノ・マギストリアの世界は、すべてがマギコークスという物質に依存している世界だ。燃料になるタイプの物質なのですが、それは魔獣を倒すか、世界に1ヶ所しかない「スポット」と呼ばれる特殊な場所からしか産出しない。


 ちなみにマギコークスを掘り尽くしてしまった場合、人類の文明レベルは中世レベルにまで後退するだろうと言われている。この世界には化石燃料がないっぽいしな。まぁスポットから無限湧きしますからそんなことは起こりえないのですけれども。


 そこで5大国家はスポットを囲むように拠点を設置し、そこに合同で学園を……。


「お嬢様、到着致しました」


 やっぱり醒めないか……。



◇────────────────◇




 おはようございます。とても頭が痛いです。


 しかし痛みはありますが、なんだか頭の中が鮮明になってきたというか……馴染んできたというか……。


 やはりわたくしはヴィアリス=エクソシア。エクソシア公爵家の娘です。そしてこの頭痛にも覚えがあります。これは感応器官への過負荷が原因でしょう。


 目を閉じてしばらく待っていると、段々と頭痛が治まってきました。そして、感応器官が脳の中で動いているのがわかります。目を閉じていてもが見えると言いますか、なんだか不思議な感じが致します。


「お嬢様、おはようございます。ご気分はいかがですか?」


 静かにドアを開け、わたくしの専属メイドのサラが入って来ました。彼女は水差しとコップの置かれたトレイを持っているようです。


 くびれた腰に結い上げた黒い髪。見えるうなじがとってもセクシーですわ。


「どうされました? 具合が悪いのですか?」


 目を開けない私の顔を心配そうに覗き込むサラ。すごいです。目を閉じていてもすべてがわかってしまいます。……というか見えないものまで見えてしまいます。望遠鏡なんて不要ですわ。


「サラ、あなた何を胸に巻いていますの?」


「え? お嬢様?」


「何を巻いているのかと聞いているのです!」


「えっと……これはサラシでして。私、胸が大きいので、その……邪魔で……」


 それは大変ですわ! 由々しき事態ですわ!!


「あなた、主人をたばかっていましたの? ちょっとこちらに来なさい!」


「お、お嬢様? どうなさったんですか? 適応試験の後遺症ですか? 主治医を及びしましょうか?」


 心配そうな顔をして近寄って来たサラを、わたくしはベッドに引きずり込みました。専属メイドが巨乳美人なのが悪いですわよね!? 

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