第34話 白雉元(650)年 難波味経宮
大化六年の賀正礼は、建設途中の
「同様の瑞祥は、
機嫌の良さを隠さない大君は、招待客に
「これは
父は心なしか安堵の視線を法師に送る。大君の機嫌取りならば、法師の方が巧くやってくれるだろう。
「君子の威徳が四方に
このような愚痴を
それにしても、宴に出席する人々を見回して思う。倭国にはこれ程の異国人がいるのか。上席に座る者の殆どが、異国人かその子孫だ。異国系の者は、武官の席にも少なくはない。感心している私自身は、誰から見ても紛う方なき異国人か。何やら奇妙で複雑な気分だ。
息の詰まる内裏での宴は終わる。
兵士らに見守られながら
「やはり、
思わず怪訝に顔を向けると、案の定、知った顔が白々しく笑いかける。一連の儀式も済み、父達とも別れて安心していた矢先だ。着慣れない衣などさっさと脱ぎ棄てたいと思っているのに、話の長くなりそうな相手に捕まるのは御免被りたい。
「ああ、誰かと思えば」
久々に現れた大きな男に、私は正直、
「それは百済の王子の衣ですか、良う御似合いです」一応、愛想を言う。
「ああ、ありがとう。
「昨年の冬です。難波の屋敷を建て直し、それを機に戻って参りました。再び、大君や
この男の
「それは喜ばしい。大君には既に御会いしたのだな、その服装から見るに」つい皮肉が出る。
戻って来たのが昨年の冬、今ここで新しい朝服を着ている。とうの昔に謁見し、働きに相応しい衣冠をもらった証拠だ。
「大君も大兄皇子も、私の事をおぼえていて下さいました。おまけに大君からは、
何処までが本気なのか、この男の口から聞くと信じ難くなる。名前と共にもらった位は
それにしても、大花下の衣と百済の賓客が、人より大きな
「全くもって目出度い限りだ。時に鎌足、御身も朝からの儀式で疲れておられよう。正直、私も目の回る思いだ。今は早々に家に引き上げて休みたい。御身は如何なものか」わざわざ、取って付けたような言葉で言う。
「然様にございますな。では、いずれ日を改めて、御屋敷の方に伺いとう思います。如何なものでしょう」負けじと鎌足は言い返す。
「ああ。私も今のところは身が空いている。いつでも参られよ」安請け合いに言ってみるが、正直なところ歓迎はしていない。
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