第27話 大化二(646)年 飛鳥小墾田宮
元号を定めて最初の正月、
しかし遷都とは申せ、難波の地には離宮と呼べる整った施設もない。以前に私の家族がいた
今少しの間は飛鳥に留まり、
「
「
朝参に続く
「
「そうか。で、
「
「三輪に帰る前に、
「畏まりました」
この日、小墾田宮には先客がいる。
「今更、言う事でもありませぬが、
「ええ、その通り。間人の様子を見ていれば分かりますとも。采女の噂など聞かのうとも」伯母は更に機嫌が悪そうだ。
白梅がたわわに咲いて、日差しも暖かい。二人は中庭に席を置いて、控える采女らの目や耳も気にしていない。私の顔を見ると、話に加われと席を用意させる。更に詳しい状況を聞きたい気持ちはあるが、采女らの興味津々の視線以上に、怖気で口を挟めない。
「間人自身が大君と並ぶ事を拒否しているのですか、やはり」葛城は問う。
「ええ。でも、
こうした批判は、実のところ王宮の内でも囁かれる。この状況を良しとする者は滅多にいない。
「他者の批判など何するもの。大君のする事は正しいか。
同母兄だというのに、単独では間人との面会が敵わない。相変わらず、年季の行った采女集団が阻んでいる。これに対抗できるのは皇祖母尊だけと、二人で昨年末に乗り込んだ。その後は、間人から母親に来て欲しいと何度か要望があった。伯母としては、同母弟に会うのも夫人らの顔を見るのも気が進まない。しかし、娘を思う母親として訪問する。そして噂では、年季入りの采女集団は既に懐柔済みだという。
この後も伯母は、悪口同然に同母弟の娘に対する態度を心配する。さすがの葛城でも辟易としてきた様子で、適当な所で別の話題に切りかえる。
「
「あの子でしたら、
あれ以来、
「それならば、もう少しここにいる事にするか」取ってつけたように葛城は頷く。
そして采女たちを見回し、聞かせたくない話があるから外せと、露骨に命じて追い払う。
「何なのです、聞かせとうない話などと」伯母が怪訝に問う。
「豊の資人の事ですよ」葛城は軽く応える。
「いや、田来津は父の資人だが」私はようやく口を挟む。
「そう、
「
「蘇我の
「ああ。死を覚悟した妃が、
殺された二人の
そして秦田来津の身柄は、大臣らが引き渡しを求める前に、私が河内へと連れて行った。父――
「その田来津だが、私の帳内に譲って欲しい。
「頼むのは
「ああ、そうだ。それに叔父御につまらぬ手出しをさせぬためにも、二人とも私の手元に置いた方が良かろう」何故なのか、嬉々として言う。
「
「それでは姫王と近過ぎます。田来津がいつも傍に居るのでは、他の者らが拒否される状況を長引かせるだけです。私の元ならば、近過ぎず遠すぎずです」更に自信満々に葛城は言う。
「まあ、分かるような分からないような理屈ですね。好きになさい」
「皇祖母尊の御許しは出た。次は糺解に許しを請わねばならぬな」
「父ならば、今日は俺の屋敷に滞在する予定だが」
「それは好都合だ。私も三輪を訪ねるとしよう」
葛城が一人で納得するのも、何やら癪に障る。とは申せ、田来津が葛城の帳内となる事に反対するいわれは毛頭ない。むしろ、願ったり叶ったりだ。
「御身の目的は、田来津を
「そこまで悪趣味ではないよ、私は」鼻先で笑ってくれる。
「そうか。それで、実のところ御身は賛成なのか、難波への遷都は」
この唐突に発した問いに、葛城のみならず伯母の目も私に向く。
「さて、まずは御手並み拝見だな、
この男がこの笑いをする時は、大抵、良からぬ事を考えている。
「しかし、
「喧嘩な。まあ、これで以前よりは目を付けられるな。だが、御身の邪魔はせぬようにする。御身としては、この喧嘩、受けて立つのであろう」
「勿論だ。まあ、まずは持久戦だが。叔父御と周囲に綻びが生じるのを待つ。その気を見逃さぬ。御身も注意して見ておけ」
伯母は嬉々とした葛城を困ったように見る。しかし、この表情は否定ではない。何かを期待している、私には確信的に見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます