第28話 そそのかされたローズリン
サリナとローズリンは宴の席からすっかり浮いており、キョロキョロと辺りを見回しながら、話しかける相手を探していた。ハーランド第二王子は獲物を見つけたキツネのように、ほくそ笑みながらローズリンに近づいた。
「やぁ、ローズリン嬢もアナスターシア嬢と一緒に社交界デビューですか? 以前に比べて肌も綺麗になったのに、ずいぶん浮かない顔をしていますね? 妹が第一王子妃になるのです。もっと嬉しそうにしていなければ、また悪い噂がたちますよ」
「嬉しそうな顔ですか? できそうもありません。だって、私だってカッシング侯爵の娘なのに、なぜアナスターシアだけが良い思いをするのか。不公平すぎます」
(これだよ、僕の聞きたかった言葉は。いいぞ、いいぞ。もっと、アナスターシアを憎め)
「やはり、ローズリン嬢はカッシング侯爵の娘だったのですね? アナスターシア嬢よりずっと気品があると思っていました。本来ならローズリン嬢はカッシング侯爵家の長女の立場です。それなのに、アナスターシアが跡継ぎ娘に決まっている。彼女は欲張りすぎだと思いませんか? いずれ、カッシング侯爵家もマッキンタイヤー公爵家も継ぐ立場なのに、第一王子妃にまでなろうとしている。ひとつぐらいローズリン嬢がもらってもいいと思いませんか?」
「えっ? 私はなにをもらえばいいのですか?」
「バイオターシア商会ですよ。カッシング侯爵邸の研究室に忍び込んで、今までの薬の原材料の配合比率や化粧品の製造・開発に必要な情報を盗み出すのです。おそらく、これから売り出そうとしている新しい化粧品や薬のサンプルもあるはずです。それをいただいて、ローズリン商会を作ればいい。アナスターシアの薬や化粧品よりずっと高価な瓶に詰めて、倍の金額で金持ちだけに売るのです。君はローズリン大商会の会長となり、アナスターシアの商会を潰すんだ! これからはローズリン嬢が社交界の花形になる!」
「凄いわ、素敵。でも、アナスターシアに『温室と研究室はとても危険ですので、決して入らないでください』と言われています」
「バカだな。それは単なる脅しですよ。大事な情報をあそこに隠しているから、誰も近づかないように言っているだけです。なにが危険なのか聞いてみましたか?」
「いいえ。なにも教えてくれないわ。ただ、危険だから決して入るなと言われただけです」
「だったら、それは、はったりさ。虚構とか誇張。つまりホラだよ、大嘘なのです」
ハーランド第二王子はそう決めつけると、クスクスと笑った。だが、ローズリンはまだ迷っていた。
「君は第二王子妃になりたくないかい? アナスターシアに続いて、ローズリン嬢も王族になるんだ。妹に負けたくないですよね? 必要な情報を僕にくれたら、君を妃にしてあげても良いと思っています」
「わかりました! 私やるわ。あの研究室に入ってみます!」
ローズリンの顔がパッと輝き、頬を赤く染めた。
「あぁ、ローズリン嬢ならできます。貴重な情報を全部持ってきてください。それから、バイオターシア商会の化粧品を粗悪な物に偽造して評判を落とす作戦も考えましょう。これからはローズリン嬢の時代です」
(まずは、アナスターシアを潰してやろう。あの高慢な美しい顔が悲しみと悔しさに歪む顔を早く見たいよ)
ハーランド第二王子はニヤリと笑ったのだった。
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