第24話 到着

 姫様が手作りしたスープを飲んでからというものイクトはどうにか姫様の姿が見れないかと思案していた。


 どうして姫様のスープはユイナのスープと同じ味がしたのだろう?


 厳密に言えば違う。イクトの部屋でユイナが作ってくれるスープよりも使ってる素材の違いなのか上品な味だと思った。

 しかしイクトは姫様のスープがユイナのスープと同じであると感じた。


 ユイナがあのスープのレシピを習った人と姫様に教えた人が同じなのか?

 しかしそれでもユイナのスープと思うだろうか?

 姿が見れれば、どんなに着飾った姿であろうがユイナなら分かる。間違える筈はない。

 それに冷静に考えてみれば


 僕はユイナ ユータランティア様の姿を見た事がない。

 ユイナが明日は来れないと言った場合は


「見れないけどキチンとこなしてね。」


 と言ってきつめの訓練メニューを渡されていた。僕が強くなるのにユイナが考えてくれたメニュー。サボる事は無かった。

 けれど、考えてみればユイナが来れない日は姫様が公の場に現れる日だったのでは?


 考えれば考える程にユイナがユイナ ユータランティア様であるように思えてくる。



 ◇◇◇ユイナside◇◇◇

 「ユイナ様。何やらイクト様の様子がおかしくないですか?」

 「そうなのよ。ファナにも分かったんだ。どうしたのかしら?」

 「どうもしきりにこの馬車の様子を伺っているように感じます。」

 「姫である私の事が気になるのかしら?ユイナとしても姫としてもイクトの気になる存在だなんて罪な女よね。」

 「それはユイナ様的にはOKなのですか?」

 「何故?」

 「イクト様はユイナ様の正体を知りません。という事は他の女に興味を引かれている。となりません?」

 「んー。確かにそうかも……。でもイクトは姫である私を見た事も無いからどんな姿か気になっただけかも。」

 「確かにそうですね。顔も性格も知らないような相手に好意を向けるなんてあり得ませんね。」

 「となると、やっぱりどんな人か気になっただけでしょうね。」

 「そうですね……。とりあえずは今までよりも気をつけないといけませんね。」

 「そうね。」


 果たしてイクト様がそんな理由でここまで気にするでしょうか?

 それとも何かに気づいた?いや、それはあり得ません。姫としては冒険者に1つも接点をもっていない。

 唯一あるのは料理でしょうが、料理のな関しては普段のモノとは違う食材に調味料を用意してあった。私も食べましたが、普段イクト様に出した物とは別物。流石にこれで気づく筈はありません。

 どちらにしろ姿を見せないように注意して様子を見るしかありませんね。



 ◇◇◇イクトside◇◇◇

 「ついに隣国のヒュストブルクが見えたぞ。」

 「あれが……」


 まだ先ではあるが巨大な壁が見える。その壁の奥にはその壁に負けじとそびえ立つ2本の塔。その塔に挟まれるように荘厳なお城の姿が見える。


 「凄く大きいですね。」

 「そうだな。ヒュストブルクは歴史の長い国だ。幾度も魔物の進行を食い止め歴史を紡いで来た。我が国の前身、ランティア王国が滅ぼされた時には市民を受け入れ、また新たにユータランティアとして建国された時には少なくない助力があったそうだ。」

 「そうなんですね。」

 「我が国王もこの国には多大な恩を感じているという。今回のユイナ様の訪問はヒュストブルクから希望されたそうだ。普段は内政が忙しいのもあってなかなか外交に向かう事のないユイナ様だが、今回は国王のたっての希望で向かう事となったのだ。」

 「そうだったんですね。確かにユイナ様が国から出られたという話は聞いた事がありません。」

 「そうだな。事実ユイナ様が国を出られたのは今回が初めてだ。それもあってユイナ様には婚約者がなかなか決まらないのだがな。今回で良き縁があれば良いのだがな。」

 「はあー、婚約者か……。」


 婚約者と聞いてイクトは胸がチクリと痛くなる。


 ユイナに婚約者……。王族としてそれは必要な事なのだろう。しかしユイナと姫様。同一人物として疑っている今、それを素直に喜ばしい事とは思えない。


 「もしそうだったら身分違いでどうにもならないのだろうにな。」


 イクトの呟きは誰に聞こえる事もなく虚空へと消えていった。


ーーーーーーーーーー


 「さて、これからランティア騎士団はユイナ様と共に王城へと向かうのだが、そこへは冒険者は連れて行けない。」

 「はい。」

 「なので打ち合わせ通りにこの城下町で過ごしていてくれ。明日の出立は朝からを予定しているが遅れる可能性もある。事前に分かれば手配した宿に。そうでない場合は申し訳ないが待ち合わせのここに使者を出す。」

 「はい。問題ありません。」

 「大丈夫アル。」

 「まあ、今日は休暇だと思ってのんびり過ごしてくれ。」

 「ありがとうございます。」

 「それでは。」


 ガストンはそう言い残すと馬車に乗り城への道を進んで行った。


 「さて、先に宿に荷物を置くとしてそれからどうするアルか?」

 「そうですね……」

 「観光しても良いし、武具店を見て周っても良いアル。ここにはユータランティアよりも良い質の武具も有るヨ。」


 確かに違う国の装備を見るのには興味を引かれる。それにギルドに行ってどんな依頼があるのかを見てみたい気もする。


 「ヤオさんはどうしたいですか?」


 そう聞きながらもイクトはユイナの事を考える。

 城に到着したら流石に姫様も馬車から出て来る。その時が見るチャンスだ。


 しかしそれには城に忍び込む必要がある。護衛でついて来ていた冒険者が城へと忍び込むのはかなりマズイだろう。

 実行には移せない……。


 「観光…ってのも悪くはないアル。イクトはこの国初めてネ?ここにはドラゴンの爪痕が残った建物もあったり、その近くには遠くまで見通せる高台もあったりするネ。」


 イクトと観光デート……。それはそれで悪くないアル。

 高台は後で知ったアルが、恋人の丘と呼ばれているネ。

 前に私1人で来た時は周りはカップルだらけで居心地悪かったアルけど、イクトと行くならそんなそんな事もないだろうし、雰囲気次第ではチュウくらいならしても良いかもアル。


 「ドラゴンの爪痕かあ。」

 「やっぱり冒険者としては気になるアルね。」

 「そうですね。いつかは戦って勝ちたいと思う相手ですよね。」

 「イクトはドラゴンスレイヤーを目指すアルか?」

 「いつかはなってみたいですね。」

 「そうね。それには並大抵ならぬ努力に才能。そして運が必要ネ。その点イクトは恵まれてるネ。こんな可愛く強いヤオちゃんが師匠なんだから。」

 「そうですね。」

 「ナハハ。冗談アル。けどドラゴン相手に気は有効ヨ。気ならばドラゴンの鱗を貫通してダメージを与える技があるヨ。」

 「本当ですか!」

 「多分ネ。」

 「多分って……」

 「けれど鎧を着た相手に鎧を傷つけずに内部にダメージをあたえる技がアルね。これを使えばドラゴンの鱗も同じ事ネ。」

 「決めました!昼まではこの街の中を見て周って、昼からはその技を教えて下さい!」

 「ええ!?」

 「駄目ですか?僕にはまだ早いとか?」

 「いや、そんな事はないアルが……」


 まさか違う国に来てまで修行をしたがるとは……。

 イクトらしいと言えばイクトらしいネ。


 「分かったアル。教えてあげるヨ。その代わり!」


 ヤオが前屈みになり人差し指を突き出す。


 「今晩はイクトの奢りアルよ?」

 「もちろんです。ありがとうございます。」

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