第22話 護衛任務(打ち合わせ)

 この日イクトとヤオはお城へと来ていた。護衛任務の打ち合わせの為である。


 「君たちがギルドから来たパーティー名ラピスの?」

 「初めまして!イクトです。」

 「ヤオネ。」

 「そうか、そうか。我輩はランティス騎士団のガストンだ。」

 「よろしくお願いします。」

 「ふむ、まあそう畏まらずとも良い。我々は姫様を護衛する仲間だ。共に励もうぞ!」

 「はい!」

 「して、イクト殿がEランク。ヤオ殿がBランクか。」


 ガストンは書類に目を通しながら呟く。


 「ヤオ殿の戦闘スタイルは?」

 「私は格闘家ネ。近接戦闘アルよ。」

 「イクト殿は?」

 「僕は剣と魔法、それと格闘を練習中です。」

 「なるほど。満遍なくといった感じか。魔法の才があるのならなぜ魔法を鍛えない?」


 この世界では魔法の才能があれば魔法だけに特化して才能を伸ばすのが基本である。


 「僕は冒険者として出来る事は何でもしようと考えています。」

 「ふむ、そうか。しかしどれもが中途半端になりそうだがな?」

 「仰る事は分かります。けれど魔物の中には物理攻撃が効かない相手や魔法攻撃が効かない相手もいると言います。」

 「確かにそうだ。」

 「全てに対応出来るようになりたいのです。」

 「1人で対応する必要はなかろう?その為のパーティーだ。」

 「そうですね。けれどどれにでも対応出来た方が選択肢は広いです。」

 「ふむ。まあ確かにそうか。まあ考え方はそれぞれだ。後悔の無いようにな。」

 「はい。」

 「それから2人の配置だが、Eランクであるのなら下手に前に出るよりも後ろの方が良いであろうな。ならばヤオ殿もイクト殿と馬車の後方の護衛を頼みます。」

 「前でも構わないアルよ。イクトはEランクだけどホブゴブリンの討伐にゴブリンの集落の駆除の経験もあるヨ。」

 「なんと!?それがまことなら凄いな。」

 「まあしかし、我々騎士団には騎士団の戦い方がある。それを乱す要素は入れたくないのが本音だ。」

 「そうですか……」

 「なに、今回の冒険者の起用は新人冒険者に護衛任務の経験をさせるのが目的と聞いている。護衛対象の乗った馬車を騎士団がどう護衛するか、それを見るのも経験である。」

 「はい!勉強させて頂きます!」


 そのイクトの言葉にガストンはその厳つい顔を綻ばせた。


 「さて、後は行程であるが……」


 地図を広げどの町に宿泊するか、野営の場所などを打ち合わせしていく。


 「野営もするのですね。」

 「ああ、王族がいるので極力は避けたいがどうしても全てで宿泊できるようには出来ない。」

 「そうですよね。町から町に移動だって1日で着く距離とは限りませんもんね。」

 「そうだ。だがお前達はついているぞ。」

 「え?」

 「この旅路はユイナ様の護衛だ。ユイナ様の場所には魔道コンロが備え付けられていて野営の際には振る舞って頂けるそうだ。」

 「それは凄そうですね。」

 「しかもユイナ様自らが調理をなさる。ユイナ様はこの城内の料理をたくさん改革された御方だ。その料理は至福の料理だぞ。それをお前達にも振る舞って下さるそうだ。」

 「本当ですか!?」

 「王族の料理……興味あるネ。」

 「我々でもそんな機会なんてなかなか無いのだ。それを味わえるなんて一生に1度もあるまい。」

 「うわぁ、どんな料理なんだろう……」

 「はははっ。まあ楽しみにしていたまえ。」

 「はい!」

 「他には何かあるかな?」

 「えーと、大丈夫です。」

 「そうか、なら後は出立の日の明朝に城まで来てくれ。遅れないようにな。」

 「はい。ありがとうございます。」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 「はあ~、お城で見るイクトって新鮮で何か良いわ♡」

 「ユイナ様。あまり素を出さないでお願いします。」

 「それにしても直接見れたら尚良かったのに。」


 部屋の壁には部屋の中央に置かれた水晶玉から光が延び、先程までイクトの居た部屋が映しだされていた。

 これは魔道具で遠見とおみと呼ばれ、対となる魔道具の映像を映し出す事が出来る。


 「遠見を使って冒険者の様子を見るなんて上手いこと考えたわね。ファナ。」

 「そうでもしないとユイナ様は絶対に覗きに行ったでしょう?」

 「まあね。どうやって覗くか思案していたもの。」

 「そんな事だろうと思いました。」

 「ねえ?私とイクトが結婚すればイクトも普通に城の中で行動するようになるわよね?」

 「さあ?それは分かりかねますが……。」

 「と、いう事は今日がその第1歩であって、イクトが城内を歩いていたという事は……実質私とイクトが結婚してるって事よね!」

 「……はあ。」


 さすがにこの発想にはついていけない。何がどうでイクト様と結婚している事になるのでしょうか?

 しかしこのまま妙な事を口走って誰かに聞かれると不味い。


 妄想中なのだろう。頭をいやいやと振りながらキャーキャー言っているユイナの肩を揺すりながら強めに


 「ユイナ様。ガストン様が報告に来られる筈です。そろそろご準備を。」

  「え?……ああ、そうね。」


 妄想を中断され少し不機嫌な様子を見せるがそんな事は関係ない。

 動きの止まったユイナの乱れた髪をファナは手早く整える。

 それから幾ばくも経たない内に扉がノックされた。

 「ユイナ様。ガストンです。」


 ユイナはファナに目で合図をするとファナが扉を開きガストンを中へと案内する。


 「早速ですが、ユイナ様もご覧になられたと思いますが冒険者パーティーのラピスと打ち合わせを行い滞りなく終了しました。」

 「はい。ご苦労様です。」

 「2名だけのパーティーですが1人はBランクの冒険者なのでいざという時は戦力として考えてもよろしいかと。」

 「そうですか。」

 「もう1人はEランクという事なので足を引っ張らないようにさせるようにする事が必要ですな。」

 「……聞き捨てなりませんね。」

 「え?」


 イクトの事をそんな風に考えるなんて何を考えているの?

イクトはいつでも最高なのよ?そんなイクトを足手まとい?馬鹿なの?こいつ馬鹿よね?処しちゃいましょうか?


 「ガストン。あなたはランクのみで人を判断するのですか?」

 「へ?あ、いえ。ただ、ランクというのは強さの目安でもあるので……」

 「確かにそうです。しかし、ランクのみに囚われてしまえば本質を見失うのではないでしょうか?」

 「本質……」

 「ランクばかりを信じていては相手の真の実力は計れません。」

 「!確かにその通りです。このガストン姫様の言葉に感服しました。」


 イクトの事を甘く見すぎね。模擬戦でもさせようかしら?剣技だけならガストンに分があるでしょうけど、魔法も有りにすればイクトの圧勝は間違いない。私がそう鍛えたのだから。


 そもそも騎士は剣だけ。魔法使いは魔法だけに特化している。それは間違いではないけど、だからこそ魔法も使う剣士には弱い。

 魔物との戦いでも騎士団は魔法を使う魔物にはめっきり弱いと言わざるをえない。

 ……これは騎士団としての課題でもあると言えるわね。

 いや今はそんな事よりもイクトの事よ。


 「それに元々は新人に護衛任務を経験させる為でしたな。何かあってもすぐに対処できるよう姫の近くに配置するつもりでしたが、戦闘の際にすぐに参加出来る配置といたしましょう!」

 「え……」


 そうだった。私は姿を見せれないから馬車から出れない。馬車の中からイクトを眺める予定だからイクトには馬車の近くと思っていたのに……


 「どうされました?」

 「いえ、冒険者にはまずは騎士団の戦い方を見せて差し上げましょう。護衛としての振る舞いを騎士団が手本として見せてあげて下さいな。なので、冒険者には全体が見通しやすい私の傍で……」

 「成る程!それは良い考えですな。まずは我々が手本となる。それでこそ騎士道です。」


 良かった。実際に魔物が出るなんてそうそう無い筈だからこれでイクトは私の傍にずっと居る事になるはずよ。

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