第157話

 ミリアがカノネに盗賊のことを報告したところ、ギルドからの人間の監視の元、戦うことになった。

 正直、戦うところを見られるということに抵抗が無いとは言わないが、それは許容できる範囲だったし、別にいい。

 ミリアは馬鹿だからともかく、ギルドの人間の前で強奪スキルを発動しにくいという事実もあるが、それも別にいい。

 問題はただ一つ。


「……」


 俺は黙って小狐の方に視線を向ける。

 ……何も声には出してはいないが、見たら分かる。……こいつ、めちゃくちゃやる気に燃えてやがる。


「……ミリア、ちょっと来い」


「え? 何?」


「耳を貸せ」


「う、うん」


 ……何照れてるんだよ。

 いや、今はそんなことに触れてる場合じゃないな。


「明らかに戦おうとしているあいつを何とかしてくれ」


「……あの子も戦えるんでしょ? なら、別にいいんじゃないの?」


 あぁ、そうだ。

 こいつは親狐のことを知らないから、事の重要性を理解していないんだった。


「ダメだ。何とかしろ」


「……無理ね」


 俺の言葉に、小狐の方に黙って視線を向けたミリアは、一言、そう言ってきた。

 そこを頑張って欲しいからこそ、最悪親狐の恨みを買って殺されてもいいミリアに頼んでるんだろうが。


「…………どうしてもか?」


「ど、どうしてもよ。そもそも、あんた、過保護すぎるわよ。あの子だって、別に大丈夫よ」


 大丈夫な根拠なんて何も無いのに、安心できるわけが無いだろうが。

 過保護とか過保護じゃないとか、そういう問題じゃないんだよ。

 

「……もういい」


 こうなったら、自分で小狐のことを説得しよう。


「俺が全部倒すから、お前はゆっくりしてくれてていいんだぞ? ほら、さっき買ったこの干し肉を食べててくれたらいいからさ」


「……」


 周りに俺たち以外の人がいるからか、口は開かないけど、小狐は何かをアピールしてくる。

 具体的なことは分からないけど、自分も戦う! みたいな意思を伝えようとしてきていることは明らかだった。

 ……嘘だろ。飯で釣ることも出来ないくらいにやる気があるのかよ。

 

 くっ、仕方ない。

 なら、もう小狐に絶対に危害が加わらないように全部の盗賊を殺してやろう。……いや、殺していいのかはまだミリアに聞けてないから、倒すだけになるかもだけど、どっちでも同じだ。

 ……強いて言うなら、ギルドの奴に俺の身体能力を怪しまれる可能性があるから、そこが問題だけど、小狐が傷つくよりはそっちの方が100パーセントマシだ。


 ……いや、一人くらいは残しておいた方がいいか?

 ここまでやる気を出してるんだし、一人くらい小狐に倒させない方が気分を害するか? ……相手が一人となれば、俺が近くで見守れるし、絶対に万が一なんて無いと断言出来るから、それでいくか。


「ミリア、盗賊ってのは殺してもいいのか?」


 内心でどうするかの結論をつけた俺は、ミリアにそう聞いた。


「……」


「おい、ミリア?」


「……何よ」


「いや、だから、盗賊は殺してもいい存在なのかを聞きたいんだが?」


「……知らないわよ」


 こいつは何を拗ねてるんだ?

 つか、絶対知ってるだろ。

 めんどくせぇ。


「……よしよし、今更だけど、盗賊を見つけてきてくれて偉いぞ」


 そう思いつつも、盗賊を殺してもいいことが一般常識だった場合、ミリア以外に聞けるような人がいないから、俺はミリアの頭を撫でながらそう言った。


「そ、そんなことで、ご、誤魔化されない、わよ……」

 

「それで、殺してもいいのか? ダメなのか?」


 ミリアのチョロさを知っている俺は、仮ににもこいつは俺のことを好きだと言ってきているんだし、と思い、そのままミリアの腰に手を回して、軽く抱きしめながら、さっきとは違い、ゆっくりと優しくそう聞いた。


「……だ、大丈夫、よ。と、盗賊は、人間の道を踏み外した存在で、魔物みたいなもの、だから」


 すると、案の定と言うべきか、ミリアは顔を真っ赤にして、今度はちゃんと答えてくれた。

 ……めんどくさいとは思ったけど、何だかんだこういう馬鹿なところは可愛いと思ってしまうんだよなぁ。

 

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