女王様!

興味津々でメイン通路の方へ行くと、通路の影から様子を伺った。


「うわぁ~なんて悪趣味な馬車なんでしょうか?」


通常の貴族用の馬車の2倍ほど大きく、金の装飾がゴテゴテと付けられていた。


「横幅も大きいからメイン通りでも、馬車同士のすれ違いがギリギリですね」


「ええ、それにしても人々の様子がおかしくない?」


貴族の視察や買物はときどきあるでしょうに。何かを気にしている感じだ。


豪華な馬車はメイン通りにある装飾品の店の前で停まった。ちょうどシオンのいる交差点の斜め前だった。


馬車から降りてきたのは、大きなメロンを2つぶら下げたエロン………ゴホンッ、メロン・ヴァイス侯爵令嬢だった。


「うわぁ~派手な人ね~」

「そうっすね。なんかエロい娼婦のような方っすね」


真っ赤な派手なドレスに金糸の刺繍があり、長い金髪がその姿に栄えていた。


「せめて高位貴族ならもう少し胸下を隠しなさいよ」


首の下は∨字に大きく開いていた。シオンは自然と自分の胸に視線がいき、メロン令嬢と何度も見比べた。


「お嬢、何度見ても胸は大きくなりませんよ?」

ビクッ!?

「べ、別にいいでしょう!私は平均より大きのだからね!」


よくわからない張合いをするシオンだったが、急に大きな声が響き、視線を戻した。


「お前達!何様のつもり?私はもう皇帝陛下の王妃なのよ!両膝を付いて敬いなさい!」


ザワッ!?

ヴァイス侯爵令嬢の護衛達が剣を抜いて威嚇した。


ははっーーー!!!!!


通りを歩いていた周辺の人々は両膝を着いて土下座になった。


「それで良いのよ。もう私は侯爵令嬢より上の立場である『王妃』だという事を、覚えておきなさい!」


メロン令嬢は腰に差していた【鞭】を取り出すと、近くにいた土下座している人々に鞭を振るった。


「ぎゃっ!?お許し下さい!」

「この無能な愚民がっ!今度から私が降りてくるまでに土下座して頭を下げておきなさい!」


何度か鞭を振るうと気が済んだのか、装飾店に入っていった。


「なに……アレ?」


流石のシオン達もドン引きだった。

人々も関わりたくないと、装飾店の近くから遠ざかった。


「信じられない!何なのよ!アレは?」


シオン達が憤りを感じていると後ろから声が掛かった。


「これがこの街の日常なのさ」


後ろを見ると執事の様なスーツを着た、大柄の老人が杖を着いて立っていた。


「………少しお話を伺っても?」


老人は着いてきなさいと言うので、警戒しながらついていった。街の城壁の横にある小さな喫茶店に入った。


「へぇ?落ち着いた良い感じの店ね」


奥まった場所にあるので、地元の人じゃないとわからないのだろう。客は数人ほど居たが、そのまま奥の部屋に通された。個室となっており、ドアがしっかりと閉められた。


「ここなら会話を盗聴される心配はないぞぃ」


人の良さそうな老人から、鋭い目付きの歴戦の戦士を思わせる老人に変わった。


「それで、『アナタ』はドコのどなた様なんでしょうか?」


テーブルに着くとシオンも眼つきをギランッとさせて老人を睨み付けた。


「フォフォフォ!ワシはしがないジジイじゃよ。名前はルドルフ・ファーレンと言う」


ルドルフ・ファーレン?

シオンは自分の記憶を探った。聞き覚えがあったからだ。


「る、ルドルフ・ファーレン……大将軍ですかい!?」


1番の年長者であるゼータが驚きの声を上げた。


「ゼータ、知っているの?」

「はい、お嬢様が大きくなる前に引退したので、知らなくても無理ありません。ルドルフ・ファーレン大将軍は、帝国でも元帥の位に就いていた御人です。帝国きっての名将と名高い方と聞いております。それに……いえ何でもありません」


「昔の話じゃよ。今は隠居ジジイに過ぎん」


出されたお茶を飲みながら、しみじみと言った。


「それで、私に何か御用かしら?」

「うむ、最近噂になっておるお主らと話をしてみたいと思ってのぅ?」


噂ねぇ~


「あら?どんな噂か伺っても?」


この世界では情報伝達が遅い。口伝で商人や旅人達からしか、他の所の情報が入ってこないからだ。

でも、それとは別に、シオンの様に諜報部員を各街に派遣しておけば、有事の際に早馬で、誰よりも早く情報を知る事ができる。


つまり、この老人には帝国内の情報を知るツテがあると言うことだ。


「なぁに、派手に動いているそうではないか?ダイカーン男爵から始まり、つい先日はワルヨノー伯爵家まで断罪したようで、胸がすく思いじゃったよ。さらには、ゼファー子爵が主体で大規模な田畑まで開拓中のようで、貧民の民を餓えさせず感謝しておるよ」


!?


タラリッとシオンの額に汗が流れ落ちた。

ここ最近の行動が全て筒抜けだったからだ。


「………私に監視でも付けているの?」

「敵国の姫が真っすぐ王城にも行かず、帝国を周っておるんじゃ。気にしない方が嘘じゃろう?」


おっしゃる通りデスね。


「だが、今は違うぞい?少なくともワシはお主に日曜の王妃になって欲しいと思っておる。ここの女王よりは、まともに統治してくれそうじゃからのう」


「流石にアレと比べられても素直に喜べないわよ」

「確かにのぅ~~フォフォッ!」


シオンは苦笑いしつつ本題に入った。









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