心理戦☆

「じ、ジグモさん、本当に大丈夫ですか?」


衛兵のリーダー格だった男が怯えながら報告していた。


「先に屋敷の中にいた衛兵は全て出したんだろう?まぁ大丈夫じゃねぇの?使えないとはいえ、てめぇ等は屋敷の中の兵も含めると70人はいるだろうが?オレの配下は20人ほどだ。これだけの戦力がありゃ──」


ジグモは言いかけてやめた。


「ああ、そうだ。オマエに頼みがある」

「は、はい、何でしょうか?」


ジグモは指を指して命じた。


「いちおう念の為に、裏口から憲兵の詰め所に行って援軍を求めてこい。敵の数は言わなくていい。すでに兵士50人ほど殺られているから急いで来てくれってな?」


「わ、わかりました!」


すぐに走って出ていった。

ふん、自分だけ助かれば良いと思っている小物が。邪魔だから消えろ。


ジグモは配下の者に指示を出した。


「お前達は左右の屋敷の屋上から侵入者を狙え。残りはオレと一緒にでるぞっ!」


「「はっ!」」


明らかに、屋敷の衛兵達より統制が取れていた。


ジグモは役立たずを追い出して、私兵を連れて入口を出た。そして、目の前の状況を見て最大限、警戒を強めた。


「お前達!遊びはここまでだ!!!」


すでに追加で出て行った衛兵も含めて、ほとんどが殺られていた。

(殺ってないけど、倒れて気絶してるとわからないよね)


「あら?ようやく真打ち登場ね。あなた達!一度戻りなさい!」


相手と同じくシオンも敵の力量が高いと雰囲気で察すると仲間を一箇所に集めた。


「まさかザコとはいえ、5倍以上もの数を相手に圧倒するとはな。お前ら何者だ?」


シオンが前に出ると、剣を前に出して宣戦布告をした。


「まさか、伯爵の屋敷にあなた達が滞在しているとは思わなかったわ」

「へぇ~?オレ達の事を知っているのか?」


シオンは優雅に微笑みながら答えた。


「ダイカーン男爵の所にいたお仲間は戻って来たのかしら?」


!?


確かに数日前から連絡の付かない仲間がいるのは気付いていたが………まさかこいつ等が殺ったのか?


ジグモの眼光がより厳しいものに変わった。


「貴方は堂々と晒すのね。自分の組織のタトゥーを──」


「殺れっ!!!」


こいつはヤバい!組織の事も知っている!?

周りに聞かせるとマズイと、言い切る前に行動を起こした。


左右の屋上から弓矢………ではなく、クナイが投げられた。


キンッ!?


ハルとアキがそれぞれのクナイを弾いた。


「チッ!」

「あなた達の行動なんてお見通しよ」


シオンは片方の手を横に広げると、ハルとアキ、護衛騎士達はフォーメーションを取った。

カノンはシオンの側で待機した。


ジグモも配下を扇形の様に陣を取らせた。

お互いに膠着状態になる。



『コイツはヤバいな。総力戦になっちまう』

『コイツはヤヴァいわね。これは誰か死ぬわ』


何処でも一緒だが、腕の立つ仲間が育つには時間が掛かる。シオンも家族の様に親しい人間が死ぬのも嫌だ。


こんな遭遇戦で失うには余りにも大きい代償なのだ。お互いにそう考えている時にジグモから行動を起こした。


「………取り敢えずもう一度聞いておくぞ。貴様は何者だ!」


「そうね。名乗ってあげるわ」


!?


ブラフか?それとも偽名を名乗るのか?

シオンはバッと手を突き出し言った。


「私はシオン・オリオン!南の国境に隣接するオリオン辺境伯が長女!この度、皇帝に嫁ぐ妃の1人である!そして、今回の騒動を解決する事を任されている皇帝代理人である!」


シオンは皇室の金のメダルも見せた。

(ハルが持ってます)


これには流石のジグモもポーカーフェイスが崩れて驚愕の顔を見せた。


『なんだと!?ブラフ………ではないな。では本当に?』


驚いた顔をしたジグモであったが、脳内では恐ろしいほど冷静に状況を分析していた。


そして、ここを放棄してすぐに撤退するべきと結論づけた。


『流石に皇帝が何処まで関わっているかわからんが今、全面的に敵対するのはマズイな』


「まさか皇帝まで関わっているとはな。ここは素直に引かせてもらうぜ!」

「あら?そちらは名乗らないのかしら?」


ジグモはフッと笑うと言った。


「オレの名はジグモだ。もっとも、てめぇらの様なヤツにはもう会いたくねぇがな!」


手を上げると配下の者達がシュッと消え去りジグモだけが残った。








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