case 1 前時代の暴君⑥
次の日、先生と助手は予約した専門の業者の下に赴き、料金を払ってそれぞれ変装を施してもらっていた。
「……先生、遅いなぁ」
一足先に変装を終えた助手が外で携帯を弄りながら終わるのを待っていると、先生の入っていった方のドアが開く音が聞こえてくる。
「もう、先生ったら遅いわ……よ?」
変装を終えた先生の姿を目にした助手はそこまで言ったところで絶句し、信じられないといった様子で口をパクパクさせた。
「――いやーごめんね助手ちゃん。色々注文つけてたら思ったよりも時間が掛かっちゃてさ」
「あ、い、そ、せ……」
驚きのあまり声も出ない助手を他所に先生は言葉を続ける。
「お、助手ちゃんの変装すごいね。どこからどう見ても元が助手ちゃんだってわからない――」
「っ先生の格好の方がすごいわよ!!」
ようやく衝撃から抜け出した助手は先生の言葉を遮って怒鳴るように声を上げた。
「一体何をどうしたら
助手が驚いた理由、それは先生の変装した姿がどうみても
「あーこれ?すごいよね、業者の技術力には脱帽だよ」
「いや、技術力とかじゃなくて……あーもうっどこからツッコめばいいのか」
腰まで伸びた黒髪と長身に映える着こなし、メイクで女性っぽさを際立たせており、声を聞かなければ男性である先生の変装だとは見抜けない程の完成度だった。
「まあまあ、これならまずバレる事はないから問題ないでしょ」
「……声はどうするの?調査をする以上、会話は避けて通れないわよ」
最早、ツッコミを諦めて話を進める事にした助手は先生の変装の難点を的確に指摘する。
変装自体のクオリティが高かろうと、声までは誤魔化せない。
変声機でもあれば別だが、見る限り先生はそんなもの持っていなかった。
「声ね、それなら――――これでどう?」
指摘された先生が自らの喉に手を当てながら声を発すると、声質が変わり、段々と女性特有のそれになっていく。
「……先生、そんな特技があったの?」
「ん、まあ、特技というか、職業柄覚えておいた方が便利だったからね。必要に駆られて身に着けただけだよ」
半ば呆れながらそう尋ねる助手に対して少し得意げに答える先生。
確かに元の声が想像つかないくらいの変わりようは凄いが、その前の変装のインパクトが強すぎて助手としてはいまいち驚きが薄かったらしい。
「ま、まあ、いいわ。確かにこれなら先生だと分からないし、上手く情報収集もできそうね」
「ええ、まかせて頂戴。というか助手ちゃんの方が大丈夫?そのままだと喋り方でバレちゃうんじゃ……」
上手くいくならいいかと動揺から立ち直った助手へ今度は先生がそんな疑問を口にする。
今の助手の格好は普段からは想像もできない派手な格好をしており、いわゆる陽キャ……いや、イケてる大学生のようだ。
しかしながらその口調が元の助手のものと変わらないため、格好とのちぐはぐさで印象に残ってしまい、このままでは後から正体が割れてしまうリスクを多大に孕んでいた。
「大丈夫ですぅ。これでもあたしは優秀な助手ちゃんですよぉっと」
「……すごいわね。その口調」
普段とかけ離れた助手の喋り方に若干引きつつも、これなら大丈夫だろうと先生は納得し、早速二人は情報を引き出す相手を吟味し、手早く決めていく。
「――とりあえずこのくらいね。手分けして、後で合流しましょう」
「了解~へましないように気を付けてくださいね、先生?」
軽い段取りを終え、先生と助手はそれぞれ情報収集のために移動を始めた。
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