母親 民子の告白
あの日の夜
あの日は、4月も終わろうかとしていた日。私はお店の商品を総入れ替えするからとオーナーに言われていて、帰りが遅くなるからと、もう直ぐ1歳になる達樹の保育園へのお迎えと子守を主人に頼んでいたのだ。
遅くとも9時には帰りますからと言っていたのだが、手間取ってしまって10時近くになってしまっていた。私は、急いで帰らねばと、普段は通らない近道になる公園の中を横切ろうと思ってしまった。公園内は電灯が2つばかりあるだけで、道路の街灯に比べると薄暗く (こんなに暗かったのね)と思いながら、公園の中程に差し掛かった時、遊具の反対側にあるベンチに人影を見たのだ。一瞬 ドキッとしたけど、どうやら、お酒を飲んで休んでいるみたい。カップを口元に持っていっていたが、その下には、もう飲み終えたものなのか、お酒のカップらしいものが転がっている。私は、関わらないでおこうと、小走りになって、公園を出ようとした時・・・
後ろから口を塞がれ、もう片方の腕の強い力で抱え込まれて、無理やり公園の隣りの墓地に連れ込まれたのだ。私は、突然の恐怖で声も出せなかった。強引に墓石の横に押し倒されて、私の身体に被さってきたのだが、男は目出し帽で顔を覆っていた。
背中にジャリ石があたって痛みを感じていて、スカートを潜って男の手を感じて、しばらくは、まさぐられていたのだが、突然、冷気を感じたとき、ペチコートパンツと一緒にショーツも引きずり降ろされた。私は「いゃーぁ」と、やっと声が出たときには、脚から抜き去られていて・・・男は、私の口を塞いで、もう片方の手を私の首に当ててきた。殺されるという恐怖が襲ってきて、声を出そうとしても、声にならなかったのだ。
瞬間の痛みを感じた後、「ウー ウー」という唸り声しか出せない私の上で、両方の手をバンザイさせられて押さえながら、時々私の脚を抱えて、男は腰を動かして激しく突き上げてきていた。私は、涙も滲んでいたが、主人の時とは違った快感に近いようなものが襲ってきているのを感じてきていて、背中のジャリ石の痛さに意識を集中するようにして、こらえて時が過ぎ去るのを願っていた。終わった後、男は覆面をずらして唇を合わせてきて・・・お酒の臭いがした時、異様なだ液を口の中に感じた。男は去って行ったが、私は悔しくて涙が出てきていて、しきりにツバを吐き出していた。最後に唇を吸われたことの方が悔しかったのだ。
ペチコートとショーツは穿く気にもなれず、バッグにしまい込んで、スカートを仕方なく叩いて、よろよろと家に向かった。リビングでは主人がワインを飲んでいて
「達樹は?」
「あぁ 人参のペーストを食べて 今は おとなしく寝ているよ」
「そう 私 御風呂に入っていいかしら? 汗臭くて」
と、私は、身体中を丁寧に洗い去って、股間のぬめりとかあの奥の方まで、さっきの忌まわしいことを流し去ろうとしていた。それに、あの時に一瞬でも快感を感じたのかもと、私自身を恥じていたのだ。今日は、確か危険な日だとわかっているので、妊娠の不安を抱えながらも、お風呂から出てバスローブのまま、グラスを持っていって
「私も 一杯 いただいてもいいかしらー」と、まだ、飲んでいる主人の横に座った。
「あぁ 民子 ご飯は?」
「食べたくないの あなたは?」
「帰りに 焼鳥を買ってきたから それでな でも そろそろ シャワーでもしてくるよ これ 残り食べても良いからな!」
だけど、私は食欲も無く、寝室に向かって、ローズピンクのナイトスリップに着替えて、ベッドで主人を待った。彼がトランクスだけで入ってきた時、私は彼にキスをせがんで・・・
「おぉー どうした 今日は・・・ なまめかしいなぁー」と、抱きしめてくれたのだ。その後は、私は彼のものを求めて、自分から今までになく積極的に悶えていたのだ。主人にさっきの出来事を消し去って欲しかった。
それからは、主人との営みだけを思い出すようにして、あの忌まわしい出来事は忘れるようにしてきて、しばらくして、妊娠していることがわかった。生まれて来る子はあなたとの間の赤ちゃんじゃぁないとダメなのよ。私は、主人との間の子供だと信じることにしていたのだ。翌3月に女の子が生まれて、水澄と名付けられた。
達樹は顔立ちが主人に似ていたのだが、水澄は眼元なんかが私に似ていて、数ヶ月して血液型がA型で、私は多分AO型で主人はOO型なのだろう。達樹はO型だけど、でも、A型の水澄が生まれても不思議では無いのだ。水澄はおとなしいのだけど、何かあると集中する子で、顔立ちも今は目立たなく普通なのだけど、きっと、大人になるにつれて美人になると思っていて、好い子に育ってくれた。私は可愛がって、あの日のことも忘れ去っていた。
お正月、達樹と水澄のお友達の家に誘われて、一家してお邪魔することになった時。しばらくは向こうのご主人が用意したというお刺身とかに舌鼓をうっていて、お酒も少し飲んでいたのだが、何かの拍子に私が転びそうになって、向こうのご主人が支えてくれて・・・その時、握られた手に・・・感触が蘇ってきた。あの時と同じ・・・あの感触だ。ごっつい手の平。
(私が構ってあげなかったから、ストレスもあったんだろうけど 毎晩のように、散歩の振りしてふらふらと公園なんかで飲んでいたんでしょよ)(男の醍醐味ですなー でも 不審者扱いされたのではー)(ドキドキする楽しいこともこともあったんですよ) という会話。
私は、この人・・・あの時の男。あの時の記憶が・・・思わず 叫んでしまったのだ。この男にとっては、あの時のことは ただの 気晴らしだったのかー。向こうは気付いていないのか?。あれから10年以上過ぎ去っているし、私は髪型も変わったし歳もとった。気付いていないのか、気付かない振りをしていたのか?。でも、出迎えてくれた時に、あの いゃーらしい表情 あいつは私の顔を覚えていたに違いない。
水澄が小さい頃から、幼稚園でも一緒だった翔琉君。誰となく、二人は顔立ちが似ているねって言われて来た。だけど、その時、私は聞き流していたのだけど・・・二人は・・・父親が同じ???・・・。水澄はあの男との子供?・・・。
水澄と翔琉君は幼稚園の時からの幼馴染で、今では男女として、お互いに好意を持って付き合っているのだ。ダメ! ダメ! このままじゃぁー。あなた達は、母親は違うのだろうけど、兄妹なのよー。このまま、お付き合いするのを何とか避けさせなきゃー・・・。二人を引き離すのよー
ごめんなさい 水澄 あなたはとっても良い娘に育ってくれているのー お母さんが あの日 取返しのつかないことをしてしまったから・・・でも、お母さんは、あなたには鬼のような母親になるのよー。あなたは、何にも知らないで、幸せになってほしいのよー。だけど、翔琉君とは駄目なのよー。でも、私の娘には違いないわ
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