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 その日から私は、ガツガツと勉強も そして 夜もお風呂に入る前には外に出て玄関の前で反復横跳び、ジャンプと体力づくりをしていた。勉強でもクラスのトップを そして、クラブでも早く正式メンバーになろうと目指していたのだ。


 そして、5月連休前に石切コーチに私と香ちゃんが呼ばれて


「素振りを教えるからやってみなさい」と、ラケットを渡された。


 私がそのラケットを受取って、右手で持ったり左手に変えたりしていると


「どうしたの?」


「あのー 私 どっちで持てばいいんだろうって 悩んで・・・」


「利き手のほうよ!」


「私 字を書くのとかナイフは左だけど、ボールを投げたりするのは右だったんです」


「ふ~ん バドミントンとか やったこと無い?」


「う~ん どっちも使ってたみたい」


「ソフトボールで打つのは?」


「それも どっちでも その時の気分でー」


「ややこしいのねー まぁ 最初は好きなほうでー そのうち やりやすい方を決めなさい」と、コーチは面倒になってきたみたいだった。


 そして、コーチはお手本を見せながら「いい? 額のところまで持ってきて、その時に必ずラケットは水平にするの 最初はこれが基本だから しっかり型を身体で覚えなさい」


 「ちょっと 水澄 横っ飛びして腰を落としてスマッシュ 反対に跳んでスマッシュをくりかえしてみて」


「えー こうですか?」と、私は言われたことやって見せて、何回か繰り返した後


「わかった 水澄 もっと 下の方から大きくね それとラケットは面が真直ぐになるようにして、額の前で手首を返して水平になるように心掛けなさい 後は二人で、あそこにみんなと並んでやっていなさい」と、言いつけて行ってしまった。


 練習が終わって、モップ掛けをしていると、コーチがやって来て


「水澄 やってみなさい」と、言ってきた。私は、何のことかと思って・・・ポンカとしていると「ほらっ ラケット持ちなさい」


 私は はっ として、ラケットを取りにいって、右手に持って、素振りを始めたら「左に持ち換えて、横ッ飛びしてみせてー」と、しばらく続けて


「どう? 左と右と どっちがやりやすいの?」


「う~ん 右脚のほうが踏んばり効くから、左のほうが振り切れるみたいな感じです」 


「そうね 左のほうがスマッシュに勢いがあるわ あなた 今日初めてラケット握ったんでしょ? 他の新入生の中ではスピードがあるわよ 腰まわりが大きくない割には足腰もしっかりしているみたい 頑張って練習してね!」


「ハイ! 私 いつも 加賀野先輩を見させてもらってますからー 勉強になります 左利きみたいでー」


「そう ふふっ でも 真似だけじゃぁ 越えられないわよ」


 連休になる前の金曜日。朝、先に翔琉君は来てくれていたのだ。


「おはよう 今日も暑くなりそーだね」


「おぉー 元気良いな 良いことあったのか?」


「ウン 昨日ね コーチに褒められたっていうか 励まされてね 特別にね きっと 私って 見込みあるんよ」


「単じゅぅーん そんなの せっかく入ってきた新入生だから あまぁーい言葉で引き留めようとしてるだけさー」


「もぉーぉ そんなんちゃうって! ラケットも持って帰ってええって言うから 夜も素振りしてんねんでー」


「水澄って やり出すと まっしぐらやからなー あのさー 連休の間でバーベキューをやろうって お母さんが水澄も誘えって」


「うっ 私 行きたいけどなー お母さんが・・・」


「まぁ ちゃんと決まったら 兄貴が達樹さんに連絡するからー」


「・・・うん・・・」私は、おそらく なんだかんだと用事を作るなりして反対されるだろうと思っていた。


 その夜、お兄ちゃんに


「多分 硝磨さんが バーベキュー誘ってくるよ あそこンチでやるんだって 翔琉が言っていた」


「ふ~ん 水澄 会っているのか?」


「うん 金曜日の朝だけ ちょこっとね お母さんには内緒ね」


「そうかー お前 なんか 可哀そーだな」


「そんなことないけどー でも そのバーベキューも きっと 行かせてもらえないかも・・・」


「う~ん そこまで反対しないと思うけどなー」


「そんなことないよ! 考えてみると お正月に翔琉ンチに行ったじゃぁない あれから お母さん変わったのよ 急に 私に太子女学園に行けって言い出したり 私が翔琉が逢うのを邪魔したり・・・」


「水澄 それは 考えすぎじゃぁないか?」


「だって 日曜の度に用事言いつけられるんだよー 学校帰りにも必ずお迎えでー」


「うん まぁ 多少は 水澄ももう中学生なんだし 男女交際には敏感になっているんかもなー 特に、翔琉とは仲が良いしー」


「だってさー 幼稚園からの・・・だよ」


「でも キスしたんだろう」


「お母さんにバラしたの?」


「いいや 秘密なんだろう?」


「それにしても 他に 何かあるわ きっと・・・ お母さんの娘の勘よ」

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