3-3

 3学期が始まって、翔琉君に


「私 お母さんに 私立の女子中学に行けって言われてー とりあえず 塾にも行っているの」


「あぁ 聞いたよ 水澄のお母さんから電話があって 太子女学園を受けさせることにしたから、しばらくはウチには来れないって言っていたらしい」


「えっ お母さん 翔琉ンチに わざわざ電話したの!」


「らしい まぁ いいんじゃぁないか 名門だよ 頑張れよ!」


「・・・翔琉・・・一緒に中学 行けなくなる・・・」


「しょーがないよ 会えなくなる訳じゃぁないしー 俺も あの学校の彼女なんて かっこいいかもな」


「もぉー 何 気楽なこと言ってんのよー 私 受かりっこないものー だって 受験勉強なんて この前からだよー 今日 慌てて お母さんが願書出しに行ってるわ」


「急に無茶苦茶な話だよな つもりもしてなかったんだろう? いゃ 案外 水澄は秘めたるパワーがあるから きっと 受かるよ」


 私の期待していた答えと違った。そんなこと言わずに・・・一緒の中学に・・とか、期待していたのに・・・。


 次の日から、私は学校を休んで塾に朝から通い詰めていた。お母さんに連れられて、初めて、その塾を訪れた時、塾長という人がお母さんの話を聞いて驚いて、とりあえず私に簡単なテストをしたのだ。


「算数と国語の基礎はしっかりしているみたいですね 難易度は高くないですが、算数は満点でした。これなら・・・あそこの入試でも、算数と国語で200点は狙えるでしょう。理科・社会で半分取れれば合格圏内ですよ うまくいけば 英数Sコースも可能かと・・・どうですか これから集中して入試試験の傾向を学んでいけば・・・可能性はあると思います 絶対に合格するんだという覚悟あればネ」


 という訳で、学校にも事情を話して、塾で入試対策に集中することになったのだ。そして、試験日の前日は6時頃 「いいか 自信を持ってヤレ! なんてことは言わない 逆に堅くなるからな 普段通りにやりなさい それで良いんだよ ダメ元なんだからー 急に受験しようなんて」と、塾長に送り出されたのだ。


 表に出ると智子が居て 「あのさー ウチ等 いつも 一緒やんかー」と、黄色い紙テープの巻いたのを渡してきた。


 伸ばしてみると (コツコツとやるのが水澄だろ だけど 明日は爆発させろ 翔琉 意外性の女でも俺等はいつも一緒だ 頑張れ! 十蔵 いつだって一緒だよ いつものようにネ 智子) 


「智子 ありがとう わざわざ 待っててくれたんだ」


「ウン しばらく 顔見て無いからさー あいつ等も誘ったんだけどー 照れちゃってさー」


「ウン あいつ等に涙 見られたくないからー 智子 ありがとうネ 私 悔いが残らないように頑張るよ」と、言いながら、涙声になっていた。


 お母さんも迎えに来てくれていて、帰り道で


「いいお友達達ね 水澄が離れたくないのはわかるけど、まさか あなた 変な気おこさないでね」


「変な気って? ・・・ 私 お母さんの娘だよ! お母さんが喜んでくれるんだから、全力でぶつかっていくわ! 絶対 お母さんと笑顔で抱き合うんだぁー」


「水澄・・・あなたは お母さんの娘だっていうことだけは 確かよねー」と、ポツンと思いつめたように言っていたのを、私は覚えている。


 そして、次の朝。お母さんが付き添って行こうかというのを断って、私は、智子から渡されたテープの巻いたのと翔琉とのミサンガを握り締めて、会場に向かったのだ。余計なことは考えない。ここまできたら、絶対に合格するんだと。


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