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「帰ろうか? 水澄みずみ」と、あの後、気を使ってかあんまり話し掛けてこなかった智子ちゃんが ようやく声を掛けてきたのだが、十蔵君が


「あんがとうな! 香月水澄こうづきみずみ! あんな風に思ってくれてるなんて感激だよー でも 翔琉の手前 いいのかあんなこと言っちゃってー ますます離れて行くぞー」


「ちょっとー あんたぁー 気 使いぃなぁー 水澄の気持ち 今 どんなんか わからへんのんかぁー?」と、智子ちゃんが文句言ってくれていたら 「おぉー こわぁー」と、逃げて行った。


「智子 気ぃ使わんでええでー あいつなんか幼稚園の時から知っているってだけで 何とも思ってへんからー」


 失恋というほど大袈裟なもんではなかったけど・・・落ち込んでいたのは確かだった。そして、白浜美蕾ちゃんに負けたと感じていたのも・・・。私も 転校すれば あんな風に振舞えるかしら・・・と。


 そのまま二人は黙り込んだまま下駄箱のところまで来ると、翔琉君が待っていたのだろうか 私は 気まずかったのだが


「コレッ」と、彼は下を向いたまま 紙切れを私に渡して、走るように行ってしまった。


 開けてみると、そこには、ヘタクソな字で書かれていて


(膝を擦りむいたりしていると そっと 濡れたハンカチを差し出してくれたりて 気がつくと 小さい頃から いつも 側に居て そんな優しい水澄さんが僕は好きです)


 はっ これって・・・私のことを好きって言ってくれてるん?  ・・・しばらく 呆然としていたのだけど、顔が赤くなってきて・・・


「なんやねー あいつぅ なんなん 何が 書いてあるん?」智子ちゃんが覗き込むようにしてきたけど


「へっ へー 絶縁状やー」


「なんやてー あいつ そんなん ありかぁー ウチ 文句ゆうてきたるわー」


「うそっ! 待って 智子ちゃん! ほんまは 私のことが好きって書いてあるねん これは 大切しておきたいからー 智子ちゃんにも 見せられへんけどなー」 


「あっ そーやったん よかったヤン 水澄 やっぱり 君達はそーでなくてはなー 水澄 うれしそーヤン やったねー なんやねん 急にスキップしてるみたいやんかぁー」


 私 それまで 落ち込んでいたのが うそみたいだった。散ってしまった桜の若葉でさえ萌えているように見えていたのだ。家に帰ってからも浮かれていて、お母さんも何かおかしいと思っているみたいだった。


 これが恋するってことなのー 私は あの紙を見た瞬間に 彼に はっきりと 恋愛感情を抱いてしまったのだろう。私は 翔琉君のことが好き。どうしてって? 理由なんて要るの? 小さい頃から、私と翔琉君は、特に眼の辺りが似ていて、なんとなく他人には思えなかったし、私は彼のことを好きというに近い感情を持っているのは確かなのだ。幼稚園の頃から 彼を見ていると やすらぐのよ!


 次の日の朝 彼と顔を合わせて 何とか「おはよう」と、言ったものの その後は恥ずかしくて 見れなかった。彼が白浜美蕾ちゃんと笑いながら話していても もう 気にもならなかったのだ。「あんたは そーやっていても 彼と 私は 繋がっているのよ!」という自信があったのだ。


「なぁ ちゃんと 応えたん?」


「うっ 何の話?」


「決まってるヤン 翔琉君に・・・」


「べつに・・・ いまさら・・・」


「あほっ そんなんしてると あの子に取られるでー 男って いざとなると ふらふらしよるからなー」


「う~ん でも どーやったら ええんかー」


「そんなん 私も 好きです って ゆうたらええだけやんかー」


「・・・ いざとなると 恥ずかしい・・・」


「もぉーぅ 知らんでー 取られても 泣かんとってヤー」


 確かに、はっきりと 意思疎通っていうか お互い 言っておかねばとは 思ってはいたのたが・・・。面と向かって 言うのは 恐かったのだ。


「今朝から 翔琉と水澄って よそよそしいのぉー せっかく うまく いきそうなのに・・・」と、十蔵おちょっかいを出してきた。


「べつにー いつも通りやー」


「あっ あっ 意識してやんのー 紅くなってやんのー」


「あほっ」と、追い回していながらも、心に余裕があったのだ。

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