転生者の弟に転生しました!!

ユウくん

第1話 あ、お前は!!

 「ふぅ~、時代の流れってのは残酷だねぇ」

 

 煙草を吸っている男は遠い目をして愚痴をこぼす。

 男の顔はよく見れば端正だが長い髪と無精髭が男の不衛生な印象を前に出す


 「またなんかやらかしたんですか?先輩」

 「うるせぇ。街でJKに声かけたら不審者と間違われて警察呼ばれただけだ」

 「いや、それ充分やらかしてますよ」


 男の名は小林一郎。警察庁捜査一課の刑事だ。

 捜査一課の中での彼の評判は【とても優秀刑事】

 だが、彼は時代の波に取り残された哀れなおじさんであった。


 「だいたいよ~、ガキの中で警察官はイケメンってイメージがついてるのが悪いよな~」

 「今の子供はネットで男女問わず最高峰の顔が見れるんです。だから先輩みたいな不衛生なおじさんがJKに声かけたらそら通報されますよ。」


 「はぁ。まったく生きづらい世の中になったよな。」


 そう言うと、一郎はスマホのネットニュースを見始めた。

 

 「先輩、スマホは触れるんすね。」

 「まぁな。娘に親子割り?みたいやつ勧められてな。」

 「頑固者の先輩にスマホは買わせるなんて...凄い娘さんだ。」

 「馬鹿にしてんのか....オッ!!シェームズの奴また動いたな。」


 一郎は嬉しそうにネットニュースを見る。

 一郎がシェームズと呼ぶ男。本名は【ジー・シェームズ】

 世界を股にかける大泥棒である。

 性別不明。分かっているのは彼に盗めない物は無いという事だけ。

 どんな厳重な警備でも彼にかかれば余裕である。

 そんな世紀の大泥棒、ジー・シェームズが唯一警戒する男がいる。

 それがこの哀れなおじさん、小林一郎だ。


 「ふむふむ。今夜日本の宝、富士の宝石を頂くだどぉ〜」

 「それ先輩が通報された時にちょうど発表されて、って先輩?」


 一郎は走りながら2年前の自分の痛恨のミスを思い返す。


 「やっとだ。やっと2年前の借りを返す時が来た。」


 一郎のミス。それは.....二日酔いであったこと。

 そもそも捜査一課は大泥棒の相手はしない。

 相手するのは国だ。しかし、暇だった一郎は自分なりに考えてある場所で張り込んでいた。しかし、やはり暇だった一郎は酒を飲んでしまった。

 勿論、普段の張り込みならこんなヘマはしない。

 しかし、暇つぶし感覚の一郎は酒を飲んでしまったのだ。

 後は、察しの通り、シェームズが張り込みの場所に来て追い詰めるも、二日酔いでまともに動けず、取り逃がしてしまったのだ。

 

 「今夜は必ず捕まえる。大丈夫だ。今日は酒も飲んでねぇ。」

 

 一郎は走りながらも頭の中では複雑な計算をしていた。

 




 数時間後(とある高層ビルの屋上)


 「まさか、今回も僕を追い詰めるとは...やるねぇ。一郎くん」

 「まぁな。しかし前と違って今日の俺は万全だ。」

 「そのようだね。」

 「えらく余裕だな。言っておくが、お前を逃すという選択肢は今日は用意していない。残念ながらな。」


 人々な喧騒。

 ヘリの音。

 全ての雑音は2人の耳に入っていなかった。

 あるのは己と相手のみ。


 「一郎くん。少し話をしないかい?」

 「5分で済むなら良いぞ。」

 「ハハッ、手厳しいなぁ~まぁいっか。じゃあ1つ質問。」

 「あ?」

 「もし、君が大事な物を盗まれたらどうする?」

 「.....取り返すな。」

 「でしょ.....」


 なんか、事情があるのか。


 雑音の入らない2人だけの空間。

 その空間は突然崩壊する。


 「こちら第2部隊。ジー・シェームズを確認しました。」


 「なっ!?軍のヘリだと」

 「少し喋りすぎたね~」


 「発砲します!!」


 パンッ!!


 「伏せろ!!!!!」


 まずいな。

 ジー・シェームズは幾つもの国の面子を潰してきた。

 発砲は当然。だが、俺はあいつに聞きたいことが出来た。

 だから必ず無傷で捕らえる。


 そう決意し、俺が起き上がろうとした瞬間。


 突風が俺たちを殴り飛ばした。

 普段なら耐えれた。しかし、弾を避ける為に伏せた結果、俺たち2人は仲良く死んだ。ビルから落ちて。


 



 俺たちは死んだ。

 しかし、どうやら転生って奴をしたらしい。

 しかも、俺には兄がいた。転生先はスラムの孤児。

 この手の話は慣れている。娘がそういうアニメにハマってたから。

 俺も娘と話したくて一生懸命見たっけ。

 俺が死んだらあいつは悲しむかな?..多分ないか。

 しかし、最近俺は兄(仮)とスラムで暮らしていてある仮説にたどり着いていた。突拍子もない仮説だが。それを今から確かめる。


 「なぁ、兄さん(仮)。」

 「ん?なんだいアルファ。」

 「兄さん(仮)って、ジー・シェームズだったりする?」


 俺がそう聞くと兄さん(仮)は急に笑い出した。


 「に、兄さん(仮)?」

 「ハァハァ、ごめんごめん。流石に急すぎてね。でもさぁ~気付くの遅くない?一郎くん。」

 

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