『師弟 明日への忍道』 「忍者の血を引く教師と高校生が紡ぐ、現代伊賀物語」

曼珠沙華

プロローグ: 忍者の遺産

 三重県伊賀市の静かな田園風景が、朝日に照らされて輝いていた。


 辻本徹は自転車のペダルを力強く踏みながら、伊賀高等学校への道を進んでいた。

 風に吹かれる稲穂の匂いが、彼の鼻をくすぐる。


 「よっ、徹! 今日も早いな!」

 同級生の山田が、後ろから声をかけてきた。

 「おはよう、山田。今日は剣道の朝練があるからな」

 「お前はほんと、真面目だよな。俺なんか、ぎりぎりまで布団の中さ」


 二人は笑いながら、学校の門をくぐった。

 校庭では、すでに部活動に励む生徒たちの姿が見える。

 徹は急いで自転車を止め、剣道場へと向かった。


 「辻本、今日は面をつけての稽古だ。準備しろ」

 剣道部顧問の谷本和美先生が、厳しい表情で徹を迎えた。

 「はい、先生!」


 徹は素早く防具を身につけ、竹刀を握った。

 和美先生との稽古は常に緊張感に満ちている。

 しかし、それ以上に徹の心を躍らせるのは、和美先生が時折見せる忍者の話だった。


 稽古の後、汗を拭きながら休憩する徹に、和美先生が近づいてきた。


 「辻本、お前は伊賀忍者のことを知っているか?」

 「はい、少しだけ。伊賀と言えば忍者が有名ですよね」

 「そうだ。実は、私の家系には忍者の血が流れているんだ」


 徹の目が大きく見開いた。

 「え? 本当ですか?」

 「ああ。私は百地丹波という伊賀忍者の末裔なんだ」


 和美先生の目に、誇りの光が宿った。

 「百地丹波…聞いたことがあります。伊賀の乱で織田信長と戦った忍者ですよね?」

 「よく知っているな。そうだ、彼は伊賀忍者のリーダーとして、信長の大軍に立ち向かったんだ」


 徹は息を呑んだ。目の前の先生が、あの伝説の忍者の血を引いているなんて。


 「先生、もっと詳しく教えてください!」

 和美先生は微笑んだ。

 「そうだな。放課後、職員室に来なさい。もっと詳しい話をしよう」


 その日の授業中、徹の頭は忍者のことでいっぱいだった。教科書の文字が、まるで忍者の姿に見えてくる。


 放課後、徹は急いで職員室へ向かった。和美先生は、古びた巻物を広げながら彼を待っていた。


 「これは、百地家に代々伝わる秘伝書だ。ここには、忍者の技や心得が記されている」


 徹は、畏敬の念を持って巻物を覗き込んだ。そこには、彼の想像を遥かに超える忍者の世界が広がっていた。


 「先生、これは凄いです! でも…なぜ僕に見せてくれるんですか?」


 和美先生は真剣な表情で徹を見つめた。

 「お前には才能がある。剣道だけでなく、忍者の精神も受け継ぐ資質がある。私は、この遺産を次の世代に伝えたいんだ」


 徹の胸が高鳴った。忍者の末裔である和美先生から、直接指導を受けられるなんて。


 「先生、僕にできることがあれば何でもします!」

 「そうか。では、まずは歴史を学ぶところから始めよう。百地丹波の生涯を知ることが、忍者の精神を理解する第一歩だ」


 こうして、徹の忍者の遺産を巡る旅が始まった。

 彼は知らなかった。この旅が、彼の人生を大きく変えることになるとは。

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