自分は勇者には向いていないと言って逃げだしたら、罪になっていた。だから、俺は最強スキルで人助けをして、罪滅ぼしをしようと思う。

佐倉彩乃

第1話 勇者なんて向いていません。



俺の名前は、山田ソウタやまだソウタ。19歳。

そろそろ成人になる、大学生である。

将来は医者になるために勉強中。


―が、なぜか魔方陣の真ん中にいた。


見下ろすと、魔方陣がピカピカと輝いている。

すご。本物の魔方陣だ。

俺は顔を上げて、あたりを見回した。


なんか…教会みたいな場所だな。


俺の真正面には、ごっつごつのイスが置いてあった。

めっちゃデカい。しかも、宝石で飾られてるからか、余計にキラキラして見えた。

そのさらに上のほうには、大きな絵画が飾られている。

こういうの、物語とかアニメとかでしか見たことなかったな…。

…っていうか、俺、大学に行く途中だったよね?

ま、いっか。

どうにかなるっしょ。

うじうじしないのが、俺のいいところだ。たぶん。

あたりを見回すが、俺以外誰もいない。

すると、急に脳内に、声が響いた。


『我が国の新しい勇者よ…お前には、今日から我が国を守るため、戦ってもらう』


あ、分かった。

俺はピーンときた。

これ、たぶん勇者召喚…とかいうやつだ。

俺、勇者として召喚されちゃった?マジ?

よく異世界小説やアニメ、マンガを見ていた俺は、すぐに分かった。

つーか、勇者召喚なんて、現実におこるもんなんだな。こわ。


声の主は誰か分からなかったが、まあ、会話できるということは分かった。


さっき、「あのー、誰ですか?」と聞いたら、「ルミナス王国の王だ」と受け答えできたからだ。

ルミナス王国だって。ふぉー、やっべぇ。

厨二病って感じの国だわ。

すると、頭の中でため息が聞こえた。


『最近、我が国の勇者が減ってきておってな。みな、死んでおるのだ。だから、こうして勇者を召喚している。お主も、その一人だ。これからは、我が国を守る勇者として戦ってもらう』


てか、もう姿現したらどうっすかね…。

そんなことを考えていると、声が、早口でペラペラとしゃべりだした。

そのあとは、もうヤバかった。

どうして勇者を召喚したのか、なにと戦えばいいのか、これからなにをどうしていけばいいのか、とか…とにかく、めっちゃ細かく言われた。

ノウミソがパンクしそうだぜ…。

ヒヨコがピヨピヨしている中、俺は王様が話してくれたことを手短に思い出した。

つまり…こうゆうことらしい。


勇者はみな、この国を攻めてくる魔王を討伐に行く

だが、魔王に力には及ばず、帰ってこない勇者が何人もいた

このままでは、この国の戦力がなくなってしまう

そこで、歴代の王たちがやってきた、“勇者召喚”を試みることにした

そしたら、ソウタ(俺)が召喚された

新たな勇者には、魔王を討伐してもらう


…みたいな。

『お前は、これから勇者として、戦っていくのだ』

なんて偉そうなこと言ってるけど。

自分で戦えよ。人の命をなんだと思っとんのじゃ!

王様からの説明を受けて、しばしの間があったあと。


「イヤです」


俺は即答した。

『今…なんだと?』

「え?だから、俺は勇者になんてなりたくないです」

曇りなき眼で答える。

すると、すぐに脳内に声が響いた。

『ダメだ。勇者召喚されたからには、勇者として、勇敢に戦ってもらう必要がある』

「それでも、俺は勇者になんてなりたくないです。そもそも!」



「俺に、勇者になんて向いていません!」



俺は、そう、高らかに宣言した。

いや、これはもう、本当に事実。

俺はヘタレで弱腰で、しかもヘタレで。

日本でもバカにされつづけてきた、ちょ~ぅヘタレなんだぜ?

そんな俺に、勇者なんて務まるかよ!


『…本当に勇者にならないのか?』


「なりません」


再び、即答。

俺みたいなヘタレで弱腰のやつが、勇者なんて務まるもんですか。



―と、いうわけで。



俺は、ゴッツイいすに背を向けた。

「さよならっ!」

『あ、ちょっと待て―』

王様がなにか言っていたが、気にしない。

ここにいたらダメだ。

俺は勇者になんて向いていないんだ。

だから、ただの異世界の住民として、生きていくぜ…!

あの王様のことだから、どーせ現世に帰る方法も知らないんだわ。


俺は、唯一の自慢の足で、その場を逃げ出した。



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