第二章 アカデミー入学編

第47話 継承祠の仕組み

 シュナが俺――ゼロス・シルフィードの正式な従者になってから王都へ出発するまでの数日間、俺たちは幾つかのダンジョンを攻略することにした。

 今のうちにできる限りの継承スキルを習得するためだ。


 まず初めに向かったのは攻略推奨レベル30のEランクダンジョン【ふるびた魔法塔まほうとう】だった。

 ダンジョンボスはレベル30のストーン・ゴーレム。

 破壊力と耐久力には優れている代わり、動きがかなり遅い魔物だ。


 この魔物をソロかつノーダメージで討伐することにより、魔導のスキル【マジック・ボール】を獲得できる。

 条件から分かる通り、難易度は決して高くない。

 そして会心のスラッシュを使える俺はもちろん、高火力の魔法を使えるシュナにとって相性は抜群。

 特に苦労することなく攻略することができ、俺とシュナはマジック・ボールを入手した。



 翌日に向かったのは、俺も一度クリアしたFランクダンジョン【飛鳥落勢ひちょうらくせい】。

 目的は当然、シュナに【マジック・アロー】を覚えてもらうためだ。


 Eランクの【古びた魔法塔】の後に挑むことにしたのには当然理由が存在する。

 【飛鳥落勢】では頭上を飛ぶ大量の鳥型魔物を全滅させることでスキルを得られるのだが……これまでのシュナが挑むには大きな問題があった。


 それがMP問題だ。

 【マジック・ミサイル】しか使えない状態では、火力が十分でもすぐに魔力が枯渇してしまう。

 だからこそ、より低燃費で発動できるマジック・ボールを先に取得したのである。

 その甲斐もあり、シュナは見事に一度の挑戦で試練を突破することができた。


 これにて俺はマジック・アローとマジック・ボールを。シュナはさらにマジック・ミサイルを含め、魔導スキルの基本三種を取得。

 これで低レベルの相手に対しても、低燃費で倒すことができるようになった。


 とまあ、ここまでがこの二日間の振り返りである。

 ちなみに、倒したのが下位の魔物だけだったせいか獲得できた経験値は低く、残念ながらレベルも上がらなかった。

 俺もシュナのレベルはまだ、39のままというわけだ。



(シュナが次の成長スキルを取得するのは、また後日になったな……)



 【飛鳥落勢】の攻略後、屋敷への帰宅途中。

 そんなことを考えていた俺に対し、シュナは横からこう切り出してきた。


「そういえば、火力の高いマジック・ボールより、マジック・アローの方が取得するのが大変だったね。ポーションを何本も飲んで、何とか倒し切れたよ……」


 【古びた魔法塔】(攻略推奨レベル30)と【飛鳥落勢】(攻略推奨レベル16)の違いについての話題だろう。

 彼女が抱いた疑問に対し、俺はすぐさま答えを返す。


「【飛鳥落勢】の方が基準レベルが低いから、そのせいだな」


「え? 普通、逆なんじゃないの?」


 きょとんと、明るい赤毛を靡かせながら小首を傾げるシュナを見て、俺はどう説明したものかと思考する。


 というのもだ。

 俺はここで少し、『クレスト・オンライン』のシステムを振り返ることにした。


 『クレオン』ではゲームスタート時、幾つかの拠点から一つを選び出発することができ、初めはその拠点の周囲にある継承祠グラント・ポイントを回っていくことになる。

 その点、同じスキルを獲得できる継承祠グラント・ポイントが一つしかなければどうなるのか。

 選択したスタート地点によっては、必須級のスキルを習得するのが遅れてしまい、プレイヤーの進行に大きく影響する恐れがあるだろう。


 しかし実際のところ、その点を心配する必要はなかった。

 なぜなら継承祠グラント・ポイントは一つのスキルにつき、世界各地に複数存在するからだ。


 たとえば【パリィ】を例に挙げると、【新兵しんぺい鍛錬所たんれんじょ】をレベル10未満でソロ攻略する以外にも、別の攻略推奨レベル30のダンジョンをただ攻略するだけで獲得できたりもする。

 傾向として、レベルが低いほどギミックが複雑化し、難易度も高いことが多い。プレイヤースキルを重視する『クレオン』らしい仕組みといえるだろう。

 実力に自信がある者はリスクが上がる代わり、低レベルのうちから数多くのスキルを獲得できるわけである。


 とはいえ、今回の【古びた魔法塔】のように、レベルを上げさえすれば簡単にスキルを継承できるダンジョンも数多く存在する。

 レベルを上げることで十分にカバーできるのもまた、『クレオン』が万人に好かれた理由だった。


 とまあ、俺はシュナにその辺りの仕組みについて、『クレオン』のことを省きつつ簡単に説明する。

 最後まで聞いたシュナは感心したように目と口を開けていた。



「そんなことまで知ってるなんて……やっぱり、ゼロスはすごいね!」



 夕暮れの中、彼女の無邪気な笑みがキラキラと輝くのだった。



――――――――――――――――――――――――――――


『第二章 アカデミー入学編』開幕!

今回はシルフィード領出発までの数日と、感想欄で質問されることが多かった「継承スキル難易度高すぎ問題」についてのアンサー回となりました。

他の情報や設定についても第二章で少しずつお見せしていくつもりなので、どうぞよろしくお願いいたします!

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