第11話「王子様との甘く危険な時間……?」


「で、殿下……!

 なんでベッドの上に下ろすんですか……?」


せめてソファーに座らせてほしかった。

 

さっき、殿下とイチャイチャする未来を視たばかりだから……変に意識してしまう……!


「駄目だった?

 フィオナとは毎日ベッドで寝てたから、こっちの方が落ち着くかと思って」


そういえば、私は犬の方の殿下と毎日一緒に寝てたんだ!


寝起きとか、パジャマとか、ネグリジェとか、寝顔とか、殿下に全部見られてるのよね……!


羞恥心が一気にこみ上げてきて、もんどりを打って叫びたい気持ちだった。


だけどなんとか我慢した。


「で、殿下がこの部屋で見たことは……全部忘れてください!」


「フィオナと過ごした思い出を忘れるなんて嫌だよ」


私にとってもこの部屋で仔犬のハルと過ごした時間は大事な思い出だ。


だけどやっぱり、寝起きとか、パジャマ姿を見られた恥ずかしさの方が勝ってしまう!


私がもし記憶を消せる魔法を持っていたら、殿下とこの部屋で過ごした記憶を消してると思う。


「それよりやっと二人きりになれたね、フィオナ」


そうだ! 今は人型の殿下と密室で二人きりなんだ!


殿下が私に近づいてきて、私はその度に後退りした。


気がつくと私は殿下にベッドの際まで追い詰められていた。


「フィオナ、逃げないで」


殿下が私の背に腕を回し、ぎゅっと私を抱きしめた。


殿下が犬だった時は、私が殿下を抱きしめていた。


今は逆の立場になってしまった。


殿下の体温を感じる。心臓がバクバクと音を立ててる。


心臓があまりにも激しく振動するから、殿下に私の心臓の鼓動が伝わってしまいそうだ。


「犬の姿の時は気が付かなかったけど、フィオナは華奢なんだね」


殿下が私の髪を撫で、私の頰肉手を添えた。


このままだと、流されてキスしてしまう!


「殿下、先ほどから距離が近いです!」


私は殿下の体を押して、なんとかかれから距離を取った。


彼を見ると耳を下げ、尻尾をだらんとさせて、しょんぼりした顔をしていた。


傷つけてしまったかな?


「殿下と呼ばれるのは嫌だ。

 前みたいに『ハル』って呼んでほしい。

 それから敬語もいらない」


殿下がしょんぼりしていたのは一瞬で、彼はお互いの鼻先が触れ合ってしまうほど、顔を近づけてきた。


だから、近いですって……!


犬だった時の殿下とは、そのくらいの距離感で話していたから、殿下の私への距離感はバグっているのかもしれない。


私は美少年のアップに耐えられず、彼から顔をそむけた。


「そ、そんなことできません。

 殿下は他国の王族で……私はしがない伯爵令嬢で……。

 婚約者にもなれません。

 そんな私が殿下を愛称で呼ぶなんて……恐れ多い……」


自分で言ってて悲しくなってしまう。


せめて家が侯爵家だったら……殿下と婚約する機会もあったかもしれない。


「フィオナ、こっちを向いて。

 僕から目を逸らさないで」


殿下の両手が私の頬に触れる。


私は強制的に顔の向きを変えられてしまった。


正面を向くと、殿下の黒真珠の瞳が真っ直ぐに私を射抜いていた。


「身分とかそんなこと気にすることないよ。

 犬族は番を見つけたらその人と結婚する。

 王族も平民も関係なくみんなそうしてる」


「ですが……」


「フィオナは僕の事が嫌いなの?」


殿下の耳と尻尾が、再びぺしゃんと下がってしまった。


そんな悲しそうな顔をしないでください!


罪悪感が……私の胸を締め付ける!


「……そんなことは」


好き、大好き。


犬の時から殿下の事が大好き。


でも、そんな事は言えない。


「それとも、さっきフィオナが僕の手を握ったとき、僕との良くない未来でも視たの?」


「あっ……あれは……」


未来で、殿下とラブラブチュッチュッしてたなんてとても言えない……!


あれ? そういえばあのとき未来の殿下は「初夜」って言ってたような?


初夜って夫婦として迎える最初の夜のことだよね?


ということは……未来視で見た世界で私と殿下は、結婚してるの……?


「フィオナ、顔が赤いよ。

 もしかして、僕とやらしいことしてる未来を視たの?

 だからみんなの前で、どんな未来が視えたか言えなかったの?」


ドキッ……! 殿下、鋭い!


「そんなことは……!」


「フィオナは嘘が下手だな。

 耳まで真っ赤になってるよ。

 どんな未来が視えたか、僕にも教えて」


「いえ……それは」


殿下と破廉恥なことしてる未来が見えたなんて、口が裂けてもいえないよ……!


「なら、もう一回、僕の未来を視て。

 次はどんな未来だったか教えてね!」


殿下が私の指に自分の指を絡め、ぎゅっと握りしめた。


これが、恋人繋ぎというものなのね!


これじゃあ、殿下から手が離せないよ!



『おはよう、フィオナ。

 昨夜は無理させてしまったね』

『大丈夫だよ、ハル』

『今日は二人でゆっくりしよう。

 休暇はとってあるから』

『うん……』



視えたのはカーテンから朝日が差し込む部屋と、ベッドの上にいる私と殿下の姿。


これは……!


いわゆる朝チュンというやつでは??


だから……! 視せるならもっと健全な未来にしてよ!


街でのデートとか、ピクニックとか、一緒にランチするとか、一緒にスポーツするとか、なんかあるでしょう!


あれ? でも……さっき視た未来の殿下も、今視た未来の殿下も、今とそんなに変わってなかった。


多分未来視の殿下の年齢は十六、七歳ぐらい。


殿下の年齢は十四歳だと新聞に書いてあったから……さっき見た未来は今から、二、三年後くらい。


いやいやいや、結婚するの早すぎない?


これは未来視で、占いみたいなもので、確定した未来じゃなくて……!


「フィオナ、顔が真っ赤だよ大丈夫?

 今度はどんな未来を視たの?」


「…………!」


殿下に顔を覗き込まれて、私は固まってしまった。


不健全な未来を視てしまったなんて、殿下には絶対に言えない!


「もしかして、また僕と甘々な時間を過ごしてる未来を視ちゃった?」


殿下は嬉しそうに口角を上げた。


「そ、そんなんじゃ、ありません……!」


「わかった。

 そんなに言いにくいなら、いいよ話さなくても

 フィオナと僕が、未来でもラブラブなのは十分に伝わったから」


殿下がニコニコと微笑む。彼は尻尾を立てブンブンと振っていた。


犬族には耳と尻尾がある分、喜怒哀楽が人間よりわかりやすい。


「ラブラブって……!」


「違うの?

 僕といけないことする未来を視てたんじゃないの?

 もしかして……他の男とイチャイチャしてる未来を視たのかな?」


その瞬間、あんなに大きく振っていた殿下の尻尾が、ピタリと止まった。


殿下の瞳の中に炎がメラメラと燃えているのが見えた。


こ、これが嫉妬の炎というやつなの?


「してません!

 殿下以外の男性とイチャイチャなんかしてません!」


って、これじゃあ殿下とくっついてる未来を視たって薄情したようなものじゃない!


「ならよかった。

 フィオナは永遠に僕のものだからね。

 他の男と触れ合うなんて僕が許さないよ」


殿下はニコッと笑った。


彼は尻尾をピンと上げ、左右に大きく振っていた。


犬族って想像してたよりずっと嫉妬深いみたい。


それとも殿下が特別ヤキモチ妬きなのかな?



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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