第4話 俺の妹

 月日は流れて異世界で暮らし初めて数週間後。森の生活にもだいぶ慣れてきた、そんなある日のことだった。



「私ね、十五年前。この森で籠に入れられて置き去りにされてたんだって」


 スピカは何気ない会話の途中で、いきなりカミングアウトしてきた。


「でもね、捨て子にしては上等なお包みに包まれていたらしくて。おじいちゃん達、訳ありの赤ん坊だーっ! て思ったんだって。でも、見殺しにも出来なかったから、自分達で育てる事にしたんだって。二人が病気で亡くなる直前にその真実を聞かされたんだ。……私も流石に驚いちゃった。だってね、その日までは、私の両親は事故で亡くなって、だからおじいちゃんおばあちゃんが私を引き取ってくれたんだって。そう、聞いていたから」

「……そう、だったのか」

「うん。それでね、赤ん坊の私。すっごくお高そうなペンダントを握りしめてたんだって。自分達が死んだら、ペンダントを頼りに親を探してもいいし、このままここに住んでもいい。とにかく好きに生きろって言われたんだ。だからね、ここで一人で住んでいたんだ」

「スピカは好きでここに一人で住んでいたのか……。でもさ、今まで一人で大変じゃなかったのか?」

「うーん。ずっとこの森で暮らしていたし、昔冒険家してたおじいちゃんとおばあちゃんから生きる知恵を沢山教わってたから、そんなに苦労はなかったかな? あ、それに私、魔法使えるから。いざとなったら大きな獣だってやっつけられるし!」

「ま、まま魔法!? い、今、魔法って言った!?」

「うん。魔力持ってる人なら誰でも使えるよ? 私は大地の魔法が得意なんだ! だから畑仕事も大得意だよ!」

「い、い異世界あるある、キター!! な、なあスピカ! 魔力があるか、ど、どうやって分かるんだ!? もしかして、お、俺にも魔法使える!?」

「えっと、確か魔力がある人なら、他人の魔力を感知出来るって聞いた事あるよ」

「じ、じゃあさ、スピカ。俺に魔力あるか調べてくれないか!?」

「うん。やった事ないけど、いいよー。じゃあちょっと調べてみるね」


 魔力を感知する為だろうか。スピカはおもむろに俺の右手を両手で握りしめると、瞳を閉じて黙り込んでしまった。


 そうやって調べてもらっている間、スピカの集中力が切れないように大人しく静かにしていたが、俺の内心は興奮を抑えられていなかった。


 お、俺、もしかしたら魔法使える……? 異世界チート、来ちゃうのか? 『俺TUEEE〜〜!!』やっちゃうのか!?



 暫くして瞳を開いたスピカは、手を握りながら俺の瞳を見つめてニッコリと微笑んだ。


「……お兄ちゃん。……魔力、ぜーんぜん、なかったよ!」



 ……どうやら異世界チートは存在しない様だった。


 その後数日俺は大いに不貞腐れた。




 俺に魔力が無いことが分かって暫くしてから、あることを思い出した俺は、スピカが赤ん坊の時持っていたペンダントはどこにあるのか、それとなく聞いてみた。


「ペンダント? んーん知らない。多分、お爺ちゃん達が使ってた部屋にあるんじゃないかな?」


 アル爺さん達が寝室として使っていた部屋。今はフリースペースとなっている部屋を隈なく調べてみると、ペンダントはタンスの引き出し奥深くに仕舞われていた。


 俺はペンダントを取り出すと、もっと見つかりづらい場所へと隠すことにした。


 ……こういうフラグめいた、『実はスピカはどこかの国のお姫様でしたー!』みたいな展開になり兼ねない物騒な品は、深く封印しておくことに限る。


 スピカの出生の秘密なんて、知らなくていい。今のスピカのままでいい。


 俺の妹であるスピカ。その事実だけでいいんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る