第19話 発覚

□王宮にて(ルドルフ王)


「以上が結論になります」

「……そうか……」

余とカイゼル公爵はアッシュの調査を行っていた諜報部長からの報告を受け、その結果に衝撃を受けた。

カイゼル公爵は眉間にしわを寄せたまま考え込んでいる。


かつて王宮で起こった事件。

将来有望とされたアッシュ・フォン・カイゼルが魔力暴走を引き起こし、臨席していた王宮魔術師長が大けがを負い、アッシュの母であるフィリス・カイゼルと婚約者の王女ラフィリアが死亡、さらに警備を行っていた騎士や魔術師にも多くのけが人を出した大事故だ。

 

あまりの惨劇にその事件の後、明らかに魔力をコントロールし始めていたアッシュを無罪放免とするわけにはいかず、軽い罪で終わらすわけにもいかず、声高に罪を主張する貴族たちの声を抑えるためにも泣く泣く大罪人に与える罰である"黒き魔の森"への幽閉を決定した。

彼ならば刑期を生きながらえてくれるのではないかという淡い期待を抱きながら。


それは達成された。

10年で開放すべきところを"黒き魔の森"自体の活発化によって近付くことさえ難しくなってしまい、もどかしい気持ちで王宮魔術師たちのふがいない報告を聞くばかりだったが、彼はしっかりと成長し、凄まじい魔術師になって森から出てきた。

正直、期待以上だった。


そこで彼の不名誉を解くために、残念ながら少し会話に難がある彼のことを第三者目線で徹底的に調査した。

調査の目的はあくまでも魔力暴走に関するもので、それが偶発的なものであり悪意があったものではないことを証明するためのものだった。


親として、亡くなってしまった娘には申し訳ないが、国の行く末を考えたとき、強力な魔術師は国に引きつけておきたい。

特に軍事力で拡大する帝国があと10年もすれば隣国となってしまう今の状況下では。


それにアッシュのことを好いていた娘ラフィリアであれば、納得もしてくれるだろう。

むしろアッシュが不遇な状況にあることをこそ望まないだろう。

さらにアッシュの母であり、カイゼル公爵妃であるフィリスにしても同様に思う。


しかし調査結果は残酷なものだった。


そのため諜報部長には引き続き調査を指示していた。


その結果は最悪なものだった。


しかも合わせて不愉快な計画も浮かび上がった。

なにをやっているのか、あの馬鹿どもは。

帝国の脅威を全く感じていない愚か者どもめが。

もはや世界は変わったのだ。

王国内で醜い争いをしている時代ではないのだ。



「アッシュ。以上が調査結果であり、君への報告だ」

「はい……」

アッシュは虚ろな目をして佇んでいる。

当然、ショックだっただろう。

彼とラフィリアの仲は間違いなく良かった。

 

「恥を承知で頼む。どうか……」

「10年間森に籠っていた俺にはたぶんあまり理解できていないです。でも、クリスのことは覚えています……」

アッシュは中空をぼんやりとみつめながら昔を思い出しているようだ。

本来、国王である余の前でのこの態度は咎めるべきなのかもしれないが、精神的に幼い彼に対して衝撃的すぎる内容であり、怒る気にはならなかった。

 

「カイゼル公爵も良いな」

「もちろんです。頼むアッシュ」

「はい」

アッシュの父である公爵にも確認をするが、私が最も頼りにしている忠臣である彼は私情を斬り捨てて了解の意を示してくれた。



「それにしても、かの皇帝と結んでクリスを狙い、さらに優秀なルイン伯爵をも狙うとは……その悪知恵をもっと王国の発展のために使えばよいものを、自らの権力欲に溺れるとは……」

「残念ながら、かなり以前から欲望によって突き動かされていたのでしょう」

カイゼル公爵の言う通りだろうな。


「この城には多くの記憶のオーブが配置されているはずです。それを探って証拠を集めましょう」

記憶のオーブというのは、起動すると周囲の光景を記録し、後から見れるようにしてくれる魔道具だ。


主に盗聴用の道具だが、仮にも王宮魔術師長が相手にいる状況で証拠を残しているだろうか?


「アッシュ……調査の中でお前が身につけたという様々な魔法についての記録を見た。長年放置し、お前に苦労をかけただろうが、どうか協力してくれないか?」

カイゼル伯爵は息子であるアッシュにあえて丁寧に頼んでいる。

彼は息子を救えず、息子は自力で生き延び出てきた。

彼なりのけじめなのだろう。


「エリーゼのためになるのであれば」

「それはお前の想い人なのか?」

「はい」

そしてアッシュはルイン伯爵にひかれているという。

ラフィリアの親としては複雑な心境ではあるが……それで納得してもらえるのであれば、余は王国の膿を出し切るためにはそれも利用させてもらうぞ。

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