王宮の犬~王太子の愛人の話を蹴って働く魔族(=魔力に秀でた人間族)の長である私には報復なのか無茶な指令ばかり……超強い協力者もいるし、いつかきっと安住の地をみつけてやるわ!~

蒼井星空

第1話 王宮からの指令書

「エリーゼ様、王宮からの指令書が届きました」

はぁ……また指令書が来たわ。どうせ面倒な内容なのでしょうね……。


私はため息をつきながら届いた封筒の封を手でこじ開けて中身を見る。


「お嬢様……少々お行儀が……」


あのアホ王太子……愛人の話を断ったからと言って、面倒な指令ばっかり出してきて、なんなのよ。

この前は王都とレンリルという街の間に蔓延る大規模な盗賊団を捕まえろという内容で、結局アッシュが暴走して全滅させたせいで未達成にされた。


あぁ~思い出したら腹が立ってきたわ。報酬なしだったし……。


今に見てなさいよ!?

いつかけぼっこぼこにしてやるわ!


……アッシュが……。



残念ながら私の直接的な戦闘能力はそこまで高くはない……いえ、あのアホ王太子よりは高いかもしれないわね。

ちょっと殴りつけてみようかしら。


封筒を見る前から口汚く罵ってしまいましたが、私はエリーゼ。

エリーゼ・ルイン……このレフィスオール王国のルイン伯爵家の当主よ。


伯爵としては王宮の指令を無視できないので、仕方なく封筒の中身を取り出した。


「お嬢様、こちらを」

「ありがとう」

タイミングよく、執事のセバスチャンがてきぱきとした所作で香りのよい紅茶を淹れてくれたわ。

あぁ、おいしい。


私は落ち着いた後、あらためて指令を確認した。その内容は驚くほど面倒臭さしか感じないようなもので、もう一度だけお茶に口をつける。

 

「どのような内容でしたか?」

「キーザの街に蔓延る怪しい宗教団体を調査し、問題があれば首謀者を捕らえるか、無理なら処分するようにというものよ。なぜこれを私たちにやらせるのでしょうか……嫌がらせですね。間違いないです」


王族から見たら怪しい宗教なのかもしれない。

でも、指令の詳細を見る限りキーザの街で広がっている宗教と、私たち魔族が侵攻する宗教は同じ神を崇めるものなのよ?

なにをもって怪しいと考えているかとかちゃんと調査して整理してから指令を出しなさいよ!


きっと全部わかってやっているから、嫌がらせ確定ね。まったく。


ぐしゃ……。


いけない……封筒を握りつぶしてしまったわ。

 

「アッシュ様へは……」

「今はやめておきましょう。また壊滅させられたらちょっと困るもの。それに……いや、なんでもないわ。今回は私たちだけでまずは調査から始めるわ」

 

私は少しだけアッシュのことを思い出す。

考えないようにしても、難しいわね。


もし私が10代の恋する乙女だったらきっと舞い上がってしまうかもしれないわ。

何せ、短く乱れた灰色の髪と鋭い蒼い目、少し色白だけど筋肉質で、何回見てもカッコいい。

そして戦ったら、想像を絶するほど強い人……。


そんなひとから全く隠すことのない好意を告げられて嬉しくないはずはない。

年下だけどね。


生い立ちのせいか寡黙で面白みには欠ける。

ちょっと思い込みが激しくて、怒ったら話を聞いてくれなくて、どんな相手でも簡単に殲滅してしまうのもマイナスポイントかな。


一方、今回の相手は私たちと同じ神を崇める宗教団体。

私たち魔族のことはこの国では有名だし、私たちが古代神グラシウス様を崇めていることは一切隠していない。

私は敬虔な教徒じゃないから詳しくないけど、そもそもこの国では信仰は自由だし、この世界には様々な神様がいるのよ。


まぁ指令だから仕事はする。教義とかが近かったら対話に利用するくらいで、怪しい団体として調査しましょう。


「まずは温厚なメンバーで現地入りして話を付けられないか探ることにしようと思うわ」

私は考えを呟く。セバスチャンは黙ったまま考えている私を見つめているわ。


えっ?魔族なのに温厚とは?ですって?


私たちは魔力が強いだけで、見境なく人間を殺しまわるようなことはしないわよ?


物語に登場する悪魔とは違うので角や翼があったりもしないわ。外見は人間と同じなのよ。



「話が通じる相手だと良いわね」

「宗教関係は複雑ですが、同じグラシウス神を崇める者同士ですから話はできるでしょう。その辺りも考慮に入れて行動計画を作ります」

私の呟きに対して、セバスチャンが完璧な反応を示します。


そのためには、やっぱりアッシュはいない方が良さそうなのよね。

彼はちょっとね……ちょっと恥ずかしいことに私のことが好きすぎて暴走するから……。


この前なんか、私の肩のあたりに盗賊団の団長が放ってきた攻撃が掠ったんだけど、それに怒っちゃってね。


止める間もなく、盗賊団が全滅してたの。

やりすぎよって怒ったのに、何度ダメだって言っても抱きしめようとしてくるし。

恥ずかしいじゃない……。


うん、今は忘れよう。


「同行はライラとカリナ、それからグレゴールにしようと思うけど」

「良いと思います。いきなり戦闘を行うのは避け、まずは調査と接触を試みる方が良いでしょう。決裂した場合や、狂信者だった場合に備えてダリウスとエレノアは街の外で待機させるようにします」

 

今はこの指令をこなさすことに集中しなくては。

いくら酷い指令でも、私たちの立場では正式に発行されたものを無視するわけにはいかない。

 

そう思いながら、セバスチャンと算段を確認して指示を出した。


セバスチャンはこのルイン伯爵家の執事で、私が率いる部隊の調整も担ってくれている有能なお爺さんよ。


「まずはエリーゼ様とライラが接触を、カリナとグレゴールが調査を行うように役目を分けましょう」

「そうね。温和に行くにはそれが良いと思うわ。あとは、可能ならキーザの街にいる者たちの背景を調べられないかしら?」

「わかりました。もともといたのか、それともどこかから移ってきたのかを調べます。可能なら目的なども」

「お願いするわ。ちょっと怪しいのは確かなのよね。もし想定している通りなら引っ張り込めるかもしれないけど」


私たちはソファーに座って地図や資料を広げながら作戦を考えた。

練るというほど手の込んだものではないわね。

 


説明してなかったと思うけど、我が伯爵家の別名は"王国の犬"……。

王家や高位貴族から受けた指令を武力で解決する自由軍ですわ。


私たちは魔族と呼ばれる一族であり、みなが普通の人族と比べて高い魔力を誇っているの。

だからこういう仕事では重宝されるんだけどね。


一般的には怖がられているせいか、迫害されたり奴隷の首輪をつけられて使役されたりしてきたの。

今でも虎視眈々と我が一族を狙うものもいる。


そんな悪意から私は一族の長として皆を守る。


私には一族のものと比べてなお高い魔力と鍛錬してきた魔法の数々、そして周囲の魔力の動きが読めるという特殊能力がある。


幼い頃から一緒に鍛錬してきた心強い仲間たちもいる。


さぁ行きましょう。

いつか魔族が安住の地を手に入れるまで、私は負けるわけにはいかないのだから。




***

溺愛コンテストに向けた作品です。お読みいただきありがとうございます。

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