入れ歯の奇縁:つながりの奇跡

O.K

第1話:入れ歯

ある晴れた日、主人公の田中健太は近所の散歩を楽しんでいた。健太は運動不足を感じており、日課として午前中に近くの公園まで歩くことにしていた。公園に向かう道すがら、ふと足元を見ると、何かがキラリと光った。よく見ると、それは入れ歯だった。


「こんなところに入れ歯が…」


驚いた健太は、周囲を見回したが誰もいなかった。捨てられたものか落とし物かはわからなかったが、とりあえずその場に放置するのも気が引けた。彼は入れ歯を拾い上げ、近くの公園のゴミ箱に捨てることにした。公園に到着すると、ゴミ箱に入れ歯をそっと捨て、安心して散歩を続けた。


翌朝、健太は出勤のために家を出た。玄関を開けた瞬間、彼の目に飛び込んできたものは昨日捨てたはずの入れ歯だった。驚きとともに不気味さを感じたが、風か何かで運ばれてきたのだろうと自分に言い聞かせた。再び入れ歯を拾い、今度は公園のさらに奥のゴミ箱に捨てた。


その夜、仕事を終えて帰宅した健太は、またもや玄関先に例の入れ歯が置かれているのを見た。さすがに奇妙すぎて背筋が凍ったが、疲れのせいだろうと無理やり納得し、入れ歯を再びゴミ箱に捨てた。今度は近くの公園ではなく、少し離れた場所にある大きなゴミ収集所に向かった。


次の日の朝、健太が恐る恐る玄関を開けると、そこには再び例の入れ歯が置かれていた。何度も捨てたはずの入れ歯が戻ってくる現象に、健太はもはや一人で対処するのは不可能だと感じ、親友の鈴木亮太に相談することにした。


亮太は不思議な話や都市伝説に詳しく、心強い存在だった。健太は亮太にこれまでの経緯を話し、入れ歯の現象について相談した。亮太は真剣に話を聞き、しばらく考え込んだ後、何か思いついたように口を開いた。


「健太、もしかしたらその入れ歯には何か秘密があるのかもしれない。例えば、それを持ち主に返さないといけないとか…」


健太は半信半疑だったが、亮太の提案に従うことにした。入れ歯が元の持ち主のもとに戻る方法を模索するため、二人は近所の老人ホームや病院を訪ね、入れ歯の持ち主を探し始めた。しかし、どこにもその入れ歯の持ち主を見つけることはできなかった。


数日後、健太は再び玄関先で入れ歯を見つけた。もう一度入れ歯を手に取ると、ふと入れ歯の内側に小さな刻印があるのに気づいた。そこには小さな文字で「中村」と書かれていた。これは何かの手がかりになるかもしれないと思い、二人はその名前を手がかりに調査を続けることにした。


地域の役所や図書館で調べると、数年前に亡くなった中村という名前の老人がこの辺りに住んでいたことが判明した。その老人は生涯独身で、家族もおらず、一人暮らしをしていたという。健太と亮太は、その情報をもとに中村老人がかつて住んでいた家を訪ねた。


家は今も空き家になっており、周囲の住民に話を聞くと、中村老人は孤独な人生を送り、亡くなる前に何かを訴えるような様子だったという。もしかすると、あの入れ歯は中村老人のものであり、何かを訴えようとしているのかもしれない。


健太と亮太は入れ歯を中村老人の家の庭に埋め、手を合わせてお祈りした。それから数日後、健太の家の前に入れ歯が現れることはなくなった。


奇妙な現象に終止符が打たれたのだった。健太は再び平穏な日常を取り戻し、あの不思議な出来事は何だったのかと時折思い出すことがあったが、中村老人の魂がようやく安らかに眠ることができたのだろうと感じていた。

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