姉の彼女を好きになりました。

榊 ダダ

姉の彼女

第1話 


 あの日、あなたが私にかけた言葉は酷いものだった。


 私は初めて出逢ったあなたを一瞬で嫌いになったんだ。







 部屋の外から知らない女の人の声がした。またツグミが友達を連れてきたんだ。



 大学から近いせいか、ツグミは色んな人をよく家に連れて来る。



 そうゆうことをされると、自由にトイレに行くことさえ出来ない。いつ見知らぬ人と出くわすか気が気じゃなくて疲れる。



 自分の家の中なのに行動が制限されるのはすごく不快だ。本当にやめてほしい。



 三つ上の姉のツグミとは、昔からどこか合わない。



 そこそこ歳の離れた二人姉妹なのに、ツグミには私に対して、かわいい妹という概念は昔から無いようだ。



 でも別に冷たくされたり、いじめられてきたわけじゃない。私達は言ってみれば、ほとんど話すことはないクラスメート、そんな間柄に近かった。



 私達は何年も同じ環境で育った姉妹なのに、色んなものが違った。

  


 ツグミは頭が良くて、勉強してるとこなんて見たことないのに学校の成績はいつも学年のトップレベルをキープしていた。



 他人に対して壁というものが全くないマイペースすぎる性格で、面白いことを言うわけでもないのに、ただそこにいるだけで何故か自然とツグミの回りには人が集まった。



 私と言えば、テストの結果は平均点を上回ることはまずなく、それどころか順位は下から数えるとすごく数えやすいレベル。



 普通に友達もいるし、特別人見知りなわけじゃないけど、ツグミが持ってる天性のオーラのようなものは私には全くない。



 ツグミが一番茶なら私は出がらしみたいなもの。ツグミに優秀な遺伝子を全部先に持っていかれた。



 そんな私が唯一ツグミに勝てるのは運動神経くらい。何でもこなしてしまうツグミは、意外にもスポーツに関してはまるで駄目だった。



 だから、そうゆう場面だけは鬼の首を取ったような気持ちでいたけど、ツグミはそんなこと何にも気にしてなかった。



 陸上部の練習で、焼けた肌に汗だくの濡れたシャツで帰ってきた私を見ると



「わー…すごいね…」



 と、引き気味の苦笑いをしながら、クーラーのガンガン効いた自分の部屋に入っていく。



 私とツグミは背格好さえ違えど、顔はよく似ていた。顔だけ見たら双子かと思われるほど、とても良く似ていた。



 それが私は、物心ついた時からすごく嫌だったんだ。少し背の高いツグミの後ろを歩く私は、ツグミの影みたいに思えたから。



 だから私は、中学に上がった頃から髪を伸ばすようになった。髪の短いツグミの影と間違われないように…。



「雨ー?」



 ノックもしないで、ツグミは声と同時に私の部屋のドアを開けた。



「ちゃんとノックくらいしてよ!」



 怒りと共に振り返ると、知らない女の人が私を興味津々に見ていた。



「ほんとだ! ツグちゃんがもう一人いるー!!」

「ね?」

 


 この人達はここを動物園とでも勘違いしてるんだろうか。



「あ、ゴメンね!初めまして、雨ちゃん!私、ツグちゃんの大学の友達で、桐山きりやまかすみです」

「どうも…」

 


 私は突然の無礼な行為に機嫌を直せず、ぶっきらぼうに答えた。



「雨ちゃんは高校何年生なの?」

「二年です…」


 そんなことを知ってなんの意味があるの?あなたにはなんの関係もない。



「かすみ、もう行こ」



 自分が連れてきたクセに、ツグミは面倒くさそうにその人の服を引っ張った。

 


「あ、うん。じゃあまたね、雨ちゃん!」



 私は返事も会釈もせずに、感じ悪く前を向き直った。




 夏休みだからか、それからあの人はしょっちゅう家に遊びに来た。

  


 隣のツグミの部屋との壁は厚くて、大きな音や声じゃないと、そうそう部屋の中の音は聞こえることはない。



 私の部屋からは何をしているのか全く分からなかったけど、帰っていくあの人はいつも満足そうだった。



 その顔を見ることはなくても、私の部屋からすぐ近くにある玄関での別れの会話がいつも私の耳に自然に入ってきたので、なんとなくそれが伝わってきた。



「ツグちゃん…今日も楽しかった」

「うん、気を付けて帰りなね」

「うん……」

「なに?どしたの?」

「ねぇ……お願い。またしばらく会えないし……」

「ダメだよ、こんなとこでなに言ってんの」

「…そうだよね!ごめんね!じゃあ家着いたら電話してもいいかな?」

「うん、でも寝てるかもしれないけど」

「やだー、私が家に着くまでくらい

起きててよー!」

「でも今すごい眠いんだよね。でも一応かけてみてよ、 起きてたら出るし」

「分かった。……じゃあね、ツグちゃん…」

「うん」



 二人の会話にはいつも多少の違和感を感じた。






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