第11話 経験値効率
――き、気まずい。
朱里が思ったのはそれだけだった。 目の前にいるミュリエルは無言で俯いたまま一言も話さない。
ここは自分が何か言うべきなのだろうか? 父親を殺され、加護を失って王族としての地位を失い、路頭に迷った彼女の姿は哀れを誘うが自分達を誘拐した結果なのであまり同情しようといった気持ちは湧かなかった。
「一つ、お聞きしてもよろしいですか?」
そんな事を考えていると不意に声をかけられた。
「は、はい。 何でしょう?」
「あなたも力神プーバー様の加護はなかったのですね?」
「……えぇ、私の加護は星運神の加護でした」
「そうですか。 正直、あなたが加護について尋ねて来た時から少しだけ嫌な予感はしていました」
よく見てるなこの人はと思いながら自身の選択が間違いではなかった事を確信する。
応供よりも早く鑑定を受けていた場合、邪神の使徒扱いされて殺されかねない。
あの様子だと助けに入ってくれる可能性は高かったが、碌な事にならないのは確かだ。
ミュリエルは遠い目で空を眺める。
その瞳には何も映っていないようにも見えるほど空虚な眼差しだった。
「本来ならあの召喚魔法は力神プーバー様のお力を媒介にして発動するので、力神以外の加護を持った存在が召喚される訳がないのです。 少なくともこの数百年の間、そのような事は一度も起こらなかったと聞きます。 ――あなた達は一体何なんですか?」
ミュリエルの表情からは怒りも悲しみも浮かんでおらず、ただただ疑問だけが存在した。
その姿に少しだけ困惑しつつも答えを探すが、何も言えない。
「えーっと、申し訳ないんですけど寝て起きたらここだったのでさっぱりわからないです」
「……そうですか」
ミュリエルはそう言ってぼんやりと空を眺めようとしていたが、朱里は必死に頭を回転させる。
このまま行くとそこそこの付き合いになりそうなのである程度は良好な関係を築いておきたい。
その為には無理にでも話を広げて多少なりとも打ち解けるべきだ。
――何か話題、話題――
ある訳がなかった。
ついさっき会ったばかりの相手にどんな話、どんな距離感で接すれないいのかさっぱり分からない。
これが日本であるならスマホでも弄って知らない顔をすればいいのだが、ここにはそんな便利な物はないので自力でどうにかしなければならなかった。
「あ、あのー、もしよかったらステータスに付いてもう少し詳しく教えて欲しいんですけど……」
頑張って考えたが結局それしか話題が出せなかった。
「はぁ、なんでしょう?」
「えーっと、ステータスというのは個々人の能力を数値化した物という話なのですが、レベルとか数値がどの程度の影響を与えるのかと思いまして……。 私の場合は基本が10で+3ってなってたんですけど、どれぐらい変わるんですか?」
ミュリエルは近くの岩に歩くと殴りつけると大きな亀裂が走る。
「今の私の筋力値は80あります。 軽く殴ってこれなので、力神プーバー様の加護で上乗せされれば更に破壊力が出ます」
朱里よりも細い腕で岩を砕く姿は冗談の様だった。
「それだけ力があるなら日常生活とか大丈夫なんですか?」
「よく聞かれる質問ですね。 えっとアカリさんで良かったですか?」
「はい、朱里です」
「ステータスというのはその当人の直接の身体能力ではなく、当人が身に纏う鎧のような物と認識してください。 筋力値などと表示されるので紛らわしいですが、あなたの本当の筋力値は自身の身体能力にプラスしてステータスの数値が乗る形になります」
ミュリエルは「そうでもなければ筋肉があっても意味がないでしょう?」と付け加えた。
確かにその通りだった。 ステータスが全てであるなら体を鍛える意味がない。
「ではスキルも同じなんですか?」
「その通りです。 あなた方が知らない世界の言語を問題なく扱えるのもスキルによる恩恵によるものです」
何でもありだな。
このステータスとかいう胡散臭い数字の羅列の下にあるスキル欄にこれができるあれができると書き込めるなら理屈の上ではなんでもできる事になる。
能力の数値化は便利かもしれないが、朱里はそれ以上に危険だと思った。
レベルを上げて数値の上昇を見ればモチベーションに繋がるだろう。
だが、同時に格差を分かり易く生み出す。 どうやっても敵わないという絶対的な差を数値として見せつけられた時、人は頑張る気力を維持し続けられるのだろうか?
家族を失って無気力になっていた朱里からすれば難しいと思わざるを得ない。
ミュリエルの話が本当であるなら自らの生活をより良い物にする為に人は必死にレベルを上げるのだそうだ。
「それともう一つ。 レベルというのはどうやって上げるんですか? やっぱり生き物を殺す感じですかね」
「はい、高レベルの生物を狩れば上がり易くなります。 ただ、個人差もありますので誰しもが階段を上るように楽々とは行きません」
こちらに関してはいまいちはっきりしておらず、便宜上『経験値』と呼ばれているそれは実態が明らかにされていない。 濃厚な説としては生物が死んだ際にエネルギーのような物を放出するので、それを吸収する事によって得られるのではないかと言われている。
生き物を殺せばレベルが上がると言われるのはこれが理由だ。
「なら戦えない人は全然レベルが上がりませんね」
「えぇ、一応ですが食事などでも経験値は得られるようで、時間をかければ誰もがレベルが上がっていきます」
「あ、そうなんですね。 なら王族はどうやってレベルを上げてるんですか?」
朱里の質問にミュリエルはそっと目を逸らした。
その反応に凄まじく嫌な予感がした。 経験値、生き物を殺せば上がる。
朱里には言い難い内容。 キーワードがこれだけ揃っているのだ内容を想像するなというのが無理な話だ。
「あのー、まさかとは思いますが私達日本人って――」
「恐らくアカリさんの想像通りかと。 高い経験値を得たいなら高レベルの魔獣を狩ればいいのですが、そんな危険を冒さなくても高い経験値効率の生物がいます」
「…………人間ですか」
「はい、特に召喚された異世界人は非常に高く、戦力として組み込めない者、使い辛い――要は反抗的な者は余計な知恵を付けられる前に殺して王族の経験値になります」
――なんてこった。
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