第9話
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「理沙も、香菜江さんがいてくれると嬉しいみたいね。いつもの倍、騒がしいもの」
時刻は21時。
優香さんの家で、理沙ちゃんを寝かしつけた後だ。
しんと静まり返った居間で、ようやく二人きりの時間が訪れた。
わたしは今日一日で、優香さんの家族に溶け込むことができた気がする。この先、一緒に暮らすことになるかもしれないし、いつまでもドキドキとしてなんかいられない。でも、もうちょっと初恋のような甘酸っぱい感覚も味わっていたい。二人きりのときは思う存分、味わえるみたいだけど。
わたしと優香さんは、なかなか目を合わせて会話ができない。理沙ちゃんが間にいるときは、普段通りに接することができていたのに。
ただ、この初々しさは、今しか体験できないはずだ。この瞬間も楽しんでいる自分がいた。
「あの、優香さん」
わたしは、意を決して優香さんに向き直る。
いい加減、はっきりさせようと思ったのだ。今の関係は、ちょっとふわふわしすぎている。優香さんだって子どもを育てているわけだし、しっかりとした
「な、何かしら」
優香さんも、ぴしっと正座をして向き直ってくれる。
「わたしは、優香さんとともに理沙ちゃんを育てる覚悟があります。その、け、結婚を前提に、ってことで……いいですか?」
いざ口にすると、緊張がすごいな。漫画やドラマでしか聞いたことのない台詞を、自分が言う日がくるなんて。しかも、優香さん相手に。
優香さんは優香さんで、女神のような美しい顔をりんごよりも赤く染めて、こくり、と頷いてくれる。
「喜んで……お受けするけど……。あのね、私……、恋愛経験はないから……。香菜江さんといると、すごくドキドキして……。香菜江さんのこと、楽しませられないかも……。それでも、いいの……?」
待て待て。
優香さんは、人の脳みそを破壊する天才なのかな?
清楚だなとは思っていたが、これほどまでとは。わたしは鼻血が吹き出そうになって、鼻頭をついつい押さえてしまった。
「恋愛経験ないのは、わたしもですけど……。優香さん、美人すぎるし、たくさん告白とかされてそうなのに、意外ですね……」
「されたことは、あるにはあるけど……。なんか、あまり興味が持てなかったのよね。でも、香菜江さんと出会ってわかったわ。私、女の人じゃないとダメだったみたい」
優香さんは環境のせいか、自分のセクシャリティに気づくことができなかったようだ。そういう人は珍しくないらしく、26歳まで自覚できなくっても、なんらおかしくはなかった。むしろ、長年悪い虫がつかなかったことに感謝したいくらいだ。
「わたしは、けっこう早くから女性しか意識できなかったんですけど……。出会いが全然つくれなくて、恋人ができませんでしたよ」
「うーん。香菜江さんって格好いいし、スタイルいいし、むしろ女性からのほうが人気高そうに見えるのに。私を選んでくれるなんて、嬉しすぎるわ。……でも、香菜江さんは、どうして私がよかったの? 子どもだっているのに」
う……。正直に言っていいのか?
でも、優香さんに嘘はつきたくないしなぁ……。
「最初は、その……。優香さんの顔が好きすぎました……。完全に一目惚れです」
わたしは、
彼女は、意外だ、といわんばかりに口を半開きにして驚いていた。容姿で選んだこと、
「私の顔……? ふふ、なんか、嬉しくなっちゃうわね。私も、香菜江さんの顔、好きよ……?」
照れてもじもじしながら言う優香さん。
可愛すぎて、抱きつきたくなった。っていうか、抱きついていいのでは? 結婚を前提にお付き合いしてくれるって言ってくれたわけだし。
よし、抱きつこう。
わたしは黙って立ち上がり、優香さんの
「今は、優香さんの全部が好きです。優しいところとか、しっかりしているところとか。匂いだって……。わたし、一日中優香さんのこと考えちゃうくらい好きなんですよ」
理沙ちゃんがいないからか、歯止めがきかない。
その上、優香さんも恐る恐る抱きしめ返してくれるものだから、熱い
ここまできたら、キスもいけるかな?
心臓が破裂しそうなくらいドキドキとする。
「私も……だめかも。香菜江さんに、恋を教えられちゃったから。母親なのに……香菜江さんのことで頭がいっぱいになっちゃう。理沙が一人前になるまでは、子育て一筋って決めていたのに、ダメな親よね……。でも、香菜江さんが一緒に支えてくれるんでしょ……? 甘えて、いい?」
「もちろんです。わたしだって、理沙ちゃんを
「うん……。今は……香菜江さんのものだからね……? 私も、香菜江さんのこと、ちゃんと愛して……るからね? だめ、恥ずかしい」
優香さんの体、発熱してるのかってくらい熱い。わたしだってそうだ。
蒸気を出しそうな頬をした優香さんは、恥ずかしさのあまりか、わたしから顔をそむけようとする。その彼女の
そして――深い深い口づけをする。
頭の中が真っ白になった。
幸せが臨界点を過ぎると、何も考えられなくなるのか。
まるで宇宙でも
優香さんの唇を味わう時間は、無限にも感じられた。
「はじめて奪われちゃったわね……。香菜江さん、責任取らないとだめ、よ?」
どこまで可愛いんだ、優香さんは。
キスだけじゃ我慢できないかも。
わたしは優香さんをさらに強く抱きしめた。
「優香さんこそ。わたし、けっこう欲まみれですよ。からだだって、いっぱい触りたいんです。やっぱりそういうのは嫌、なんて言うのナシですからね」
「い、嫌、ってわけじゃないけど……。待って、私何したらいいかわからないし、順序ってものが」
優香さんは、機械がショートしたみたいにギクシャクとしている。わたしから距離を置こうともがき始めるし、言葉だってたどたどしかった。
無論、わたしだって経験はないのだが、自信はある。自分のからだだって女性だから、どうすればいいのかは想像がつくし。それに、知識だけは無数に仕入れてある。
「キスもしたし、順序は大丈夫でしょう。わたしに任せてください」
「え、まって、まって。ここで? 理沙が隣の部屋にいるのよ? ていうか、香菜江さん、なんか急に手慣れてない?」
「声出さなければ平気ですよ。……女性とこういうこと、ずっとしてみたかったんです。だから頭の中では百戦錬磨ですよ。お預けはなしですからね?」
反論しようとする優香さんの口を、口で
二度目のキスは余裕を持てたので、優香さんをじっくり
彼女は怯えたように目を
舌をねじ込んでみると、優香さんの全身から力が抜けていった。わたしに全てを預けてくれるみたいだ。
しばらくは優香さんの口内を舌で這い回り、唾液を
次は、優香さんの巨大な胸を味わいたい。
思い立ったら即実行。さっそく、服の上から手をあてがってみた。
「んっ!!」
優香さんは敏感な反応を示し、
そして、右手では優香さんの豊満な胸を、触診するように優しく撫でる。シャツ越しでもわかる、大きな乳房。とんでもなく柔らかい。直接触ったとしたら、マシュマロよりもふわふわするんじゃなかろうか。
胸をだんだん強く揉んでみると、優香さんのくぐもった悲鳴が目立ってくる。
ちょっとやりすぎたか?
暴走列車だったわたしは、緊急ブレーキを踏むことに成功した。
「す、すみません。やっぱり嫌、でしたか……?」
「ん……。驚いちゃっただけよ……。でも……香菜江さんって……えっちね」
どうしてそういうこと言うかなぁ。誘ってるようにしか聞こえないじゃないか。
「魅力たっぷりの優香さんが悪いんですからね。もう、止めませんから……」
わたしは、布団も敷いていない居間の床に、優香さんを押し倒した。準備も何もなしに体を重ねるのだから、本能の
獣と化したわたしは、優香さんのむき出しの首筋を噛みつくようにして、唇をあてがう。そして、吸って、舐める。右手は、
「んっ……。だめっ……、声、出ちゃうっ……」
優香さんはわたしの愛撫で感じてくれているのか、息が荒い。しかも、
優香さんにどんどん脳みそを破壊されていく。自分が人間じゃなくなっていくような感覚さえあった。ひたすらに優香さんを
わたしの右手は優香さんの巨乳を離れ、下降していく。そして、ズボンの隙間に手を差し込もうとして――
「そこは、ダメ……。お願い……。理沙、起きちゃうから」
優香さんの
そうだ。隣の部屋では、理沙ちゃんが寝ているんだ。
激しいセックスは、できないよなぁ……。
「ごめんなさい……。優香さんと、ずっとしたかったから……歯止めがきかなくって」
「ううん、それはいいの。でも、ほら……やっぱり、理沙の近くでは、私も集中できない、っていうか……」
それも、そうだよね。
世の中の子持ち夫婦は、夜の
少なくとも優香さんは、隣の部屋が気になってしかたないみたいだった。
「じゃあ、集中してえっちができそうなときは、思いっきりしちゃっていいですか?」
「う、うん……。そのときは、お願いします……。私も、香菜江さんには喜んでもらいたいから……。ごめんね、今、させてあげられなくって。それに、何もわからなくて、こっちからもできないし……」
「そこがいいんですよ、優香さん。わたしも、理性を保てるように頑張ります。……あ、でも、声が出ない程度のことならば、してもいいですよね?」
優香さんは、何をされるのか心当たりがないのか、小首を
わたしは、不意打ちでキスをした。優香さんは、またも頬を染めて、汗でも飛び出しそうに慌てている。
「これくらいなら……大丈夫かも……」
ひとまず、キスはいくらでもしていいこととなった。
この後、就寝することになるのだが、途中でお預けをくらってしまったわたしは、一晩中ムラムラしてしまい大変だった。結ばれたはいいが、生殺しも辛い。
どうにかして、理沙ちゃんの対策を練らないといけないな。
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