32. 【東の辺境】初めてのデートは東の果て。それともブラックだからノーカン?

「おおー!すっげぇ!」

「だろ?」


 巨大な魔鳥に乗り、ホワイトはカレイと共に荒野の上をゆっくりと東へ移動していた。

 雄大な空の旅にカレイのテンションがブチ上がり中だ。


「高い高い!めっちゃ気持ち良い!」


 スピードが出ていないとはいえかなりの上空なのに躊躇いなく眼下を眺める様子からは、全く恐怖心を感じられない。高いところは平気なのだろう。


「(そういえば領都に来たときも空から降って来たな)」


 つい先日の再会した時のことを思い出すと同時に、一つ疑問を抱いた。


「カレイも前に空を飛んでなかったか?アレどうやったんだ?」


 今のカレイの様子を見ると、空の旅が初めてであるかのような喜びようだ。

 魔法学園から領都まで文字通り飛んで来たのなら、ある程度慣れているのではないだろうか。


「あ~それな。それは……まだ秘密だ」

「何故?」

「そう聞かれると……う~ん、まぁそのくらいなら言って良いか」

「無理しなくて良いぞ」


 ホワイト相手なら言えることだけれど、ブラック相手なら無理という話かもしれない。

 だとするとそれを無理やり暴くのは絶対にあってはならない。


「いや、むしろ聞いてくれ。そっちの方が面白そうだ」

「面白そう?」


 一体どんな話が飛び出てくるのか、ホワイトは興味津々だ。

 好きな人の話だから何でも興味があるだけかもしれないが。


「誰かさんと会う時のために私達も色々と準備してるってことさ」

「……なるほど、そういうことか」


 それはつまり再会の約束を果たす時のこと。


 元々彼らは魔法学園の入学の際に再会する約束だった。

 しかし某クズ集団のせいでそれはご破算となってしまう。

 だがそれでも再会を諦められなかったホワイトは、入学とは別の形で再会しようと他国の魔法学園へと教師兼生徒として赴任した。


「(魔法学園交流会で何かを見せてくれるんだろうな。楽しみだ)」


 魔法技術を競い合う魔法学園交流会。

 そこでホワイト達は彼女達と再会するつもりだった。

 そのことを彼女達にも伝えてある。


 つまりはそこで単に再会するのではなく、競技に参加してホワイトと戦うつもりなのだ。


「(皆ならそうすると思ってたよ)」


 成長した自分を見てもらいたい。

 その想いを受け止めるのがホワイトは役目だと思っている。


 だから教師としてではなく生徒として交流会に参加するつもりで、教師兼生徒としてサンベール魔法学園に通っている。


 空を飛ぶ秘密についてはその交流会で明らかにしたいため、今はまだ言えないということなのだ。


「いやぁ楽しみだな」

「そうだな」


 これ以上この話をしているとお互いに墓穴を掘り何かを漏らしてしまいそうだったため、雑に話を打ち切った。


「しかし風景が全く変わらないな」

「亀裂は増えてるんじゃねーか?」

「確かに」


 とは言ってもそれほど多い訳では無く、偶然多い場所を通っているだけかもしれない。

 つまりはその程度の違いしか無いと言うことだ。


「荒野を進むと途中で魔物が出現するんだが、空を飛ぶと何も襲ってこなくてこんなに楽なんだな」

「いや、どうやらそんなわけではなさそうだ」


 突如進行方向の空間がぐにゃりと歪み、五体の空飛ぶ魔物が出現する。


翼竜ファルコリーだと!?」

「中々の大物だな」


 空を飛び、勢い良く滑空して鋭い爪や牙で獲物を抉り、口から魔法の炎弾を放って攻撃してくる大型の爬虫類。その体表は固く、魔法に対する抵抗値もかなり高いことから討伐困難な魔物として有名だ。


 その翼竜が五体も同時に出現した。


「どうする、ホワ……ブラック」

「退きながら対処しよう」

「突破しないのか?」

「これ以上進むのは、違う意味で危険だ」

「んじゃそうすっか」


 理由も聞かずにカレイはホワイトの漠然とした説明で納得してしまった。

 それだけ信頼しているというのと、敵を前にして悠長に話をしている余裕など無いと判断したからだ。


「(恐らくだけど、あの空間がぼやけているところよりも先は、世界が不確定だ。壊れかけているのか、未完成なのか、それとも存在すらしていないのかは分からないけれど、人が存在できる場所じゃない)」


 ゆえに強引に突破しようものなら待ち受けているのは死だ。

 防壁よりも果てに近づき、その異様な雰囲気を肌で感じ取れたからこそ、その予想が正しいだろうと実感出来た。


「(世界が完全に修復され、進化を始めたならば、あの先に進めるようになるに違いない。私が生きている間にそうなったら良いな……)」


 だがその願いは恐らく叶わない。

 魔物を倒し続け、世界中の魔力異常を治療することはホワイトにも可能だろう。


 だがそこから世界が修復を始め、進化して広がるにはそれなりに時間がかかるからだ。


 その事実に気付いていて尚、ホワイトはまだ見ぬ未来を見たいと願うのであった。


「来るぞ!」


 カレイの叫びに、センチメンタルなことを考えている余裕など無いことを思い出す。


「転回!」


 魔鳥を反転させ、防壁の方向に急ぎ逃げ出す。

 その背に向けて翼竜が次々と炎弾を放ってきた。


「うっひょ~怖え!」

「その割に楽しそうだぞ」

「超楽しい!」


 ホワイトと一緒ならば何でも楽しいに違いない。

 それはホワイトも同じだが。


「右!右!左!右!」


 カレイの叫びに合わせて魔鳥が左右に蛇行し炎弾を避け続ける。


「大きく左!んで右!もっともっと!左ですぐ右!」


 指示するとすぐに魔鳥が動き、迫りくる炎弾をギリギリで躱すのが楽しいらしい。

 超ハイテンションで指示を出しまくっていた。


 だがそれもいつまでも続けられるわけでは無い。


「遊びはそろそろ終わりだ。防壁が見えて来た」

「ちぇっ」


 このままでは翼竜が防壁を襲い出してしまうだろう。

 そうでなくとも炎弾の流れ弾が着弾してしまうかもしれない。


「被害が出る前にここで潰す。カレイはどうする?」

「もちろん私もやるぜ」


 魔鳥を自動モードにして、炎弾を勝手に避けさせる。 

 最初からそうしなかったのは、カレイの楽しみを奪わないためだった。


 ホワイトはポーチから星剣ラースラッグの柄を取り出し、刀身を生成させる。


「何それ超格好良い!」

「使ってみるか?」

「いいのか!」

「ああ、また作れば良いしな」

「例の魔法かぁ。久しぶりに見たいけど、やっぱり止めとく」

「そっか」


 星剣も、星魔法も、ホワイトならではのものだ。

 それに触れるのはホワイトと再会した時にしたいという自分なりの縛りがあり、カレイは星剣を借りなかった。


 その代わりに、腰に差した自らの剣を手にした。

 花の意匠で彩られたやや細身のロングソードは、陽の光を浴びてキラキラと輝いている。


「そいつには負けるが、これも中々のもんだぜ」

「かなりの名工が作った物のように見える。名は?」

「花吹雪」

「カレイにぴったりだな」

「だろ?」


 ちなみにホワイトは知ったかぶって名工がどうとか言っているが、そういう鑑定眼は持っていないため適当だったりする。そしてカレイもそれに乗っただけであり、実際は意匠の分だけちょっと高価な普通の剣だ。


 それでもこんな会話をするだけで名剣のような気がするから不思議である。

 何事も気分が大事ということなのだろうか。


「そんじゃあ落とすとすっか」

「ああ」


 二人して離れて並び、剣を左の腰元で構えて払いの準備をする。

 左右に揺れる魔鳥の上でも全くよろめくことが無いのは、それだけしっかりと足腰を鍛えているということだろう。


 ロークスユルムでは揺れに耐えない方法を選んだが、頑張ればホワイトだってこのくらいのことは出来るのだ。隣に好きな人がいるから見栄を張って頑張っていると言ってもいい。


「(流石カレイだ。体幹が待ったくブレないし、構えも様になっている。余程鍛えて経験を積んでいるようだな)」


 病弱だったころのカレイとは良い意味で様変わりしており、元気な彼女の様子を見られただけでもここに来たかいがあったと言うものだ。


「ここだ!」


 翼竜の動きを見極め、最適なタイミングで二人同時に剣を払った。


「「飛首落!」」


 大切斬が山を斬り、爆岩砕奧が岩を砕くのなら、飛首落は文字通り飛ぶ敵の首を落とす技。

 スープ流剣術の奥義の一つで、飛行種への特攻技だ。


『ぐげぇええええ!?』


 その一振りで二体の翼竜の首が真っ二つになり、あっさりと消滅する。

 何が起きたか分からない残りの三体はパニックになり、これまで以上に苛烈に攻撃を仕掛けてくるようになった。


「冷静さを失ったら負けだぜ」

「その通りだ」


 だがそれはホワイト達にとって動きが読みやすく攻撃を当てやすくなったということ。

 魔法を止めてかみ殺さんと近づいて来る翼竜を、その爪で八つ裂きにせんと襲ってくる翼竜を、飛首落であっさりと撃ち落とす。


「やりぃ!」

「この程度か」


 最後の一体は半狂乱に陥った様子で、捨て身の特攻を仕掛けて来た。


「アレ貰って良いか?」

「ああ」


 一撃死の手段を持つ相手に、無策に真正面から特攻してくるなど愚の骨頂。

 カレイの鮮やかな飛首落により、最後の一体も消滅してしまった。


 その様子を見ながらホワイトは改めて思う。


「(スープ流剣術、むちゃくちゃすぎないか?)」


 本来であれば倒すのに苦労する相手を『特攻』効果のある攻撃を放つことで楽々と撃破出来る。

 他の人から見たらそんな馬鹿なと言いたくなるだろう。


 しかもこれらの奥義は、魔力を一切使わずに剣技だけで成しえている。


 魔物と戦い続けて来た歴史があるスープ家だからこそ生み出せたと言えなくはないが、それにしてもとんでもスキルすぎるなぁと、今更ながらに実感したホワイトであった。


「(まぁ便利だから良いか)」


 そう思ってしまっている時点で、大分スープ辺境伯師匠に毒されているということに残念ながら気付いていなかった。


「よし、帰ろうぜ」

「ああ」


 強敵であるはずの翼竜の集団を一蹴したホワイト達は、楽しいデートが出来たと満足気に帰還した。

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