25. 【ロークスユルム】ハッピーエン……もう嫌ああああ!

「これ、どうしよう」


 周辺一帯を氷で覆いつくしたホワイトだが、巻き込んだロークスユルム国民を開放していたら魔力の異常が消えたので一気に氷を消滅させた。


 魔物が完全に消滅したということで、それはそれで喜ばしいことなのだが、一つだけ大きな問題があった。


「あの……解放した方が良いと思うのですが」


 戻ってきたキノコ村長が恐る恐るホワイトに進言する。


「やっぱりそう思う?」


 ホワイトも村長の言うとおりだとは思うのだが、どうにも気乗りしない。


 ちなみにすでに解放されたロークスユルム軍だが、最初は混乱していたようだが敵が居ないと分かると稲穂軍との戦いに戻っていった。どんだけ戦いが好きなんだ。


 ここに残っているのはホワイトと、キノコ村長と、もう一人。


「でも解放したら絶対面倒なことになるよ。ほら、氷漬けになってるのに強引に壊そうとしてるし」


 そう言いながらニクギュウを閉じ込めた氷が壊れないように強化する。

 気分的にはこのまま永遠に氷漬けにしたままにしておきたいが、流石にそういうわけにはいかないだろう。


「あれ、誰かこっちに来る」


 悩んでいたら戦場の方から一人歩いて来た。

 その姿は武装しておらず、一般人のような装いだ。


「まさかあの人って……」


 ホワイトにはその人物に見覚えがあった。

 戦場に来ることは無いと思っていたのだが、予想外についてきていたらしい。


「仕方ない、迎えに行くか」


 相手が相手なので、気付いていて放置するという訳にはいかない。

 氷漬けしたニクギュウとキノコ村長と共に、こちらから迎えることにする。


「ニュウギュウさん、こんなところまで来てどうしたのですか?」


 やってきたのはロークスユルム王妃、ニュウギュウだった。

 基本的に女性は戦争に参加しないこの国で、戦場に彼女がいるのは王妃という特別な存在だからだろうか。


「あなたにお伝えしたいことがございまして」

「え?私ですか?この人を引き取りに来たのではなくて?」

「うふふ、負けた人になど興味はございません。そのままそこで無様に敗北を噛みしめていると良いですわ」

「わぁお、辛辣ぅ」


 てっきり国王関係でやってきたと思ったのに、関係ないどころか超塩対応。

 力関係は妃の方が上というよくあるパターンなのかもしれない。


「それで私に伝えたいこととは?」

「隣国から連絡が来まして、魔物を誤って倒してしまったと。するとこちらで巨大な魔物が出現したとおっしゃるじゃないですか。何か関係があるかと思いこうしてお伝えに参りました」


 まるで伝令のような役割だが、男達は戦争に夢中なので彼女が来るしか無かったのだろう。


「なるほど、そういうことでしたか」


 ニュウギュウからの情報で、何故これまでに無いほどの魔力の暴走が起きたのかの理由が朧気ながら見えて来た。


「(この辺りの魔物の出現範囲は隣国に跨っている)」


 国なんていう人間が勝手に決めた線引きの中で魔物が出現するなんてことはなく、適当な一定の範囲内で魔物が出現し、その範囲内の魔物を倒し続けるとその範囲内では魔物が出現しなくなる。ロークスユルムの場合は、その魔物の出現範囲が隣国と重なっていたのだ。


「(確か隣国は敢えて魔物を倒さずに閉じ込めていたはず。もし魔物がロークスユルムに出現したら、戦い好きの国民が速攻で倒してしまい、その結果強化された魔物が運悪く隣国に出現してしまうかもしれないからだ)」


 魔物を強化させすぎないための調整など、ロークスユルム王国がするはずもない。

 その結果、運悪く隣国に超強力な魔物が出現でもしようものなら、大惨事を引き起こしてしまう。


 そうならないために、ロークスユルム国民に魔物を倒させるわけにはいかず、自国に出現した魔物を倒さずに閉じ込めていたのだった。


「(でもその間に、ロークスユルム国内に大量の歪んだ魔力が満ちてしまった)」


 戦争大好きで、国民の多くが魔法を使った訓練を繰り返し、しかも最近はリング・コマンドを覚えたことにより今まで以上に魔法の訓練をしていた。国中に暴走した魔力が満ちてしまい、かといって前の魔物が倒されないため新たな魔物も出現できない。


「(隣国が魔物を倒してしまったことで、溜まった魔力が一気に魔物化しようとしてあんなに巨大な魔物が出現したんだ)」


 それが今回の魔物出現の理由なのだろう。


「(全部の魔力が強引に魔物化しようとしたから、不自然に大きかったり暴れまわるだけだったのかな。まだまだ考える余地はありそうだ)」


 ホワイトが魔物を倒しきったのは一度だけ。

 予期せぬことはこれからも起こるだろうと、今一度気を引き締めなければと思うのであった。


「ありがとうございます。色々と納得出来ました」


 魔力の暴走を抑えきったことで、しばらくは魔物が出現しないだろう。


「(あるいはここら辺にはもう魔物が出現しないかもしれないな)」


 細かく調査しなければ分からないが、急ぎやる必要も無い。


「一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「何ですか?」


 ホワイトが考えを纏め終えたタイミングでニュウギュウが質問をしてきた。


「そちらが稲穂軍の発生装置ですよね」


 彼女はキノコ村長が手にしている魔道具を見て、その正体を見破った。

 いつもの勘によるものなのだろうか。


「よく分かりましたね」


 ここで誤魔化したところで、怪しいと思われている時点でもう遅い。

 キノコ村長から強引に奪われる可能性を考えたら、素直に認めて対処する方が早い。


「あんな規格外の物を生み出すだなんて、ホワイトさんにしか出来ないでしょう?」

「しかも私のこともご存じでしたか」

「うふふ。ホワイトさん以外の誰が出来ると言うのですか」


 あまりにもやりすぎてしまったが故、今回のことの裏にはホワイトがいるということがバレてしまった。そう考えれば、ニクギュウが強いと感じ執着し、先日謎の問答を仕掛けて来た外国人がホワイトであると考えるのも自然なことだろう。


「バレたところで、どうするつもりですか?」

「どうも致しませんよ?」

「え?」


 国民を腑抜けにする危険な魔道具だ、なんて言って壊そうとする可能性まで考えていたのだが、予想外に全くネガティブな反応をしなかった。


「むしろ積極的に使わせて頂きたいくらいです。だって皆さんあんなにも楽しんでますから」

「いずれ戦争が無くなってしまうかもしれませんよ」

「代わりに楽しい物があるのであれば構いません。それに、それなら洞窟村の方々も楽しめるでしょう」

「あ……」


 その言葉に、キノコ村長が驚きを隠せない。

 まさかこの国の妃から、この国の風土に合わない自分達のことを気にかけるかのような言葉が出るとは思っていなかったのだ。


 戦いにしか興味がない国の国王と王妃なら、戦いが嫌いな人々のことなど捨て置く、とまでは行かなくとも優先度がかなり低いのではないかと思っていた。あるいはその存在すら忘れさらている可能性もあるのではとすら思っていた。


「皆さんも私達の仲間です。心配しているに決まっているじゃありませんか」

「王妃様……私達は……私達はっ……!」


 自分が考えていた以上に、彼らは思われていた。

 彼らが自国に馴染めず、隠れ住むようになっていたことを、実はこの国の国民は気にかけていた。


 洞窟村の人々が戦争好きな人々を仲間と思い心配しているのだから、その逆だって成立する。


 この国は異常なまでの戦争好きという欠点があるが、それを除けば優しい真っ当な感性の人々なのだから、馴染めない人のことを気に掛けるのも当然のことだ。ただ、露骨にそれをやってしまうと洞窟村の人が逆に更に気に病むと思い、敢えて適度な距離感を保っていただけだった。


「(あれ、もしかして案外早く変わるのかな?)」


 彼らが洞窟村の人々のことを想い、命を懸けた戦争ではなく『勝負』で満足しようと努力してくれるのであれば、この国の性質が変わるのに時間がそうはかからないかもしれない。

 その可能性が見えただけでも、ホワイトは大満足だった。


「そのとおおおおり!」

「アイスコフィン!」

「ぎゃああああ!やめ、やめろ!」

「う~ん、しつこい」


 せっかく良い雰囲気だったのに、ついにニクギュウが顔だけ氷を割ってしまった。

 うるさかったのでもう一度凍らせたが、またすぐに割ってしまった。


「仕方ない。もっと強く」

「だから止めろと言ってるであろう!それより洞窟村のことだ!」

「えい」

「ぎゃああああ!この流れで凍らせるか普通!?」

「う~ん、しつこい」


 大事なことを言おうとしているのかもしれないが、なんとなくノリで凍らせてしまった。

 反省はしていない。


「ごほん。洞窟村の村長キノコよ」

「は、はい!」


 首から下が氷漬けで威厳も何もあったものではないが、キノコは素直に畏まって話を聞いている。

 一方でホワイトは、なんかシュールだなーと他人事のようにその姿を見ながら、少しでも変なことを言ったら今度は炎で髪を燃やし尽くしてやろうと考えていた。鬼畜である。


「いつまでもあんなところに引きこもってないで出てこい。ソレがあれば、いずれ死ぬ者も傷つく者も減るであろう」

「はい」

「そしてお前達も楽しく生きろ。国民全員が笑顔でいられることが、この国が望む本来の姿だ」

「……はい」

「これまで肩身の狭い思いをさせてしまいすまなかった」

「…………身に余る…………お言葉です」


 戦争で一番活躍した者が王になる。 

 それは一番野蛮な人物が王になると思われても過言ではない。


 しかし今のニクギュウは確かに王であった。

 全ての国民のことを考え、国の未来を案じていた。


 氷漬けにされているので台無しだが。


「ですがあなた。このままでは他の者が王になり、考えなしに戦を仕掛けるかもしれませんわ」

「む、確かに」


 まだ稲穂軍との戦争は終わっていない。

 このままでは、ほとんど参戦していないニクギュウは王の座から引きずり降ろされてしまうだろう。


「ではそろそろ行くか。むうううん!」

「え?」


 なんとニクギュウは強引に氷の呪縛を破壊してしまった。


「(まずい、『お前を倒せば俺が一番だ』なんて言われてまた絡まれかねない)」


 慌ててホワイトは臨戦態勢をとり、今度こそ完璧に動きを封じてやろうと準備する。

 だがニクギュウはホワイトに背を向けて戦場へ向けて歩き出した。


「いってらっしゃい。あなた」

「ああ、行ってくる」


 どうやらここでホワイトと遊んでいる時間が無いことくらいは分かっていたようだ。

 ホワイト達を残してニクギュウは戦場へと向かっていた。


「(これで一件落着かな)」


 時間をかけて国を変えようと思っていたが、予想していたよりも早くに変わりそうだ。

 しかも洞窟村の人々も、外に出て笑顔で生きられるかもしれない。


 他国に戦争を仕掛けるなんてことはもちろん無くなり、しばらくは魔道具を使って遊んでくれるだろうから、もうロークスユルム王国は放置しても良い。


「(やっと帰れる)」


 長期間滞在したというわけではないが、ドッと疲れた。

 特に精神的に。


 戻ってからもやることが山盛りだが、それでも今は一刻も早くこの場から去ってこの国から解放されたいと思い、ニュウギュウ王妃とキノコ村長に別れの挨拶を告げようとした。


 その時。


「ホワイトと言ったな」


 ニクギュウが背を向けたままホワイトに話しかけて来た。


「知ってるぞ。貴様、世界最強を目指しているのだそうだな」

「…………」


 それもまた辺境伯家が漏らしたホワイト情報だ。

 だからそれをニクギュウが知っているのは変なことではない。


 だが敢えてそれをこのタイミングで言い出したことに、言いようのない不安を覚えた。


「ならば当然、メキシミリの武闘大会には参加するのであろう」

「…………」

「その時こそ絶対に倒す。腕を磨いて待っておれ。はーっはっはっは!」

「…………」


 メキシミリとは大陸中央にある商業が盛んな国だ。

 そこでは四年に一度、世界最強を決める武闘大会が開催され、腕に覚えのある人々が集う。


 ハーレムのために世界最強になれとの条件を達成する必要があるホワイトはもちろん参加する予定だ。


「(出たくない……)」


 しかしそこでまたニクギュウに絡まれることが決定的となると、途端に参加意欲が失われ、せっかくこれでニクギュウから解放されてひゃっほーな気持ちが一気に憂鬱になってしまうのであった。


「勘弁してくれよおおおお!」


 盛大に嘆くホワイトだが、今回の旅路は彼にとって非常に有益なものだった。


 周辺国家に迷惑をかけ続ける戦争大好きロークスユルムから、戦争を失くすきっかけを作ったのだ。

 しかもロークスユルム王国内で新たな勝負事が絶大な人気となり、それが世界中に広まり、新たな文化として根付いていくことになる。


 戦を失くし、新たな笑顔を生み出した英雄ホワイト。


 彼の最初の英雄譚の一つは、何故かホワイトとニクギュウの壮絶な死闘で締められる偽の物語サーガとなり語られるのであった。

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