16. 【ロークスユルム】これもう国ごと滅ぼすしかないんじゃないか?

「噂には聞いてたけど、本当に侵入し放題なのか……」


 砦を抜けると、ロークスユルム側の関所や砦が無く、ロークスユルム国内だった。入り放題、出放題で本当にここが国境なのかと疑問に思ってしまう。


「戦争間近って言う割には、見張りすら居ないんだな。本当に変な国だ」


 魔法を使い高速徒歩移動で進んでいると、小さな農村を発見した。

 一見して普通の農村に見えるのだが、何か違和感がある。


 その理由は農村そのものではなく、そこに住む人々であった。


 ホワイトは近くで畑を耕している男性に声をかけた。


「あの、すいません」

「ああ? なんだてめぇは」


 ちょっと声をかけただけなのに、いきなりメンチをきられてしまった。

 妙にガタイがよく、頬やら腕やら全身に傷跡がある感じ、農民というよりチンピラにしか見えない。


「私は歴史学者のグレーと言う者です」

「れきしがくしゃだあ?」


 正体を隠すために適当な職業をでっちあげたのだが、そもそも歴史学者が何なのかすら分かっていないような反応だった。

 頭の中身もチンピラレベルなのかもしれない。


「この国の歴史について調査するために来たのですが、少々お話をお聞かせいただけませんか?」

「ケッ、れきしがくしゃだかなんだか知らんが、話を聞きたいなら力づくで言わせてみな!」

「え?」


 なんと農民の男は、突然ホワイトの顔面を殴ろうとしてきた。

 ホワイトはそれを躱しながら男の腕を両手で掴み、背負い投げのような形で男を回転させて地面に叩きつけた。


「ぐえっ!」

「これでご期待に添えましたでしょうか」

「ぐあああ!分かった!分かった!俺の負けだ!チクショウ!」


 そのまま腕を捻ってめたら男はすぐに敗北宣言した。

 解放された男は痛めた腕を抑えながら顔をしかめて立ち上がる。


「くそ、なんだってんだ。んで、何が聞きたいんだ。小難しいことを聞かれても答えられんぞ」


 居直ったようにぶっきらぼうに告げる男だが、ホワイトはすでに情報を一つ得ていた。


「(国民の大半が喧嘩っ早く、話をするだけでも勝負に勝って強さを示さなければならないというのは本当だったんだな)」


 ロークスユルムに関する知識として覚えてあったが、本当かどうかどうにも疑わしかった。

 それが残念ながら・・・・・本当のことであったと分かったのは一つの収穫だ。


「(頭おかしいんじゃないか?)」


 ホワイトの知識の中にあるロークスユルムに関する信じられない情報の数々が真実である可能性が高まり、思わず頭を抱えてしまいそうだった。

 そんなネガティブな気持ちをどうにか抑え、ホワイトは男に質問をする。


「貴方は農民ですか?」

「ああ?他の何に見える」


 むしろ農民にだけは見えない風貌なのだが、鍬を持っていれば農民だとでも言いたいのだろうか。

 ホワイトはツッコミたい気持ちを抑え、冷静に説明する。


「気に障ったのなら申し訳ございません。貴方が農民にしてはとても強そう・・・に見えたもので、てっきり騎士か何かかと」

「おおそうか!強そうに見えるか!なんだよ、お前、人を見る目があるな!」


 さきほどホワイトにあっさりと敗北したことをもう忘れているのか、軽くおだてたら簡単に乗ってしまった。


「まぁだが俺様は騎士だなんて堅苦しい者じゃねーよ。敢えて言うなら戦士だな」

「戦士ですか?」

「おう。これでも何度も戦争に参加して大活躍してんだぜ」

「それは凄いですね」


 その『大活躍』が多くのを殺めたということならば決して褒められたことでは無いが、そんなことはおくびにも出さずにホワイトは称賛した。本心を隠して演技することもまた、師に叩き込まれているのだ。


「でもそんな優秀な戦士がどうしてここで農民をやってるのですか?」

「優秀!そうだ、俺は優秀な戦士だ!がはは!優秀だからここにいるんだぜ!」

「え?」

「そろそろサンベールに戦争を仕掛けることになっててな。ここに居れば最前線で戦えるだろ」

「な、なるほど。もしかして他の皆さんも」

「まぁな。戦功を争うライバルって奴だ」


 辺りを見回してみると、農民として働いている人々は誰も彼も厳つく戦い好きそうな男ばかりだ。

 中には農作業をせずに剣を振り回している男もいれば、必要以上に強く畑を耕して訓練しているような男もいる。


 普通の農村なのに、働いている男達が異常。

 それは戦争を待ちきれずに戦争相手の国サンベールの最寄りの村に来て働いている戦士だらけだったからだ。


「(つまりこの国は単に王族が戦争好きなだけじゃなく、戦争好きな国民が多いというお国柄ということになる。これもう国ごと滅ぼすしかないんじゃないか?)」


 とはいえそれはあくまでも最終手段。

 なるべく被害者が増えないように問題を解決したい。


 そうでなければ虐殺者だなんて不名誉な評価をされてしまい、世界中に信頼されるという目標を達成できなくなってしまう。もちろん、そんな目標とは別にホワイト自身が犠牲者を少なくしたいと心から思っているというのもあるが。


「ちなみに、女性や子供はいないのでしょうか?」


 農村なら成人男性以外も仕事をしていそうなものだが、この村ではむさくるしい男の姿しか目に入らない。その理由をホワイトは知っているが、知識と事実が一致するか念のため確認してみた。


「ガキは王都で訓練中さ。俺も昔はあそこで鍛えたもんだ。当時は神童だなんて言われたなガハハ」


 ロークスユルムで生まれた子供は、若くして王都に連れてかれて戦闘のイロハを叩き込まれる。

 一般常識を学ぶ勉強は最低限であり、戦闘訓練ばかり。

 その結果生まれるのが目の前にいるような戦争バカであった。


「んで女だったか。女もジジババも戦えねぇ奴らは王都の北でのんびりしてんじゃねーか?」


 子供の話は喜んでするにも関わらず、女性や老人については全く興味が無さそうにする。

 老人はともかく、戦闘民族が女性について触れようとしないことが気になり、ホワイトはつい聞いてしまった。


「女性は離れた所にいるんですか。それで良いのですか?抱きたくなることはありませんか?」


 目の前の男がどうかは分からないが、恋人や妻がいる男だっている筈だ。

 若い男性が、好きな女と離れ離れで戦い続け、会いたいと思わないのだろうか。

 もっと直接的に、抱きたいという性欲を我慢できるのだろうか。


「女を抱くのも悪かねーが、俺は戦の方が好きだな」


 我慢するどころか、戦さえあればそれで充分と言う感じだ。


「(噂は本当だったのか。こんな民族が本当にいるだなんて……)」


 ロークスユルムは戦好きであり周辺国家から嫌われているが、唯一評価されているのは勝利した時に略奪の類をしないこと。村を襲い、女を攫い手籠めにする。山賊や盗賊のような卑劣な行いは絶対にやらない。


 何故ならば彼らは戦がしたいだけだから。


 そこで得られる報酬や、戦以外の快楽など不要。あくまでも戦のみに愉悦を覚える。

 だから彼らは快楽を得るための手段として戦争を仕掛けてくるのだ。


「参考になりました。色々とお聞かせ頂きありがとうございました」

「おうよ。ところでお前さん外の国の奴だろ。次の戦争には参加するのか?」

「私ですか?」

「そうだ。参加するなら今度こそぶっ倒してやるからな!」

「はは、そうですね。もし戦争が起こるなら・・・・・あなたの敵になるかもしれませんね」

「ガハハ!そりゃあ良い!是非とも頼むぜ!」


 ホワイトは戦争を起こさせないためにこの国にやってきたのだ。

 男の願いが叶うことはきっと無いだろう。


「(さて、どうしようか)」


 自分の記憶にあるロークスユルムの情報が正しいことが聞き込みで判明した。


 信じられないことだが、やはりロークスユルムは戦争バカが集う国だった。


 戦争が生きがいとも言える彼らをどうやって止めれば良いのだろうか。

 いっそのこと最初に思ったように滅ぼしてしまった方が世界のためになるのではないかと思ったりもする。

 少し悩んだホワイトはある判断を下した。


「(北に行ってみよう。女性達は別の感性を持っているかもしれない)」


 男共が戦争バカならば、戦争に参加しない女性陣はどう思っているのだろうか。

 もしもそこで感性にズレがあるのであれば、この国は軌道修正出来るかもしれない。


 色々な人の意見を聞いて答えを出そう。

 そう思ったホワイトはロークスユルム王都を迂回して、一路北へと向かうのであった。

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