執行官の最強少女

@Nier_o

第一章

第1話 警察庁特異犯罪対策課

まるで雑草のように、巨大なビルが周囲一面に立ち並ぶザ・都会といった都市。


――名を【陽希市ようきし


それは、燦燦さんさんと煌めく太陽と言う光に照らされる、まるで希望の都市――――なんて謳い文句を掲げている都市である。


イコール希望という安直な考えでつけられたキャッチコピー。

他にも、希望の朝日が昇る都市。等様々な言葉を並べている。

しかし――この都市が希望で溢れているかと問われれば、それは間違いだ。


警察庁特異犯罪対策課陽希支部けいさつちょうとくいはんざいたいさくかようきしぶ所属、稲刹とうせつあかり!!只今参りました!」


黒とグレーが基調とされている重厚感漂う室内。

その奥の机に腰を降ろしている厳格そうな50代くらいの男性に、赤いショートヘアーの150cm程の伸長をした少女が、その琥珀色の瞳を真っ直ぐと向けて開口一番そう口にした。


ビシッと背を伸ばし、足の開きは60度に固定。

頭部に右手をつけ、使わない手は脚に密着させる。

完璧な所作である。


「君が――稲刹燈か」


ダンディーな声が室内に響き渡る。

それは同時に、燈に向かって確かな圧が圧し掛かった。


「!!」


限界まで背筋を伸ばしていたというのに、無意識に更に背筋を伸ばそうとする。

それ程までに、かしこまってしまう重厚感が、彼にはあった。


「私は徒篠あだしの巌朔がんさく――こう見えても、この特異犯罪対策課の長官をさせてもらっている」


肘を机に押し当て、手のひらを組んだ男が、自己紹介を踏まえる。


「稲刹君……君の事は聞いている。わずか14歳にしてホテル“ライブラリー”にて、立てこもり事件を引き起こそうとした首謀者5人……それら数名を“たった一人”で制圧したそうだな。しかも、それら5人は全員――新醒者のうりょくしゃだったと聞いているよ」


――【新醒者のうりょくしゃ

それは、例えば火の無い場所で火を起こし、あるいは風を操り、あるいは氷を生成する――そんな超常的な現象を引き起こせる力を持つ人間の総称。


そして、それら超常的な力を、人はこう名付けた。

――【新醒せんじゅつ】と。


「はい!」


そして、それら新醒者のうりょくしゃによる犯罪を対策、取り締まる組織。

それが、この警察庁特異犯罪対策課である。


「そんな優秀な君が、僅か18で我らの一員になってくれた事を、心より嬉しく思う。有難う」


それは、言葉通りの心からの感謝だと、燈は直でそう感じた。


「いえいえ!!とんでもないです!!」


すかさず燈は謙遜するが――それでも、長官から直々にそう言われた事は嬉しく思っている。


「――おっと失礼。前置きが長い大人は忌み嫌われるだろう……早速だが、本題に入らせてもらう」


燈は思わず息をゴクリと呑む。

燈が何故、この場所へ訪れたのか――それは、長官直々の呼び出しによるもの。


彼女は、今年から特異犯罪対策課に入庁した若き逸材。

警察学校にて彼女が出した成績は、同い年の者達とは一線を画していた。

例えば、実践訓練。


現役で活躍している特異犯罪対策課の警察が直々に相手になり、武術から新醒せんじゅつの扱い方までを教えるのが普通だった。

しかし、燈は違った。


他の者達は現役の警察官と互角の勝負を繰り広げる事が出来ないまま訓練を終えるのだが、ただ一人燈だけは――現役と、互角以上の戦いを収め勝利していた。


それに加え、15歳の頃に彼女が為した功績……それらを踏まえ、巌朔は燈に眼を付けたのだ。


「稲刹君。君の腕を見込んで是非とも検討して欲しい事がある」


そう前置きをすると、巌朔はゆっくりと口を開く。


「私が新たに発足した組織――そこに、是非とも稲刹君を引き入れたいのだ」

「組織、ですか?」


そう聞き返すと、巌朔は一泊の間を置き、その名を告げる。


「――名を、特異犯罪執行課」

「特異犯罪執行課……」


聞きなれない、いや聞いたこともないワードに、燈は困惑を浮かべる。


「困惑するのも無理はない。何しろ、一週間程前に立ち上げたものでな」


そう言うと、巌朔は立ち上がり、真後ろにあるデカデカとした窓から陽希市ようきしを見下ろす。


「今、この都市は混沌としている。それは、水面下でうごめき、いつしか地上を蝕んでいく。君にこの意味が分かるか?」

「意味……ですか」


その返答に、巌朔は瞬時に彼女が“あのこと”を知らないのだと理解した。


「なるほど、ならば教えよう。近頃頻発している新醒者のうりょくしゃの暴走は知っているか?」


新醒者のうりょくしゃの暴走。

それは、自暴自棄になった新醒者のうりょくしゃ新醒せんじゅつを用いて街中を暴れまわるといった意味合いの言葉ではない。


新醒者のうりょくしゃ自身が、新醒せんじゅつを制御できず、抑えられず――そうして力を上手く扱えなくなった結果の果てが、新醒者のうりょくしゃの暴走である。


「知っていますが……アレの理由が判明しているのですか?」


そう問いかけると、巌朔は視線を燈に向け、ただ一言、呟く。


「あぁ」


そうして、続けざまに。


「今まで起こってきた暴走。それらには不可解な共通点が存在した。それは――」


一拍の間が流れ、そして――巌朔は口にする。


「暴走していた人間はみな、新醒せんじゅつを持たぬ無新醒者むのうりょくしゃだったのだ」

「え……?」


巌朔が発したその言葉に、燈の口からは困惑が漏れる。


「驚くのも無理はない。私も、当初はそのような反応をしたものだ。しかし、これは紛れもない事実だった」

「で、でも、そうだとするとどうやって……」

「それが未だ不明なのだ。もし仮に、後天的に新醒せんじゅつを植え付ける事が可能だとするのなら――それは間違いなく、新たなる問題へと発展していく事となる。そして現に、新醒せんじゅつを後天的に授かったであろう人間が問題を起こしている」


巌朔が、静かに拳を握る。

彼は、この事件に憤りを覚えていた。


それは、未だ事件の糸口すら掴めないから。

それは、暴走により数えきれない程の犠牲者を排出してしまっているから。


「だからこそ、私は作ったのだ。暴走した新醒者のうりょくしゃや、常人には手に負えない実力の高い犯罪者に対抗できる力を持つ新醒者のうりょくしゃ達で構成された小規模組織を。」

「それが、執行課…………」

「そうだ。君さえ来てくれれば、丁度5人となる。試しとしては丁度いい数字だろう」

「そうなん……ですか」


それを受けて、燈は考える。

燈には、目的があった。

とても大事な――目的が。


「……ふむ。迷うのも無理は無い。しかし、私としても君は是非とも迎え入れたい人材だ。もし入る為に条件が必要だというのなら、遠慮なく言ってもらいたい」

「条件……」


その言葉を聞いて、燈は数十秒思案したのち、告げる。


「では、私の――両親と、姉を殺した……人間について調査がしたいです」

「…………なるほど、同じ苗字だと思ったが、まさか稲刹君があの事件の被害者だったとは――」


今より3年前の出来事。

燈が友達の家で遊んだ後、家へと帰宅すると――無惨にも殺害されていた両親と対面した。


そして、学校から帰っている筈の姉は、行方不明。

当時の特異警察による見解は、間違いなく新醒者のうりょくしゃによる犯行だと結論付けたが――未だに犯人の手がかりが掴める所か、姉の居場所も未だ分からず終いだった。


だからこそ、燈は決意したのだ。

自分自身が特異警察になり、家族を滅茶苦茶にした犯人をこの手で――必ず捕まえるのだと。


「許可しよう。執行課として従事する間、暇であれば君は自由に調査してもらって構わない。多少の融通はきかせる」

「……!!ありがとうございます!」


燈は、深々と頭を下げ、感謝を述べる。

……と、その瞬間だった。

突然巌朔の携帯が音を立てて震えだしたのは。


「失礼」


そう一言言い放ち、電話に出る。

そうして数分後――最後に「了解した」と言い放った後、巌朔は静かに告げた。


「急で悪いが、稲刹君。早速任務だ。新醒者のうりょくしゃの暴走が発生した。君にはその場に行って対処してもらいたい」


そう言うと、巌朔は壁際にある人一人屈んだら快適にはいれそうな程にデカいクローゼットの前まで歩く。


「とはいえ、君はまだ新人だ。だから先輩をつけよう」


すると、勢いよく開け放った。

――そこで燈は目にした。


「急に開けないで」


クローゼットの中でくつろいでいた一見幼く見える白い髪の少女を。


「……仕事だ。そこに居たのだから話は聞いていただろう」

「聞いてた。私、倒す」


無機質な声を響かせて、少女がゆっくりとクローゼットから出てくる。


「なんでクローゼットの中から……?」


そんな光景に、燈の口から困惑と言う名の言葉が零れた。

そんな燈をよそに、少女はちょこちょこといった効果音がつきそうな歩き方で燈の前に足を運んだ。


「私は、白亜はくあ慧乃えの。多分先輩」

稲刹とうせつあかりです。宜しくお願いいたします、先輩」

「敬語、要らない」

「えっ……わか、った?」

「うむ、それでよし」


なんて会話を繰り広げていると、中断させるかのように巌朔がコホンと咳払いをする。


「それでは、任務開始だ。それと、安心していい。彼女の強さは私が保証する」

「……はい!!」


――こうして、燈の初任務が幕を開けるのだった。

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