召喚国に熨斗をつけてお返しを

第26話【朗報】猫人メイドは元日本人!

 カースヴェルトからの捕虜を受け入れた翌日、身に覚えのないデバフが手に入った。

 それが【支配_Ⅰ 】というものだ。


 隷属化の系統かな? 持ってないデバフだったので王様には聞いたようだな。

 間違いなく捕虜の仕業だろう。

 

 だから僕にフレンドにして獲得してくれという王様からのメッセージの可能性もある。

 一番に支配されたのはミオかな?

 お城に置いとくと、毒殺からの傀儡まではセットで見られて然るべきか。


 王様に毒は効かないけど、それ以外には通用しちゃうからね。

 やっぱり危険人物にはフレンドになる方向で対処するしかないようだ。



 店の開店準備をしていると、朝から元気なミオが挨拶をしてくる。


「おっはよー!」


「おはようミオ。例の二人は?」


「まだ寝てるー。お風呂とか、ふわふわのベッドに大喜びしてたからね。はしゃぎつかれが出たんだと思う」


「一応、あの二人とはフレンドになっておこうと思う。今朝な、ちょっと身に覚えのないデバフを獲得してたんだよ。お前は特に狙われやすいから、気をつけとけよ」


「おじさん、あたしの特性忘れた?」


「聖女でしょ? 甘いものが大好きな」


「甘いモノは女子ならみんな好きだから! 聖女は関係ないから!」


「はいはい。それで、体に違和感は?」


「特にないよー」


 とのことだ。違和感があったら、朝起き出すこともできないもんな。

 例の二人は寝こけてるらしい。なんでもやるって言ったくせに、翌日からこのザマでは所詮口だけというやつだな。


「おはようございます、アキトさん」


「おはよっす」


「君たちも随分朝が早くなったようで」


「ここにゃゲームも漫画もないからな。陽が落ちたら寝るし、朝日が昇るとともに起き出す習慣をつけたら朝方になっちまったぜ」


「いいことだ。まぁ異世界で夜型になる人間はそんなに多くはないだろうけど」


「言えてる」


「さぁ、朝飯の支度だ。朝はさっぱりとしたものがいいかな?」


「そうめんでいいよ」


「いっそ新しい従業員の歓迎会も兼ねて流しそうめんにするか? あの二人が好きかどうかはわからないけど」


「嫌いなら別に食わせなくていいと思うけど」


「まぁな。カレーでも食わせとくか」


「カレーそうめんもうまそうだよな、味変で」


「お前それ、そうめんに対しての冒涜だぞ?」


 あれは疲れた胃袋を癒す食べ物なんじゃないか。

 そこに刺激物を入れるなんてどうかしてる。

 それに食べる前から味変のことを考えるんじゃない!

 そういうのは食い飽きた時の対処法だ。


「おじさんは頭が硬いなー」


「君たちと5歳しか変わらないはずなんだけどなー。君たちが小学1年生だった時、6年生だったんだぞ、僕は。おじさん扱いは即刻にやめるべきだ」


「でも、僕たちが中3の時、20歳でしたよね? 十分大人では?」


「20歳は君たちが思ってるほど大人ではないぞ? あらゆる束縛から解放されてはしゃぎたいだけの子供だよ。その分責任が重くのしかかるんだ。今まで当たり前にあった、守ってくれたものが20歳を皮切りに全部自分でやらなくてはいけなくなる。家にいればやらなくてもいいが、一人暮らししたら大変だぞ?」


「今みたいな?」


 そう考えたら今の暮らしは一人暮らし相当の大変さではあるか。右も左も分からない場所での生活という意味では。


「ある意味で社会を早く知れてよかったんじゃないか?」


「自分で望んでここにきたわけではないですが」


「僕もだ」


 力をもらってノリノリだったことを話題にあげて朝食の準備。

 素麺は小麦、塩、水、油さえあればどこのご家庭でも作れるシンプルな料理の一つだ。

 麺を打つスペースが限られるご家庭では難しいが、異世界は土地の広さだけが売りみたいなもんだからな。麺打ち台は真っ先に確保した。

 ここじゃ、なんでも自作するのが当たり前だ。


 自分たちだけで食べる分の面を確保したら、あとはめんつゆを煮出す。

 

「めんつゆの準備できました」


「お、さんきゅ」


「キノコを鍋に放り込んで煮るだけですからね。ただこいつを持って帰れる人が限られてますけど」


「吐血Ⅴに免疫を持ってる人物ならワンチャン」


「僕たち以外にどれくらいいますかね?」


「この話、掘り下げる要素なくない?」


「確かに」


 めんつゆの粗熱をとって、素麺を茹でて冷水に晒す。

 すっかり外気が低くなって冬の装い。


 冬にそうめん? とお思いだろうが、僕はフレンダさんから魔法攻撃の耐性を授かってるので暑さと寒さには滅法強かったりする。


 なのでベアード達が冬籠りする準備を始めていても、普通にお店を開いて生活していた。


「二人とも、起こしてきたよー」


「おそよう、新人猫耳メイド。もうすっかりお天道様は中天にあるぞ?」


「ワシらは夜型じゃからの」


「朝日に耐性がないんです」


「そんなんでこれから先どうする。とりあえず朝飯はそうめんだけどどうする? 箸は使えるか?」


「そうめんとはなんとも懐かしい食事じゃ。ワシは扱えるがアンリはどうじゃ?」


「見て覚えるとしましょうか」


「ふーん、そっちのちみっこは日本料理に精通しているのかい?」


「ちみっこ言うな! ワシにはオズワルドという名がある。ちょいとこの見た目に反していかついので、オズと呼んでもらって良いぞ? こう見えて日本人じゃ。俗にいう召喚勇者と呼ばれる存在じゃな」


「へー、本名は?」


「真名は訳あって明かせぬのじゃ」


「呪い関係?」


「そういうことじゃ」


「私はアンリとお呼びください、店長」


 まぁいいや、フレンドにしとこ。フレンドにしちゃえば勝手に情報出るからね。

 もう一人もフレンドに。これで今のフレンドは7人だ。


 ふんふん、名前は乙津世界オズセカイ。一人称からそうじゃないかと思っていたが、正真正銘男だ。なんで今幼女の姿になってるのか、さっぱり不明だが、きっと深い理由があるのだろう。呪い的な。断じてのじゃロリに深い興味があるというわけではないようだ。


 ちょっと僕もわからない世界だ。あまり口出しするのはやめておこう。


 そしてもう一人はアンリエッダ・マンユ。どこかで聞いたことがあるような名前だけど、きっと気のせいだろう。断じて鳥葬で有名なあの宗教とは関係ないに決まってる。どうせ呪いつながりだろう。そうに違いない。


「オズさんにアンリさんですね。ようこそ我が店に。まぁ、うちではいろんな商品を扱う手前、このような耐性リングの装着が必要不可欠となっています」


 僕は見せつけるようにして腕を捲って腕輪を晒す。


「ああ、これがこの店の従業員の証だぜ」


「僕も持ってるよ」


「あたしも〜」


 全員がその場で口裏合わせしてくれる。ゼラチナスを出る時に渡したリング。まだ持っててくれたんだな。

 それと全く同じものに福神漬けの効果をのせてプレゼント。

 それを見て早速オズが反応を示す。


「ほう、よもやこんな代物が店員サービスで配られようとは(これだから異世界から来たばかりの勇者はいかん。いまだに敵意が消えておらぬ相手にプレゼントとはな)」


「おかしかったですか?」


「異世界勇者の規格外振りをまざまざと見せつけられたようじゃわい(この程度か、異世界勇者。これなら操るのも楽じゃろうて)」


「オズ様、これはそこまでのものなのですか?(大したことなくない?)」


「ふむ。アンリには見えぬか? この破邪の腕輪の特性を(大したことはないが、ここは褒めておくに限る)」


「私にはそれほどすごいものには見えませぬ(私、そういうの苦手なんですよね。口の軽いあなたと違って)」


 呪いをメインで扱ってる国からしたら大した耐性ではないかも知れないけどね。そして言ってる側からこれである。



ポーン!

【状態異常:支配Ⅱを検知しました】

解析中………10%……



 ふむ、支配Ⅱ。

 僕の対応してないスキルだ。

 どうもこれは思考誘導と隷属化、魅了なんかの効果が同時に行われる類のものだな?


 向こうの会話にいつの間にか乗っている自分がいる。

 こうやって何気ない会話で興味を持たせるのが向こうのやり口なのか。

 まぁ、会話だけでいい気になっている間に取得させてもらおう。


「それじゃあ、親睦会も兼ねて流しそうめんだ。最近、ようやく麺つゆに見合うつゆが見つかってね。日本人なら感涙すること間違いなしだよ!」


「いただこう!(そうめんか、悪くない!)」



ポーン!

【状態異常:支配Ⅲを検知しました】

解析中………10%……



 なんだかんだ、食事を済ませるだけで支配をⅡ〜Ⅲまで獲得してしまった。

 普通におしゃべりが上手いのだ、この子。

 トーク術が高いのだろうね。

 日本ではきっとエリートサラリーマンだったのだろう。

 なんで今、異世界で幼女をやっているのか。

 これがわからない。


 

「ふぅ、満腹じゃ。こんなに馳走になったのは初めてじゃな(もう動けん。あとは寝させてもらおうぞ)」


「私もお腹いっぱいで、動けそうにありません(これ以上食べたら戻しそうよ。それはそうと、支配の魔術は完璧なんでしょうね?)」


 何やらチラチラとアイコンタクトを取り合う二人。

 これはまだ何かやらかす気でいるな?

 こちらもミオにアイコンタクト。

 僕がいつ死んでもいいように、店の中に結界を張ってもらう。

 残機は1あるので、一回までなら復活は可能だ。


「大袈裟だなぁ。ミオ、後片付けは僕たちがやっておくから、新人に座ってできる仕事の案内を頼む。飯を食った以上、働いてもらう必要があるからね」


「なんと! 幼気なワシらを働かせるというのか?(おかしいのう、支配は効いておるはずじゃが?)」


「働かないというのなら追い出すだけだよ。王様には悪いけど、無駄飯食いを養う余裕はうちにはないから」


「少しばかりの休憩もいただけませんか(ちょっと、オズワルド、話が違うじゃない!)」


「休憩というか、力仕事以外の仕事をしてもらおうと思って。ミオ」


「はーい、じゃあお二人にはこれからお店のポップを考えてもらいまーす」


「ポップとはなんですか?(なんで私がそんなことしなくちゃいけないのよ!)」


「アンリ、郷に入っては郷に従えという諺もある。今は受け入れよ(今回はどうにも効きが悪い。次の機会を狙おうぞ?)」


「それも、日本という国のお言葉ですか?(チッ、仕方ないわね)」


 習うより、慣れろ。いい言葉だ。

 こうして二人の猫耳メイドは、ミオと一緒に看板娘になっていった。

 正直ね、僕が作り出す中間素材より、ダイゴとマサキの作る工具の説明を紹介できる人材はミオだけでは足りなかったので、ここに元日本人が入ってくれるだけで盤石の布陣となった。


 まぁ、だからって、フレッツェンの獣人が買ってくれるわけではないんだけどね。

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