第15話【朗報】猫人仲間がやってきた
「おじさーん、こんな隠し玉持ってるなんて酷いじゃん! あたしたち、あの王宮で口に合わない料理ばっかり食べてたんだからね!」
「食い終わるなりそれかよ」
新人猫人の聖女が唇を尖らせる。
「美桜ちゃん、言い過ぎ」
それを咎めたのは新人猫人の剣聖だ。
彼ってこんな性格だったっけ?
もっとオラついてたような気がしたけど、僕と被る一人称だった。
体格がいいのに一人称が僕なのは非常にアンバランスである。
あのお姫様が性格を歪めたんだろうなぁ。
僕とフレンドになってそれが解けちゃったと。
そう考えると悪いことしちゃったかもしれない。
「ま、おじさんのおかげであのコロッケや唐揚げが最高に美味いってわかったんだけどさ」
「毒が入ってたのによく食おうと思ったな」
出会った時と態度が変わらないのが新人猫人の勇者だ。
彼はこの三人の中のリーダーなのだろう、リーダーシップに年季が入っている。
「おじさんがくれたこのリング、これが毒素を吸収してくれたんだろ?」
僕が遠征に行く時に渡したリングを見せつけてくる。
あれはゼラチナス国が取り上げてもいいようにブラフで渡しておいたものだ。説明以外の効果はつけておらず、本当にお守り程度のものでしかない。
渡す際に、フレンド登録したのである。
「ああ、まぁ、うん」
「なんだよその歯切れの悪い返事」
「アキト、本当にこの者達はお前の能力を知らぬのか?」
「教える義理はないからね」
「おじさん、さっきからあたし達に向ける態度と、そっちのお姉さんに向ける態度違くない?」
猫人聖女が訝しむ。
それに答えてくれたのは狼耳のフレンダさんだ。
「お前達は本当に知らないのだな。この男、アキトがあの国から捨てられたことを」
「どういうことですか? おじさんは任務に出ていた。そうですよね?」
「実際には違ったのだろうな。オレがこいつを見つけた時、手と足に枷をつけられて、森の入り口に転がされていた。それともゼラチナス国ではその状態で任務に赴くのが普通なのか?」
「そんな……」
「僕はあの国のお姫様から嫌われてたからね。ちなみに毒殺じゃなく、暗殺者も仕向けられてたよ。でも僕の能力はとある条件を達成すると残機が増える仕組み。殺しても復活するもんだから手段を抹殺から追放に切り替えたんだろうね。そして僕は彼女と出会った」
「助けてもらったんだ?」
ニコニコ顔で猫人聖女。
「いや、こんな怪しい奴、燃やして埋めるのが吉だとオレは判断したぞ?」
「吐血しまくってた服で転がされたからね。病原菌の素だーって殺されかけたよ。その時は残機がなかったから本当に詰むところだった」
「どうやって助けてもらったの?」
「僕の能力は以前お姫様に報告した通り、能力の解析だ。しかしそれとはもう一つ、デバフを検知して耐性を獲得するというものがある」
「アキトのフレンドになると、彼の獲得した耐性を分けてもらえるようになるんだ。こいつは死ぬと蓄えたデバフをその場で拡散する傍迷惑な存在だからな。だが、それに目を瞑ってあまりあるほどの恩恵を得られる」
「デバフ耐性? じゃあ俺たちが毒料理を食っても大丈夫なのって?」
「僕のフレンドにしてあるからだ。悪いね、君たちは保険だったんだ。僕が新たなデバフを獲得するための生き餌として勝手に登録させてもらっていた。おかげでたくさんデバフを蓄えることができたよ」
「保険? 生き餌? 詳しくお話をお聞かせ願えますよね?」
自分が生き餌と聞かされて苛立ちを覚える猫人剣聖。
猫人勇者も、猫人聖女も同様だった。
「お前、あえて敵を作るような言い方をするな。仲良くするつもりはないのか?」
「僕は口下手なのさ」
肩をすくめて手のひらを上に上げる。
ゼラチナスでは散々嫌味を言われたんだ。
このくらいの意趣返くらい許してほしいね。
「口から生まれてきたようなやつが、よく言う」
フレンダさんから呆れられ、僕は彼らに能力の特性を語った。
フレンドになるメリット。
そしてデメリット。
人によってはメリットしかないと思うのだが、僕の死後に片付けをさせられると言う意味ではデメリットの方がでかいのだ。
「え、じゃあ俺たちの体調がこんなにスッキリはっきりしてるのって?」
「こいつのフレンド効果だ。多分城にいる時も念入りに複数のデバフをかけられてたんだろうな。最初こそその掛かりは絶大。しかし時が経つとデバフ耐性が得られて抵抗できるようになったのではないか?」
「うん、そう言う感じはあるかも。お姫様もあたし達が自由意志を持つのをよしとしなかったんだよね」
「やっぱりあれってっそう言う感じだったんだ? 国民食の宣言した時、めちゃくちゃ嫌がってたもんな」
「ならその嫌がらせ要素にカレーも追加するといい。内訳を聞かせよう」
カレー。
それは匂いを嗅ぐだけで食欲が上昇し、空腹を刺激。
そして一口食べると全身麻痺Ⅲ、神経毒Ⅳ、思考誘導Ⅱ、致死毒Ⅲが牙をむく。
下手に耐性をもってる方が長く苦しむ悪夢みたいな食べ物だ。
なんでこれ食って獣人は活力が漲るのか、いまだに解明していない。
全くもって理解し難い存在なのである。
「ちなみにその毒消しとして、この福神漬けがある」
「あ、それ絶対美味しいやつ!」
「そういうのあるんならちょーだいよ」
「今日会うのがお前達に化けたゼラチナスの暗殺者の可能性もあったんだよ。それ食って無傷なら僕のフレンドだ。その見極めのためにも、出すのは早計だと思った」
「ゲェ、俺らそこまで疑われてたのかよ」
狼狽える猫人勇者。
「当たり前だろ? 僕は文字通り捨てられたんだ。そんな相手に会いに来る? 今更何をしに? 警戒しない方がどうかしてる」
「まぁ、その背景を知らないで、あたし達訪ねてきたからね」
「うん、任務にしたって遅いなとは思ってた。後から話を聞いたら、護衛の1人もつけてないって聞いたし」
「俺たちは任務が長引きそうなら、手伝おうと思って来たんだよ。まさか隣国に保護されてるとは思わなかった。俺たちに巻き込まれて召喚されたのに、気が回らなくて申し訳なかった!」
ガバリ、と勢いよく頭を下げる猫人勇者。
この子もなんだかんだ正義感が強い。
しかしそれに対して不機嫌そうな態度を表したのフレンダさんだ。
「アキトが巻き込まれた? 逆だろう。お前達がアキトに巻き込まれたんじゃないのか?」
「え、いやだって俺たちは勇者で? おじさんは解析だし……普通はどっちが優遇されるかって話で……あれ? 俺間違ったこと言ってる?」
「それはゼラチナスの基準だろう? 勇者だのなんだのと煽てておけば都合よく傀儡化できる。あの国はそうやって成り立ってきた。逆に言えば、扱い易い能力なんだよ、お前達は」
そんなこと初めて言われた! みたいな顔で猫人勇者がショックを受ける。
チヤホヤされて生活してきたんだろうなぁ。
「我々フレッツェンでなら、勇者などそこらの村長クラスでしかない。だがアキトの能力ならば、最優先で確保したくなる能力だ。我々は状態異常にかかりやすい種族だからな。なまじ聴覚と嗅覚をアテにしてる分、そこを狂わせると戦線が総崩れでな」
「敵国の俺たちにそんな話していいんですか?」
猫人勇者がそんなことを持ちかける。
敵対する意識はないとはいえ、ゼラチナスに帰れば敵だ。
その情報をあけすけにしてしまって良いのか?
そんなことを尋ねた。
「何を言ってるんだ? 国境を跨いだ時点で貴様らはフレッツェンの捕虜だ。五体満足でゼラチナスに帰れると本気で思っていたのか?」
「「「え?」」」
ここで話を聞いたらそのまま蜻蛉返りするつもりだったのだろう。
「まぁゆっくりしていけよ。せっかく僕の同郷の猫人になったんだ。歓迎するぜ?」
僕は彼らを捕虜ではなく、同郷の猫人としてもてなすことにした。
「いいのか? 陛下からは無力化したのち協力要請するように掛け合うよう頼まれたが」
「フレンダさん、彼らはまだ子供です。他人から言われたことを言われた通りにしかできない。自分で考える能力は低い。だから実際にフレッツェンの暮らしを見せた方が早い」
「むぅ」
「なんだか俺らの関与してないところで勝手に話が進んでるんだが?」
「まぁそうだな。じゃあ捕虜と客人どっちがいい? ここから先、人間だと石を投げつけられ、侮蔑の視線、粗末な食事が待っている。けど僕の故郷の知人だとしたら待遇はすごく変わる。住民は笑顔で迎えてくれるし、食べ物は美味しい。どっちがいい?」
是非もなく、後者を選択する新人猫人勇者達。
こうして僕はゼラチナスから最大戦力を穏便に奪ったってワケ!
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<データベース>
向井明人 / ムーン=ライト 23 男
Ability:解析
Stock:2
Friend:5
ーーーーシークレットーーーーーーーーー
Death:5【獲得済み濃縮複合デバフ拡散】
Kill :9,000,000【deathによる被害】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<獲得耐性:75>
麻痺毒 _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ
幻覚 _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ_Ⅳ
魅了 _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ_Ⅳ
思考誘導_Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ_Ⅳ
混乱 _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ
自白 _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ
隷属化 _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ_Ⅳ
神経毒 _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ_Ⅳ
石化 _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ_Ⅳ
吐血 _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ
致死毒 _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ_Ⅳ
全身麻痺_Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ_Ⅳ
昏睡 _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ_Ⅳ
溺水 _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ_Ⅳ_Ⅴ
氷結 _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ_Ⅳ_Ⅴ
感電 _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ_Ⅳ_Ⅴ
裂傷 _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ_Ⅳ
重圧 _Ⅴ
腐敗毒 _Ⅲ_Ⅳ_Ⅴ
酩酊 _Ⅰ_Ⅱ_Ⅲ
呪毒 _Ⅰ_Ⅱ
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