通学・通勤・スキマ時間に読むショートショート集

タカミー

相席

ごはん屋。混雑が少し治まった時間帯。

とあるテーブル席で相席している男たちがいた。

一人はスーツ姿でいかにも会社員といった男。もう一人は私服姿の男。

店に設置されたテレビはニュース速報を流している。

店内の客、忙しそうな店員、テレビの音。

いろんな音が混ざり合い、ガヤガヤと響く中、私服の男が口を開いた。


「最近ニュースになってる事件、あれこの辺りらしいの知ってました?」


「らしいですね。近ごろは物騒だなんだって言いますけど、まさか自分の近所がそう言われるとは思ってもみませんでしたよ」


「変質者やらひったくりやら騒いでいたのがやっと落ち着いてきたと思ったら、今度は通り魔だなんて…出歩くのもおっかなびっくりですよ」


「私はもう怖くて引っ越しを考えているところですよ」


「引っ越しかぁ…」


「少し遠くはなりますが、あそこなんかよさそうですよ。ほら学校とかが集まってる――」


「あぁ、あそこですか。確かその分、防犯なんかにずいぶん気を使ってるって何かで見ましたよ」


私服の男が最後の一口を咀嚼し飲み込む。お冷で一息つくと話を続けた。


「ちょっと真剣に考えようかなぁ」


「この辺りは良い所だったんですけど、やっぱり自分のことが大事ですからね」


スーツの男がお冷を一口飲んでテーブルの紙ナプキンで口を拭いた。

懐から財布を取り出して立ち上がる。同じタイミングで私服の男も立ち上がった。

順番に支払いを済ませ、二人は店を出た。

店を出る二人の背に店員が来店の感謝を告げ、後片付けに取り掛かる。

ちょうどその時店内に二人が話していたニュースの速報が流れる。


「〇〇町で起きている連続通り魔事件について、被害者がいずれも別の事件の容疑者であったことが分かりました。警察は同町で起きている変質者やひったくり犯を狙った犯行だとみて捜査を進めており―――」

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