第16話 ホテルマン、ピザ窯を作る

「おーい、ケト大丈夫か?」


「……」


 材料を買った俺達は車に乗り込むも、ずっとケトは落ち込んでいた。


 それだけあのネコに一目惚れしていたのだろうか。


 材料はスマホ画面を店員に見せると、全て素早く用意をしてくれた。


 道具も含めて全部で、ざっと3万円ほどで購入ができた。


 お金がなくなってしまうが、必要経費になるから仕方ない。


 ピザ窯キットというものも、インターネットサイトでは売っているが、それよりは安く買えたから問題はないだろう。


 それにピザ窯を手作りすることなんて中々ないから、良い経験にもなりそうだ。


 そして気になっていた鳥居を帰り道で探してみたが、やっぱりみつけることができなかった。


 ケトに関しては探せる状況でもないしな。


「こんなところで伸びていると邪魔だぞ?」


 リビングで大の字で寝そべっているケトを突く。


「どうせオイラは生きているだけで邪魔だもん」


「そんなことはないぞ?」


「みんなオイラを災いを呼ぶ厄介者って言ってさ……。そうやってオイラなんて死ねばいいと思ってるんだね」


 俺はシルと顔を見合わせる。


「そのままオイラが全世界に災いをもたらしても知らないよ? ああ、みんななんて死んじゃえばいいんだ」


 不吉な呪いの言葉がどんどんと放たれる。


 ケトなら本当にできてしまいそうな気がする。


 だって、猫又だもんね……。


 止められそうにもないと思った俺は、あるものを取り出した。


「これを食べれば元気になるか?」


 落ち込んでいるケトを見てつい買った、チューブ状のパッケージになったおやつだ。


 ネコが大好きなおやつとして、トレーニングや投薬時の補助、ご褒美として使われている。


 封を開けてゆっくりとケトの目の前に近づける。


「どうせオイラのことバカなネコだと思っているんだ。こんなやつに騙され……んっ……これは?」


 ケトは鼻を近づけて口に含んだ。


「うみゃ……うみゃうみゃ」


 少し意地悪でおやつを手前に引っ張ると睨まれた。


「呪うよ?」


 うん、いつものケトに戻ったな。


 その後もケトに手渡すと自分で持って、ずっとペロペロとしていた。


「おかわりは?」


 パッケージを見ると栄養が偏ってしまうため、最大1日4本までにした方が良いと決められているらしい。


 あまり食べすぎないように個数を制限した方が良さそうだな。


「食べすぎると病気になるらしいぞ?」


「病気……!? それは怖いな……」


 ケトは思ったよりも聴き入れが良かった。


 むしろ病気と聞いて震えるほどだ。


 猫又でも病気が怖いのだろうか。


「今からピザ窯を作るけど手伝ってくれるか?」


「ふくはオイラがいないと何もできないからな」


 そう言ってケトは外に出ていく。


 普段のケトに戻って俺とシルは一安心だ。



 買った荷物は全て裏のベランダに置いてある。


 見晴らしの良い広い空間のため、場所としてもちょうど良いだろう。


「えーっとまずはブロックを並べていくんだね」


 動画を見ながらみんなでピザ窯を作っていく。


 今回はレンガを簡単に並べたようなピザ窯を作る予定だ。


 さすがにドーム状には作れる気はしないからな。


 ブロックを正方形に並べていくと、耐火レンガをその上に並べていく。


「ここに薪を入れるらしいぞ」


「薪ならオイラがいつでも持ってくるよ」


「おお、それは頼りになるな」


「だからまたあれを食べさせてくれないか?」


 ケトはジーッと机の上にあるおやつを見ていた。


 勝手に食べないところを見ると、聞き分けは良さそうだ。


「シルもまきあつめしたらかっぷらーめん――」


「それはダメだな」


「ぶぅー」


 おやつはまだ少ないから良いが、さすがにカップラーメンは1食になってしまう。


 耐火レンガの上にコの字になるように、再び耐火レンガを並べていく。


 ここで棒積みにならないように、半分に切った耐火レンガも必要になるらしい。


 重ねていきながら、間に空気が通る穴を作っていく。


 積んだ耐火レンガの上に鉄角材を置き、再び上から同じように耐火レンガを重ねると、一段目の完成だ。


 二段目も同じ要領で耐火レンガを積み上げていき、一段目と二段目の間を仕切ったように鉄角材を置いて屋根を作れば完成する。


「なんか思ったよりも簡単だったね」


 ほぼレンガを積み上げただけのため、一時間もあればピザ窯は完成していた。


「せっかくだから夜にピザを作ってみるか?」


「うん!」

「食べる!」


 シルとケトもピザを食べる気満々だ。


 カップラーメンを避けられるなら、ピザでも大丈夫だろう。


 同じのばかり食べていたら栄養が偏るからな。


 ただ、一番の問題があった。


「俺達だけでできそうか?」


 俺の言葉にシルとケトは横に首を振る。


 一度ピザの簡単レシピを見たが、生地やソースから作れる気がしなかった。


 地下にトマトはあっても、トマト缶はないからな。


「あっ、うしのおじさん!」


 シルは牛島さんに手伝ってもらうのはどうかと提案していた。


 引越しのお祝いとして、仲を深めるのも良さそうだしな。


 近所付き合いは大事だ。


「なら牛島さんに一緒にどうかって聞いてくるね」


「はーい!」


 俺は牛島さんの家に向かうことにした。


「今のうちに――」


「ケト? おやつはだめだよ?」


 俺がいなくなった瞬間におやつを狙っていたケトを見て、シルがポケットに隠したことを知ったのは次の日だった。

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