第11話 ホテルマン、朝食を作る

「シル、おはよう」


「おはよ……」


 昨日はすぐに帰って、サラダを食べて寝ることにした。


 相変わらず料理ができない俺達には、サラダは大事な栄養源だ。


 それにシルは初めてのドレッシングに感動して、嬉しそうにドレッシングのボトルと過ごしていた。


 今も布団の中にカップラーメンが転がっているぐらいだから、これでしばらくはラーメンは封印ができそうだな。


 バレないようにゆっくりと隠そうとしたが、シルにジトっとした目で見られていた。


「シルのだよ?」


 そう言ってシルは再びポケットにカップラーメンを片付けていた。


 やっぱりカップラーメンは最強だな。


 起きた俺たちはキッチンで朝食の準備を始める。


 買った台もちょうど良い高さで、シルも料理がしやすそうだ。


 それに和柄のエプロンも似合っている。


 さすが座敷わらしって感じだな。


「朝はパンと目玉焼きを食べようか」


「ひぃ!?」


 なぜかシルは怯えた顔で俺の方を見ていた。


「シルのめだまたべるの?」


 シルは大きく目を開き、指を入れようとしていたのをすぐに止める。


 まさか目の前でホラー映画でも再現するつもりだったのか?


 止めなければ今頃目玉を取り出していたのだろうか。


 考えただけで体の震えが止まらない。


 やっぱりシルは妖怪ってことだな。


 人間はそんなことしないもんな。


「目玉焼きは卵を焼くやつだよ?」


「しっ……しってるもん!」


 シルは目玉焼きを知らなかったことが、恥ずかしいと思っているのか?


 顔をプイッとして、どこか俺と視線を合わせないようにしていた。


 そんなシルに俺は目玉焼きの作り方を教えていく。


 って言っても目玉焼きって油を引いたフライパンに卵を乗せるだけで良いからな。


 早速、フライパンを熱して卵を焼いていく。


「めだまやき! めだまやき!」


 シルは目玉焼きができるのを楽しそうに見ていた。


 油が飛ばないように蓋をして、できるのを見届ける。


「これぐらいかな?」


 俺が蓋を取り出すとシルは嬉しそうな顔をしていた。


「めだま!」


「黄身が瞳みたいになっているから、目玉焼きって呼ばれているんだと思うよ」


 ただ、卵をいくつか使っているから、瞳がいっぱいあるね。


――チン!


 ちょうどパンも焼けて今日の朝食は完成だ。


 テーブルにサラダ、目玉焼き、トーストを持っていく。


「シルは何をかける?」


 目玉焼きと言ったら何をかけるか問題になるほど個性が出てくる。


 念の為にケチャップ、マヨネーズ、醤油、ソースを持っていく。


 あまり使ったことのない調味料だからか、シルは戸惑っていた。


 確かに初日に食べた料理ってあまり調味料を使わない料理だったもんな。


「んー、俺はパンにのせたいから、ソースとマヨネーズにしよ」


「シルも!」


 シルは俺のマネをするように、パンに目玉焼きをのせて調味料をかけていく。


「じゃあ、いただきます!」

「いただきます!」


 ちゃんと手を合わせてからパンを口に運ぶ。


「うんまっ!」


 シルは美味しそうに目玉焼きを食べていた。


 どうやら料理が苦手でも、目玉焼きはうまく作れるようだ。


 ただ、俺は納得できなかった。


「半熟じゃない……」


 目玉焼きと言ったら、俺の中では半熟卵のイメージだった。


 トロリと流れる黄身がトーストとマッチするからのせたのだ。


 それなのにいざ食べると、カチカチのしっかり火が通った状態だった。


 まだまだ俺達は料理の勉強をしないといけないようだ。


 昨日一緒にレシピ本も買ってこれば良かったな……。


 いや、無駄遣いはいけないか。


 料理は研究だっていうぐらいだからね。



 食べ終わった俺は洗い物を終えると、今日も牛島さんがいる牛舎に向かった。


 昨日見かけた鳥居が気になったのと、アルバイトを募集していないかの確認だ。


 いくら貯金があったとしても、生活するだけで精一杯だからな。


 養護施設のことを考えると、少しはアルバイトをしておきたい。


 ただ、アルバイトできる場所がありそうなショッピングモールまでは距離がある。


 そこで牛島さんに近場でアルバイトを募集していないか確認しに行くことにした。


「牛島さぁーん!」


『ンモォー!』


 やはり牛舎に行くと牛が挨拶してくれた。


 全身が真っ白な少し変わった牛を撫でると、嬉しそうに目を細めていた。


 牛って思ったよりも感情が伝わりやすい見た目をしている。


 それに体も少し小さめのため、どこか可愛らしい。


「へへへ、可愛いな」


「おっ……おう」


「照れてるんだね」


 まさか牛も照れるとは思いもしなかった。


「俺に恋するなよ?」


 んっ? どういうことだ?


 俺が牛に恋をするってことか?


「人間と牛はさすがに……ね?」


「いや、人間と人間だぞ?」


 明らかに牛よりも低い返事に俺は戸惑う。


 目線を少しずつ下げると牛の足元にはおじさんがいた。


「あっ……牛島さん」


「俺には妻と子どもがいるからな」


「あっ、そうなんですね」


 わざわざ家族構成を教えてくれた。


 奥さんと子どもがいるなら、いつかは挨拶をしないといけないな。


「そういえば、昨日牛さんにお菓子を渡しておいたけど大丈夫でしたか?」


「ああ、あのわさびチョコレートと納豆キャラメルか。兄ちゃん変わったセンスしているな」


「へっ……? あれ人気じゃないんですか?」


 まさかホテルで売れていたお土産が、世間ではあまり受け入れられていないことに驚いた。


 結構みんな買っていたから、有名なお菓子だと思い込んでいた。


「それで昨日に続いてどうしたんだ?」


「少し聞きたいことがあって……」


 俺は牛島さんに聞きたいことを伝えた。


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