第31話 冒険者事情

「ひゃあ!」

 

 風呂場の方から聞こえた、シロの悲鳴で目を覚ます。

 飛び起きた俺は急いで風呂場に向かい、扉越しにシロの安否を確かめる。

 

「どうした? 何があったんだ?」

「お、お水がね、温かいの!」


 ユヘア村の家では、お湯が出る風呂なんて無かったからそれで驚いたのか。

 風呂が無い家だったから、あの時は川で体を清めてた。夏場だしお湯じゃなくても問題なかった。

 ひとまず、怪我をしたとかじゃなくて良かった。

 

「そいつは、お湯って言うんだ。温かくて気持ちがいいだろ」

「うん! なんか不思議な感じ!」

 扉越しにシロが楽しそうに返事をする。

「それじゃあ、俺は朝食を作って待ってるぞ」

「分かったー! ありがとう!」

 

 お湯が出る風呂だなんて本当に凄い家を借りられたもんだ。

 シロが風呂から上がったら、後で俺も入るか。


 調理場に向かい、朝食を作る。


 そして、朝食を作り終えると同時にシロが風呂から上がって来た。

 彼女は顔を赤くしながら、体を揺らし歩く。


 しまった、あんまり長く湯船に浸かるなと言い忘れてた。

 結構長い間風呂に入っていたから、あれは完全にのぼせてるな。


「体が、ふらふら……する」


 俺は急いで布を冷たい水で濡らし、シロの額に当て冷やす。

 そしてコップに水を入れ、シロに飲ませて横にならせる。


「温かい風呂は、長く入ると危ないんだ。次からは、無理しないように入らないとな」

「うん。ごめんなさい」


 反省した様子のシロの頭を撫でる。

 これ以上、俺に出来ることは無い。

 体調が戻るまで寝かしておくしかないな。


「それじゃあ、調子が戻るまでそこで寝ておくんだぞ」

「はーい……」


 それから俺も風呂に入る。

 湯船に浸かり考え事をする。


 風邪とか病気のような症状に対して、俺の回復魔法は効かない。

 毒だとか麻痺などの、状態異常系なら俺の魔法でどうにかなるのにな。

 そう考えると、回復魔法は意外と万能じゃないんだよな。

 まぁ、そこまで出来てしまったら医者という職業を奪っちまうしな。

 世の中うまい事で来てるもんだな。


 そして、風呂から上がり部屋に戻るとシロが元気に朝食を食べていた。


 随分と回復が早いな。魔力の件も含め、シロには驚かされる。

 今日時間があったら、一度教会に連れて行ってみるか。

 シロの身長的にも、流石に5歳より上だと思うしな。


「もう、大丈夫なのか?」

「うん! すっかり治ったみたい!」

 シロは朝食を口いっぱいに頬張りながら笑顔を見せる。

「それは、良かった。食べ終わったら、ギルドに行こうか」

「分かった!」


 


 それから、朝食を食べ終えたシロを連れギルドへとやって来た。

 

「おはよう」

「あぁ、おはよう」

「おはよう……ございます」


 俺とシロは、ギルドカウンターで忙しそうにしているリリアと挨拶を交わす。


「ミラは、居ないのか?」

「あの子なら、2時間前からボードと睨めっこしてるわよ」


 依頼書が貼ってあるボードの方を見ると、ミラが中腰で睨みつけるようにボードを見ている。


「これだけ依頼書があるんだから、2時間も悩む必要あるのか?」

「あら、シロとおじさんじゃない。もう、来てたのね」

 俺たちに気が付いた彼女が振り返る。

「なかなかいい依頼が無いのよ。どれも弱い相手の依頼ばっかりでつまらないわ」

 

 Bランクの依頼ってのは、オークとかその辺りなのか?

 そう思い、ボードに貼ってある依頼書を見る。


 

 ――――――――――――――


 依頼:ブラックボアの討伐

 受注ランク:B以上

 報酬:銀貨5枚

 

 最近村の近くの森で、ブラックボアが出現して困っています。

 畑仕事などが出来ず、大変迷惑しております。

 

 ゆっくり助けてくれ!

 出来れば、畑仕事はしたくないんだ。


 ――――――――――――――


 

 この依頼書を作った奴は、どうして欲しいんだ?

 後半、明らかに本音が出てるぞ。

 

 それよりブラックボアって、結構強い魔物じゃねぇか。

 国の兵士たちが、20人掛かりぐらいでようやく倒せるかぐらいの魔物だぞ。

 他にも、そこそこ強い魔物討伐の依頼が沢山貼られている。


 でも、ランクB以上って書いてあるし、最近の冒険者はそんなに強いのか?

 ミラは確かに強いがさすがに1人で行くような依頼じゃないだろ。


「このブラックボアの依頼とか充分強いと思うが」

 そう言って、依頼書を手に取りミラに見せる。

「あぁ、こいつね。そんなに強くなかったわ」

 依頼書を見ると、涼しい顔で返事をする。

「そ、そうなんだな」


「おい、リリア。この依頼書、本当にBランクで受けれるのか?」

 ミラの言葉を信じきれなかった俺はリリアにも確認する。

「えぇ、問題ないけど。そうか、あんたは知らないんだったね。最近の冒険者はみんな強くなったのよ」

 と言うと、彼女は最近の冒険者事情について話始めた。

 

「魔法職、剣士とか各種の訓練所が出来て、そこで訓練を受けて冒険者になるって流れに変わったの」

「そうなのか、最近の冒険者ってのは大変なんだな……」

「でも、元Aランク冒険者とか、強い人から教わる事が出来るから結構人気なのよ。だから、最近の子達のDランクは私たちの頃のBランクって所かしら」

「それならミラは……」

「えぇ、私たちの頃で言う所のSランクくらいはあるんじゃない? 私の方がまだまだ強いけどね」


 そうなると、俺の実力ってEランクが妥当なんじゃないか?

 俺の元Sランクって肩書がますます重荷になりそうだ。

 他の冒険者に自慢してやろうなんて思ってたけど、止めておこう。


「なんで落ち込んでるか知らないけど、昨日言ってた話って何?」

 リリアがコーヒー片手に質問をする。

「あぁ、そうだったな。俺が仕事に言ってる間、シロを預かっててくれないか?」

「私は別に構わないけど、シロちゃんはそれで良いって言ってるの?」

「それがまだ、話をしてないんだ。タイミングが見つからなくてな」

「それなら、今すぐ話してきなさい」

「わ、わかった」


 リリアが真剣な表情で俺の背中を押す。

 まるで母親に怒られてるような気分だな。


「シロ、ちょっといいか?」

「うん! 大丈夫だよ」


 ミラの横で一緒に依頼書を見ていたシロを呼ぶ。


「今後仕事をする時にな、外に出て魔物を倒したりするんだ。それでな、危険だからシロを一緒に連れていけないんだ……」

「うん、分かってるよ」

 シロは微笑みながら俺を見つめる。


 これもまた、俺に遠慮しているのか?

 何故かは分からないが、シロの微笑みに違和感を感じた。


「本当に大丈夫か? もし、寂しいとかなら仕事変えても良いんだぞ」

「ううん、平気だよ」

 彼女は首を横に振り、笑顔を見せる。

「そうか。ごめんな」

「それで、私はどこで待ってたらいいの?」

「リリアとこのギルドで、俺の帰りを一緒に待っててくれるか?」

「うん。分かった」

 

 こうして、俺が仕事に言ってる間、シロをリリアに預かってもらう事になった。

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