始まりの日常
チュンチュン
小鳥のさえずりが心地よい。ただ、まだ起きたくないと、もう一度意識を落とそうとした。首筋にかかる息が妙にくすぐったい。くすぐったさを取り除こうと首筋に手を伸ばす。手に体温を感じた。そして、妙にすべすべした感触が伝わってくる。違和感を覚え目を覚ます。そこには、寝息を立てて、スヤスヤと寝ている妹の真美が。
(えっ。俺、朝チュンしちゃった!?妹と朝チュンしちゃったの!?)
昨日は普通に寝たはずだ。何もハッスルしていないはずだ。
(いやいや、真美が寝ぼけて俺の布団に入ってきただけだろう。ただの添い寝だろ。)
そっと布団をめくってみた。そこには生まれたままの姿の真美と….…..ちゃんと服を着た俺。
(えっ、なんで真美は裸なの?そして俺は何でちゃんと服着てんだよ!!!!)
妹とヤッているかもしれない、という恐怖と、妹とヤッてなくてよかった、という安心感がほとんど同時に来て、感情がジェットコースターになっている。そして、それが過ぎ去ってかすかに残った、童貞が喪失しなかったという残念感。そして、感情をジェットコースターにされたという妹への怒り。
「おい、真美。なんで俺のベットに裸でいるんだよ!俺の淡い期待感を返せよ!」
布団を強引にはがす。そして、やっと目覚めた妹は体を震わせて、
「もう、お兄ちゃん寒いよ。なんで私の安眠を邪魔するの。」
「なんで、ここにいるのが当然のように言ってるんだよ。とりあえず部屋から出てけ。」
どすの利いた声を出すと、真美は逃げるように去っていった。
「あぁ、なんで俺はまだ童貞何だぁぁぁぁぁぁあああ」
「お兄ちゃんお待たせ。じゃあ学校行こう。」
「真美、まだ許してないからな。朝のこと。」
抱きついてくる真美を軽く振り払おうとしながら不機嫌に愚痴を垂れる。
「何イチャイチャしてんのよ兄妹で」
強い衝撃が後頭部を襲う。
「兄妹仲がいいことは、いいことだよな~真美。」
「うん、そうだよねお兄ちゃん。」
痛みで悶えながら振り返るとそこには、第二発目のチョップを振りかぶって不機嫌そうにしている、亜希の姿があった。
「やめて、俺のライフはもうゼロよ。」
「何きもい声上げてんのよ。キメ顔してんじゃないわよ。」
渾身のボケで引かれて、肉体的にもメンタル的にもズタボロにやられてしまった。あぁ、なんか急速に学校行く気なくなってきた。センチメンタルにひったっていると、真美がなぐさめてくれた。
「大丈夫だよお兄ちゃん。幼馴染は暴力的でツンデレだって法律で決まっているでしょ。」
「あぁ、そうだな。ここを耐えれば、亜希のデレが見れると思えばもう少し頑張れるわ。ありがとう真美。持つべきはいい妹だわ。」
「はぁぁぁ。そんな法律ないわよ。なんでそんな励ましあってるのよ。それじゃあまるで私が悪役じゃない。」
亜希がくそデカため息を出してツッコんできた。
「そんなため息はいてると幸せが逃げてくぞ亜希。」
突然、真美が深呼吸を始めた。とうとう俺の妹は頭がおかしくなってしまったようだ。いや、もともと結構頭おかしかったか。
「大丈夫だよお兄ちゃん。亜希ちゃんの幸せは私が吸ってもらっちゃうから。」
ほんとに何を言っているのか分からない。やはりうちの妹は頭のねじがどこか行ってしまったようだ。病院にでも今度連れて行ってあげようか。
「そんなことより、そろそろ走らないと遅刻になるわよ。」
そして俺たちは、走って登校した。曲がり角でパンを銜えて走ってきた少女をよけ、ガラの悪いお兄ちゃんとそれに絡まれている美少女の間を抜け、メロスバリの速度で走った。学校に着くと三人仲良く靴箱で靴を履き替え教室に向かった。
「おはよう。」
挨拶をして教室に入るとクラスメイトが声をかけてきた。
「あはよう。今日も三人そろって登校か。相変わらず三人仲いいな。」
「えへへぇ。それほどでも。」
真美が照れながらか答える。なんかおかしいような?何だろうこの違和感は。
「あっ。なんで一年の真美がここにいるんだよ。ここ二年の教室だろ。そして、なんでみんなそんなに受け入れてるんだよ。一瞬、気づかなかったわ。」
「あんまり騒いじゃだめだよお兄ちゃん。じゃあ教室行ってくるね。バイバイ。」
その場の勢いでさっそうと去っていった真美。呼び鈴が鳴り、ホームルームが始まった。
絶対遅刻しただろ真美。
授業中は正直寝てたからあまり記憶はない。いつの間にか、6時間目後のホームルームも終わり放課後、特に予定もなく帰ろうと教室を出たら、したら後ろから声をかけられた。
「何一人で帰ろうとしてるのよ。待ちなさいよ。」
亜希が慌てた様子で教室から出てきた。俺も亜希も部活や委員会に入っていないため放課後は基本暇だ。ちなみに真美は、バスケ部に入っている。うちの学校は強制ではないのに異常なほど部活に入っている率が高い。部活動で青春を感じたい陽キャがいっぱいいるというわけだ。
近所の公園に差し掛かったころ、急激に雨が降ってきた。
「なんで雨降るのよ。今日の降水確率十パーセントじゃないの。」
「とりあえず公園で雨宿りしよう。どうせゲリラ豪雨だからすぐにやむ。」
二人で、公園の奥にある屋根のあるベンチまで急いで移動した。
「あぁもう最悪。今の一瞬で下着までぐっしょりじゃない。」
文句を言う亜希の方に目を向けると、雨でぬれて透けてしまったシャツに下着が透けて見えてしまっている。
「赤かぁ」
亜希は、俺の視線に気づいたのか、顔を茹でたこのように赤くさせた。
「何見てんのよ、この変態」
亜希から平手が飛んでくる。それを受けた後、俺の上着をそっと亜希の肩にかける。亜希はさらにいっそう顔を赤く染めた。その顔はまるで恋する乙女の様だった。ほんとに幼馴染はツンデレだったのかもしれない。
「なによ、濡れてるじゃない。でもありがとう」
いつもの勢いのない声で言う。見つめあい、しばらくの沈黙が続き、俺の手が亜希の肩に触れる。そこからだんだんと顔を近づけていき、息が肌に触れるほどの距離になったとき、亜希が弱々しく言う。
「だめ。ここじゃだれか見てるかもしれないじゃない。それに、それ以上のこともしたいし。」
もう、これ以上赤くならないんじゃないんかってぐらい顔を赤らめる亜希。
「うちに来ない?今日親いないから。」
その問いに俺はうなずいて答えた。そのころにはすっかり雨が上がっていた。ドキドキしながら亜希の家に向かう。目が合うたびに妙にドキドキする。いつもより半歩分ぐらい近くをアキイが歩いてる。
亜希の家に着き、先に亜希が中に入っていく。
「部屋綺麗にしてくるからちょっと待っててね。」
名残惜しそうにこちらを見ながら家に入っていく。もう、ドキドキで心臓が破裂しそうだ。しばらくして亜希が出てくると、気まずそうにこちらを見た。
「ごめん。家にお父さんがいたの。出張が早く終わったんだって。だからまた今度ね。」
そう言って、亜希は扉をしめてしまった。何秒もフリーズしてしまった。正直開いた口が塞がらない。絶対いける流れだっただろ。そして、亜希、絶対父親の顔を見て冷静になっただろ。ホテル行けただろ。
家まで全速力で走って帰った。そこから、雨で濡れた服から素早く着替えて、部屋に閉じこもると、泣きながら心から叫んだ。
「なんで俺はまだ童貞なんだぁぁぁぁぁぁああああああ。」
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