100文字記念 100円あるとしたら

「もしもし、妹」

スマホを見るのに飽きたので、また妹にちょっかいをかけることにした。

ソファから立ち上がり妹の前にしゃがみこんだ。

「何?お兄ちゃん」

妹は、スマホから顔を上げずに、蹴られた。

何度も何度も無言でけられて、怖かった。

せめてこっち見てくれよ!

「不貞腐れるなよぉ」

妹の頭を撫でようと、自分の手を妹の頭にもっていこうとすると、妹はまたもやノールックで反撃してきた。

妹は適当に俺の手を払いのけた。

それから何度も、撫でようと手を伸ばすが、全部払われてしまった。

「鬱陶しい!!邪魔、お兄ちゃん」

妹に邪険に扱われて悲しい…

「何で、そんな扱いするの?お兄ちゃん悲しいよぉ」

妹が無言で振り上げた足が、俺の股間にクリーンヒットした。

悶絶する俺。

痛ったぁあああ。

痛ったぁぁぁああああいい。

地面にうずくまる。

悶えている途中で妹の方を見上げると、妹はスマホから視線を外し、こちらを一瞥していた。

妹は、犬の糞でも踏んだみたいな顔をしていた。

俺の股間の感触はそんなにも悪かったのだろうか。

それはそれで、男として自信がなくなる。

「また、つまらぬものを蹴ってしまった…」

妹がぼそっと、そうつぶやいていた気がした。

妹は、またスマホに視線を戻してしまった。

妹よ、もうちょっと兄の事を心配してくれてもいいんじゃない?

いつから反抗的になってしまったんだろう…

「妹…最後に聞いてもいいかい?…」

息絶え絶えに、妹に問いかけた。

「適当な演技しないの、お兄ちゃん。そんな大事じゃないでしょ?それにもうお兄ちゃんのその質問、嫌。毎回馬鹿にされてイライラするから」

妹から、プンスカという声が聞こえてきそうな雰囲気がある。

「何でそんなに嫌なんだ?俺はお前の事、馬鹿になんかしてないぞ」

怖くないぞー。怖くないぞー。

こっちおいでー。

とりあえず心の中で念じておいた。

「お兄ちゃんがまともに答えてくれないからでしょ!!」

妹はやはりご機嫌斜めなようだ。

「じゃあさ、真面目に答えるからさ、100円あったら何をする?」

妹は手を出していった。

「じゃあ、後でプリン1個ね!!」

「へいへい、分かりました」

俺が答えたとたん、妹は途端に機嫌がよくなり、ほおが緩んだ。

「えぇっと、100円だっけ?100円なら…」

妹は、顎に手を置いて考え始めた。

足もプラプラさせているから、真剣に考えてるらしい。

「お兄ちゃん視線がうざい」

な、なに?

バレていただとっ!!

さすが、女性の勘。

「ごめんよ妹。スマホ見てるから、存分に考えるがいい」




「考え終わったよ」

妹が頬を突いてきた。

忘れてた。

すまん妹よ。何の話だっけ?

「私が100円あったら、ゲーセンでログイン報酬貰うかな?」

あぁ、100円の話ね。

確かにさっきそんな話してたね。

「お前は、やっぱりゲームが好きだなww」

「お兄ちゃん、間違っちゃいけないよ。私が好きなのは、アーケードとかゲーセンの音ゲーとかそっちであって、スマホゲーとかはしないよ」

妹は突然立ち上がり、練り歩きながら語りだした。

「そうだったのか、妹よ」

さっきまで見ていたスマホの画面を閉じて、妹の方を向き直る。

「じゃあ次はお兄ちゃんの番ね!!お兄ちゃんは、100円あったら何するの?」

「えぇ、俺なら100均で何か買うかなぁ」

妹は、あほを見るような目をこちらに向け、自慢げに語りだした。

「お兄ちゃん。消費税って知らない?100均って100円じゃ買えないんだよ」

「何だ…と…そうだったのか!!妹よ!!」

大げさに、演劇のように立ち振る舞ってみた。

「じゃ、しゅうりょー。解散」

ふたりして、ソファーに座り直し、スマホに意識を落としていった。

うちの妹、やっぱり騙されやすいのかもしれない…



「お兄ちゃん。また、真面目に答えてないでしょ!!!ちゃんと答えてよ!!お兄ちゃん」

妹よ、気づくのが遅いよ…

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