04
「うへえ、放課後までずっと雨が降っているとかありえないよ」
「それならさっさと帰りなさいよ」
何故同じように残っているのか。
今日の予報的にやんだりはしないからさっさと帰ってしまった方がいい。
「それが傘を貸してしまってないんだよね」
「ならこれを貸してあげるわ」
そもそも雨なのに持ってきていないその人はなんなのか、また雨が嫌いなのに貸すこの子もこの子だ。
「おおっ、まさか僕のために持ってきてくれたの!?」
「違うわ、急に降ってきたときのために入れていただけよ」
「えー残念」
そして受け取っておきながら全く帰る気が伝わってこない彼女に呆れる。
特に用もなく残っていただけだから帰るわよと言ってみると「うんっ」と物凄く嬉しそうな顔だった。
「今日ね、僕の誕生日なんだ」
「は? あ、いつもの嘘よね?」
「ううん、ほら、誕生日だよ」
「それならさっさと言いなさいよ、なにか買ってあげるからお店にいくわよ」
前にも言ったように雨が嫌いではないから寄り道をすることになったって全く構わない。
雨が嫌いな彼女だってなにか買ってもらえるなら悪くない時間になるはずだ。
「やったっ、と言いたいところだけど物とか食べ物とかはいいから家に来てほしい」
ま、本人に聞いてなにかしらの物を買うというのもいまいち盛り上がりに欠けるから今度一人でいったときに選ぶことにしよう。
「はい、ここに座って」
「なんで敢えてベッドの上なのよ、奇麗な状態ならいいけど気になるじゃない」
「き、奇麗だよっ」
「そ、そうじゃなくて……その、靴下とかのことよ」
「ああ、いやそれも気にしなくていいよ、僕だって同じように座っているんだから」
いやだから本人がそうするのと違う人間がそうするのとでは訳が違うわけで。
あと誕生日なんだからあの子が来てもいいはずなのに全くその気配がない、倉本が止めているのだろうか?
「まあ、とにかく誕生日おめでとう」
「ありがとう!」
出会ってからすぐにこんなことになるなんてね。
昔いた友達のときは一年ぐらいが経過したときに誕生日を教えてくれたから祝えた回数たったの二回だった。
でも、親の都合なら仕方がない、残念なのはスマホなんかも持っていなかったから交換することができなかったことだ。
「ふぅ、なんで電気も点けずに薄暗い部屋で見つめ合っているのかはわからないけどね」
「ふふ、その方が雰囲気が出るでしょ?」
「ただ雨音が聴こえてくるだけでしかないじゃない」
そういえばあの子の誕生日のときも雨で「せっかく誕生日なんだから晴れてほしかった」と言っていたことを思い出した。
だからあの子とこの子は当たり前だけど違うわけで。
「雨が嫌いなのにテンションが高いわね」
「それはそうだよ、だって伊波さんがお祝いをしてくれたんだからね」
「あの子はいいの?」
「あの子――ああ、
出会ってから名前で呼んだのは初めてだ。
とはいえ、今回は利用して進めることはしないでおいた。
「本当に勝手だけどさ、少し後悔している自分もいるんだよ」
「そうなのね」
「でも、こっちのことを褒めてばかりなのも本当のことなんだよ、そこが伊波さんとは違うんだ」
「って、そんな言い方をされたら私が物凄く悪いみたいじゃない」
「ううん、寧ろ理想の存在だよ」
や、理想の存在は言いすぎ。
こんなことまで言っておいて結局去りますなんてことになったら私はどうすればいいのか。
我慢ができなくなってぶっ飛ばす自信すらある。
「そもそもそれなら倉本だってそうじゃない」
「確かに……」
「だから思っていても言うのはやめなさい」
「うーん……」
自分の発言のせいで後の自分が困らないようにしておくべきだ。
あとはそういうことを何回も言われたからあの子を切ったのではないのかとぶつけたくなってしまうから。
「ねえ岡田、倉本と
「うん、来てくれるかどうかはわからないけどいいよ」
まずは倉本に、そうしたら向こうが自然と加藤も誘ってくれたみたいだから連絡をする必要はなくなった。
それでも誘った側の常識として迎えにはいくことにする。
「雨じゃなかったらもっとよかったかもね」
「流石に誕生日ならそうかもしれないわ。それより加藤はなんで隠れているの?」
「……ほ、本当に薫ちゃんが参加していいって言ってくれたの?」
「そうよ、だから堂々と付いてくればいいというか加藤の方が前々から友達なんだからね」
家の前に着いたところで酷かった加藤も五分ぐらいで元通り……かどうかはわからないものの、少なくともまともに会話ができる状態にはなっていた。
「伊波、ありがとね」
「加藤を誘ったのはあんたでしょ」
「私が誘わなかったら伊波が誘っていたでしょ?」
「まあ……」
「だからありがとう」
倉本と一緒にいると私まで岡田みたいになってきてしまう。
いい点は岡田がだいぶ緩くなってきたことだ、加藤と友達のように話せていることは大きい。
「ところであんた、止めたの?」
「ん? ああ、結愛はいきたがっていたけどやめておいた方がいいって言わせてもらったかな」
「じゃあ加藤的にはよかったでしょうね」
好きな友達に何回も止められなくて済むし、こうして岡田ともゆっくり過ごせているのだから。
「そうだね、毎年自分の誕生日以上に楽しみにしていたみたいだから」
「あんた……」
「嫉妬をしていたとかじゃないよ? ただ結愛に悲しそうな顔をしてほしくなかったんだ」
「いや、ただ加藤の保護者的存在に見えただけよ」
「保護者的存在、か」
いやなにマジな感じにしているのか。
友達以上のなにかがあるようにしか見えない、鈍い存在でもなければこれを見ればみんなそう考える。
「私はそれを卒業したいんだよね」
「一応聞いておくけどそれはどういう理由からなの?」
「だって友達として見られていないってことでしょ?」
「ああ、そういうやつね」
「うん、え、それ以外にある?」
まだ教えてもらえるような仲ではないか。
「あの二人が戻れたら私は伊波と仲良くしようかな」
「思ってもいないことを言わない」
もう私の中では本命が加藤になっているから消去法みたいな感じに見えて駄目だった。
あとはいつでもそうだけどそこまでの価値がないからかな。
「なんで思ってもいないことだってわかるの? 伊波は私?」
「違うけど直前にマジな感じにしておきながらありえないでしょ」
「だから保護者的な存在から変えたいだけだってそれは」
それよりも誘われた時点で加藤だけ誘って参加するべきではなかったと後悔していた。
もういまとなってはどうしようもないから水を差さないように静かにしておくだけだけどあの加藤と会話しているときの笑顔を見てしまうとね。
「ちょっとトイレを借りるね」
「いってらっしゃい」
加藤が一旦離脱。
逃避をするために窓の外に意識を向けて雨ねえなんて内で呟いているところに「なんでそっちでばかり盛り上がっているの?」とツッコミたくなることが起きた。
「主役に放置されてしまったからかしら」
「主役は僕か」
「当たり前でしょ? で、ヒロインは加藤ね」
僕とか言っているから尚更お似合いに見える、それで私の中では加藤が本命の倉本というライバルがいるから悪くない。
まあ、私は別に倉本だけを応援するわけではないからこういうスタンスでいい。
「どんな物語になるんだろ?」
「そんなの決まっているでしょ、ゆっくりと仲を深めて最後には正直に気持ちを伝えて付き合うのよ」
岡田が本気になったら倉本には勝ち目がない。
でも、あの発言をそのまま受け取るなら加藤が幸せになれればそれでいいという風にも見えるか。
「その前に友達にならないとね」
「一回終わったかもというところから上手くいくというのが最高よね」
「伊波さんって少女漫画とか読むの? あ、読むんだね、なんか意外だ。周りが盛り上がっていても自分は関係ないとばかりに外でも見ていそうだから」
「私だって一応は乙女……なんだからそりゃ盛り上がるときもあるわよ」
私が乙女とか……ないわ、似たようなことを言うのだとしてももう少しぐらいは違う言葉があったはずなのになにをしているのか。
ぐわあとなったタイミングで加藤が戻ってきてくれてよかった、主人公級の存在がいればサブは大人しくしておくのが一番だから。
「うーん、ケーキが食べたくなってきた、夜に食べられるんだけどいますぐ食べたいから買いにいこう!」
「私達が買ってこようか?」
「んーだけど一人残ることになっても寂しいから付いていくよ!」
ケーキなんてかなり久しぶりだ。
母にも食べさせてあげたいからお土産に買うのもいいかもしれない、で、そのついでに買いすぎてしまった~みたいな感じにして彼女に渡せばいいだろう。
この時間に食べて夜にも食べられる自信しかなさそうだから無駄にはならないはずだ。
「うわ、流石に調子に乗って買いすぎたわ。岡田、なんかお腹に余裕がありそうだから食べてくれない?」
「いいのっ? というか……それは誰にあげるの?」
「お母さんよ、いつもお世話になっているから。とにかく、これは食べてちょうだい、流石に私もお母さんもこんなには食べられないから」
「そ、それならいただきます!」
セーフっ、よかった。
サブが出しゃばっても加藤は「そんなに買えるなんて伊波さんはすごいね」と言ってきているだけ、何故かじっと倉本に見られていたけどなにも言わないなら問題もない。
「お、おぉ……沢山だあっ――あ、もちろんみんなにもいっぱい食べてもらうからね!」
「わ、私はちょっとでいいよ、薫ちゃんがあんまり食べられなかったら意味がないから」
「遠慮をしないのっ。さあ、始めようか!」
ケーキで盛り上がっていた心も優しさ? のおかげでどこかにいった。
もう食べたくないと思うぐらいには余裕がない状態になったのだった。
「手を上げて」
「それはいいけどなんで?」
あと人が窓の外を見てゆっくりしているときに限って急襲されるのは何故なのか。
学校でぐらいはそう警戒もせずに過ごしたい、これでは休まらないから用があるなら普通に声をかけてほしかった。
「この前、岡田だけ特別扱いしていたからだよ」
「誕生日だからね、あんたでも加藤の誕生日のときはそうするでしょ」
「それなら七月にある私の誕生日のときも同じようにしてくれるの?」
「あ、七月なの? それなら同じようにケーキぐらいは買わせてもらうわよ」
もっとも、似たようなことになりそうだからもう母にだけしか買わないけど。
ちなみに母は喜んでくれたのに私はお腹に余裕がなくてトイレにこもる羽目になったから微妙だった。
「……特別扱いじゃないの?」
「いやだからそれは誕生日だからで、そもそも加藤がいるなら途中から私は邪魔者にしかなっていなかったけどね」
同じような仲間の彼女がいてくれたからなんとかなっただけ、そうでもなければ耐えきれずに走り去っていた。
なんらかの遠慮がなくなったのか以前みたいに私に甘えて……くることもなくなったから少し寂しかったりもする。
「ただ勘違いしないでもらいたいのは別に岡田と加藤だけを応援するわけではないということよ、あんたもはっきりとすれば頑張れぐらいは言わせてもらうわよ?」
「私はあの二人が仲良くなってくれた方がいいんだよ」
「そうなのね。ま、時間はあるからなにかが変わったらちゃんと言いなさい」
戻るか。
いたずら書きなんかをしながらもそこそこ集中して授業を終え、お昼休みになったら今日もお気に入りの場所を増やすための旅に出る。
無限に探せるわけではないからある程度のところで終わりにしてなんてことはない場所でお弁当箱を広げた。
最近は自作のお弁当だからあの子達に見られないで済むのは――避けられなかったようだ。
「そういうのはやめなさい」
「口先だけだと思われたくないんだよ、そうでなくても勘違いをされているみたいだからね」
「お弁当は?」
「今日はパンなんだ」
ぐっ、焼きそばパンなんて美味しそうだ……。
でも、この前のケーキの件で沢山お金を使ってしまったから使うのも微妙だ、あと買ったところでお弁当を食べたうえでのソレはお腹的にもよくない。
「な、なにか食べていいから少しだけ交換してくれない?」
「いいよ、そうだね……やっぱり卵焼きを貰おうかな」
「そ、それじゃあ交換よ――って、流石に多すぎよ、こんなには貰えないわ」
「まだ私はお礼ができていなかったからね」
自作の物だから強気にも出られないし……。
どうしようもないから貰った物をもしゃもしゃと食べていたらあっという間に複雑な気持ちもどこかにいってしまった。
たまにはこういうのもいい。
「そうだ、誕生日になったら名前で呼んでよ」
「いま尚代って読んだら駄目なの?」
「駄目、それだと盛り上がりに欠けるから」
なら誕生日にはそれを。
あとケーキだけだとなんかちくりと言葉で刺されてしまいそうだからなにか用意するか。
岡田にだってまだなにも買っていないから今日の放課後にでもお店にいって選んでくるのもいい。
「放課後は予定を空けておいて」
「一応聞いておくけどなんで?」
「言ったでしょ? 勘違いされないように伊波と過ごしたいんだって」
なら今度……そうやって先延ばしにした結果がこれだからできれば避けたいところだけどそれこそ断れば言葉で刺されるから言うことを聞いておこうか。
「わかったわ、今日は雨も降っていないから公園にでもいって話しましょ」
「今日は私の家がいい」
「それならそれでいいわ」
付き合っているのに色々と言ってこないことを祈る。
あとはやっぱり岡田にはもう少しぐらい露骨な感じをなんとかしてもらいたかった。
わがままだとはわかっていても一度普通に関わってしまったから、わかりやすく物足りないからだ。
今回の件ですぐに気に入りやすいことを知ってしまったことからも影響を受けていた。
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