第3話 受け継いだもの

「……って言う事で、僕が戦ってるんだ。」

「すげぇじゃん!悠輔、かっこいいぜ!」

「あはは……。」

 ディンが現れてから一週間、念の為休んでた学校に行って、一限目を潰してもらって、クラスの皆に説明をする。

 皆、好意的にとらえてくれてて、有難いって言うか、なんていうか。

 拒否されると思ってた、英治さんのいた世界では、僕は同級生に一回殺された、って言ってたし、拒否されると思ってた。

 でも、皆受け入れてくれてる、僕の事を凄い凄いって言って、受け入れてくれてる。

 良かった、これで、学校にいけない、なんて事になったら、寂しいから。


「それで、クラスの皆は受け入れてくれたのか?」

「うん、嬉しかった。戦い始めてからずっと、僕は独りぼっちなんだって思ってたから。英治さんがいてくれたけど、それでも英治さん以外は誰もいないんだ、って。」

「俺の知っている記憶とは違うが、それも良い事だ。良かったな、悠輔。」

「うん。」

 家に帰ってきて、英治さんに報告する。

 この後は僕は修行、今日は魔物が現れてないけど、訓練は怠っちゃいけない。

 それに、僕の中には変化があったんだ。


「……。」

 マンションの一室、改造して完全防音の部屋にした、その部屋で修行をする。

 僕の中に起こった変化、それは強さの話だった。

 ディンが僕の中で眠ってる、そのおかげで僕は生きてる、その影響か、基礎能力が上がった。

 基礎能力だけじゃない、魔法を使う時の力、所謂魔力も上がってる。

 本来は竜神しか使えない魔法、それを無理やり行使してた体が、竜神の魔法に順応したって言うか、とにかく、魔法が強くなった。

「……。」

 部屋の壁一面に、銃が鎮座してる。

 それは偽物やエアガンの類じゃない、本物の銃だ。

 BANG!

 音が鳴る、その瞬間に体を動かして、弾丸を斬る。

 前はこんな修業は出来なかった、こんな無茶な修行をしたら、死んじゃうから。

 でも、今は違う、今は出来る。

「……。」

 それはなんでか、と聞かれたら、答えは簡単なんだ。

 ディンの力、竜神王の力、その欠片を使っているから、使える様になったから。

 本来のディンの力はこんなもんじゃない、もっともっと強いと思う、でも、僕に出来るのはこれ位、ここまで引き出すのが精一杯。

 それでも、飛躍的に身体能力は上がった、魔力も、前とは比べ物にならない位強くなった。

 ただ、制約もある。

「ふぅ……。」

 感覚的にわかる、ってだけで、本当にそうなのかはわからない。

 ただ、そうなんじゃないか、って言う確証めいたものがある。

 封印開放、ディンの力をある程度使った場合の話、その場合、僕の命を削ってそれを発動する、どれ位削られるか、どれ位発動していられるかは、まだ試してないからわからない。

 でも、なんとなく、そんな気がした。

 人間の身で竜神王の力を行使する、それは、人間の概念を超えた所にある、だから、命を削るんだ、って。

 誰に教えらえれたわけでもない、ただ、そう感じてた。


「ふー……。」

「悠輔、お疲れ様だ。」

「ありがとう、英治さん。」

 修行部屋から出て、英治さんがお茶を出してくれる。

 冷たい麦茶が心地良い、喉をスーッと抜けていく清涼感が、たまらなく良い。

 修行でかいた汗を、少し拭いながら、一休み。

「悠輔、無茶をしていないか?弾丸を避ける修行だなんて、まるでディンさんの様だ。」

「……。それ位しておかないと、これから先戦っていけない、気がするんだ。ディンがこの世界に来た事で、何かが変わった様な……、そんな感じがする。勿論、ディンのおかげで今僕は生きてる、それは間違いじゃないと思う、でも、それと一緒に、何か悪いものが来た様な気がするんだ……。」

「そう言えば、ディンさんは大きな敵と戦っている、と言う話は何処かで聞いた事があったな……。なんだったか、前の世界の悠輔が、何か言っていた様な……。」

 何の事だろう、それはわからない。

 英治さんが思い出せない以上は、誰にもわからない事だと思う、ディンは眠っているし、起こす手段もないから、聞けない。

 でも、嫌な予感がする、僕の中で眠ってるディンが、何か警鐘を鳴らしてる様な感覚がある。

 だから、ちょっと無茶してでも、強くならないといけないと思うんだ。


「悠輔……!悠輔……!」

「えいじ……、さん……。」

 ディンは悠輔との戦いで負傷し撤退した、その代償だと言わんばかりに、悲惨な光景が、英治の目の前に広がっていた。

「悠輔……!死ぬな……!」

「ごめん……、な……、えい、じ……、さん……。」

 血まみれになった悠輔が、英治に抱かれて息絶えようとしていた。

 それはまるで、神に逆らった罰であるかの様に、ディンについて行かなかった代償だと言わんばかりに、傷ついていた。

「げふ……。」

「悠輔……!死ぬな……!俺を……!置いて逝かないでくれ……!」

「……。」

 悠輔は、観測していた事象を思い出す。

 兄弟達は皆殺された、そしてこれから自分も死ぬ、そして、世界は滅ぶだろう。

 その前に、まだ少しだけ、力が残っている、まだあと少しだけ、出来る事がある、と悠輔は思い出す。

「えい……、じ、さん……。おれの……、事……、たすけ、て……、あげて、くれ……。」

「嫌だ……!俺達はずっと一緒だ……!悠輔が死んでしまうのなら……!俺だって……!」

 悠輔は、時空、世界を超える魔法を発動する。

 それは、自らの命を代償とした、転生の魔法の様なものだ。

 英治はそれを聞いていた、悠輔が何をしようとしているのか、それを理解していた。

 拒む、ただ、拒んだ所で、悠輔の魔力には叶わない、悠輔のしようとしている事を、止める術を知らない。

「……。きっと、生きてくれ……。」

「いやだ……!ゆうすけ……!」

「さよう……、なら……。えいじ……、さん……。」

 英治の意識が消える。

 魂を失い、抜け殻になった英治の体が、悠輔の体を落とす。

「……。」

 これで良い、これで良いんだ。

 愛した人、愛をくれた人、この世界で唯一、坂崎悠輔という存在を愛してくれた人は、助けたかった。

 だから、これで良いんだ。

 悠輔は、そう思い笑みを浮かべ、そして。


「……。」

 夢を見た。

 今度はディンと僕の戦いが終わって、そして、僕が死ぬ所を。

 ディンは、僕の兄弟や、仲が良かった子達も殺していた、それは、僕達が揃って陰陽師の末裔として力を持っていたから、そして、ディンを封印するだけの力を持っていたから。

 だから、闇に堕ちたディンは僕達を殺した、僕だけは殺す気が無かった、ってディンは言っていたけれど、結局、僕は死んだ。

「……。」

 隣で英治さんが寝てる、まだ日は昇ってない。

「僕が、傍にいるからね……。」

 英治さんは、悪夢でも見てるのか、涙を流してる。

 頭を撫でて、英治さんの気持ちが落ち着いてくれたらな、なんて思う。

「悠輔……。」

 寝言を言う、その想いは、きっと僕じゃない、僕に向けられた想い。

 それでも構わない、僕を愛してるって言ってくれた、英治さんを守りたいんだ。

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