30獣耳鑑定士が割といい加減に猛進し伝説になるまでの1000日間

オーバエージ

第1話 僕の生活

「世界は割といい加減に回っている」

この一分を書いてからすでに5時間は経過していた。僕はちらりと時計を見る。最終締め切りまであと4時間までに迫っていた。このショートショートを落としたら、編集はどんな顔をするだろう。さぞや面白い顔をしてくれるに違いない。そして我に返るの繰り返し。

僕はここ3年、ショートショート小説を書くことで飯を食っているのだが、最大のピンチが訪れようとしていた。どうやってもここから広がる術はないように思えたのだ。タバコに手をかけて現実逃避を繰り返した。


扇風機とにらめっこをしても原稿はちっとも上がらなかった。いよいよもって追い詰められた僕は、フラフラと玄関に移動した。外に出るつもりだった。タバコが無くなった事を強引に理由にした。

外は怖いほどに誰も居なく、静かだった。もう朝の7時だ。車や人がいてもおかしくないはずだ。頭をポリポリかいていると、突然僕は足を踏み外した。目の前に現れた大穴に落ちてしまったのだ。どうしてこんな所にこんな穴があるんだろう。危険の看板があってもおかしくないじゃないか。納得いかずに僕は叫んだ。

「おーーい誰かいますかーーーー」

周囲はシンとしている。

「誰かーーーー誰かいますかーーーーーー!??」

音沙汰ない。明らかにおかしな朝に、僕は困惑するしかなかった。

どうしよう。タバコも買いそびれていて無い。這いつくばって外に出ようとしたがすぐ滑り落ちた。

呆然としていると、崖のフチにネコが顔を出した。人じゃなくネコか。でも何だか物体が存在している安心感に包まれた。

「おいネコ、こっち来い」

ネコはしばらくフチを回っていたが、やがていなくなった。再び寂しさが訪れる。

締め切りも破ってしまったし、現状こんな場所にいるしで、まさに泣きっ面に蜂だった。

髪をわしわししていると、僕の髪に獣耳のようなものがついていることに気がついた。逆に普通の耳は欠損してしまっている。これは一体どういうことだ!?

と、急に上から人が落ちてきた。

片手に封筒を、片手にバットを持った担当編集だった。



そして、僕は脳みそが吹っ飛んだ。


――――


痛みを覚えながら起きると、見たことも無い景色に包まれていた。

森、だろうか。美しい湖もある。大きなキノコが無意識に異世界を思わせた。

髪をもう一度確認してみる。やはりケモミミが付いている。これはもうどうしようもないのだろうか。服も独特だが着衣はしていた。途方に暮れた僕は辺りを見回した。目の前に石ころがある。何の気無しに手に取ってみる。

と、目の前にモニタのようなものが現れ、文字が現れたではないか。


「石ころ」

投擲して敵を倒す

火を起こす

実などをすりつぶす

削って矢じりにする


なんだこれは。

僕が石ころを手にした時、冒険はすでに始まっていたのだ。

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