第33話
もはや決着はついたに等しい。
〝魔竜〟の攻撃はポピィに一つも通じなかったーー。
対してポピィの斬撃は、〝魔竜〟を圧倒していたーー。
そんな誰もがポピィの勝利を確信したーーその時だったーー。
「うっーー!……あああああ!!」
「っーー!ポピィ!?」
未だ重症の身を起こして、ユウキがよたよたと駆け寄る。
「ポピィさんッーー!」
セシリアもクラクラする頭を正常に動かしながら、ポピィの側へと駆け寄った。
「ううううううう……あああああああああ」
「ユウキさん……一体何がーー?」
「……………………〝上限色覚〟の反動だ。」
上限色覚には大きなリスクがある。
まず一つ目は、身体能力への大きな負担だ。
文字通り〝上限〟を突破した力を発揮する為、扱い慣れない状態だとすぐに限界がくる。
特に〝赤〟の系統の色は身体能力の向上が激しい分、反動も大きい。
そして〝黒〟の系統に関してだが……これに関してはいくつも推測例があるため一つには絞れないだろう。
ただ傾向の話では〝黒〟の色は発生例が少ないが、上限色覚発動中は精神が黒く染まりやすくなるとはいうらしいが……今回の反動とは対して差は無いのであろう。
そうしている間に、〝魔竜〟はーー。
「チィーー!!もうあちらさんは動き出したってか?見逃してやるから大人しくしててくれねえもんかね?」
悪態を吐くユウキだが、ポピィの斬撃を何十発も受けた〝魔竜〟の負担は決して軽くないのかーー勝算ありげに余裕の笑みを浮かべた……。
「セシリア……三つ頼みがあるが、頼めるか?」
未だ内容を聞いてないにも関わらず、コクッコクッと強く頷くセシリア。どうやらずいぶんとこの短期間でたくましくなったみたいだ。
「一つ目は、残りのポーションを三割ずつポピィと俺に分けてくれ……残りは万が一の為にとっとけ」
「それは分かりましたが……ユウキさん、その体で大丈夫なんですか?」
額に脂汗を浮かべて心配するセシリア。
しかしユウキはーー
「大丈夫だ。致命傷さえ治せば、何とか動ける。……まぁ、コイツはもうしばらく動けねぇだろうからこのまま寝かせてやろう……」
(よく頑張ったな……ポピィ……)
すやすやと、先程の反動で気絶したポピィを温かい眼差しで見守るユウキ。
「ふふっーー。ユウキさんなんだかポピィさんのお母さんみたいになってますよ?」
「うるせぇ!……まぁいい、今はそれどころじょねぇからな……二つ目だが、ここに来る途中にお前が言ってた〝あれ〟……できるか?」
それはここに来る前の出来事である。
「……以上が私が使える魔法です……どうでしょうか?何かお役に立てそうなものは……」
「うーん、そうだなぁ……」
頭を抱えて悩みこむユウキ。
するとポピィが、とんでもない爆弾発言をした。
「できないなら今からやればいいんだよ!ねぇユウキさん、セシリアちゃんにやって欲しい魔法とかある?あったら今のうちに試しておこうよ!!」
楽観的というのは……極めれば何とも愉快なものである。
「お前は本当に……どうやったらその発想に至るんだ……!?……まぁ、確かにできるなら試して欲しい事はあるにはあるけど……」
渋々頭を悩ませるユウキにーーセシリアは。
「何でも言ってみてください!二人のお役に立てるのならやってみせます!!」
意気揚々と杖を振るセシリア。
「……わかったよ、お前にやって欲しいのは……」
……………………。
「〝あの技〟ですねーー!大丈夫ですよ!練習でも上手くできたから、絶対にやってみせます!!」
「ったく……何でここまで意欲とセンスのある奴がCランクなんだよ……?」
「ふふっ!それはユウキさんも〝同じ〟じゃないですか!!」
ニコニコと微笑むセシリア。
「それじゃあ三つ目だ……セシリア、スライムに今だけありったけの《付与魔法》を付けてやってくれ……」
「付与魔法……ですか?」
「にゅにゅい?(何?)」
そうして、一連の準備が整ったーー。
「さてと……あともうちょっとだお前らーー覚悟はいいか!?」
「「はい!(にゅい!)」」
「行くぞーー!!」
ユウキはダッーーと〝魔竜〟の懐へと走り込む。
しかしユウキの行動パターンは全て読まれているのか、〝魔竜〟はユウキと間合いを取りながらセシリア達を狙って〝魔炎弾〟を放ったーー!
「スライムッーー!!」
「にゅい!!(任せろ!!)」
セシリアの付与魔法により防御力の特化したスライムだが、あ・る・装・備・を身に着けていたーー。
それは、セシリアの防護服である。
セシリアが先程〝魔竜〟の攻撃によって吹き飛ばされたにも関わらず大したダメージを受けなかったのは、事前にポピィが防護服を手直ししていたのが大きかった……。
それが無ければ、今頃真っ先に命を落としていたのはセシリアの方だろう。
(ポピィ……ほんとにお前はすげぇよ……まさかここまでお前の鍛・冶・師・と・し・て・の・腕・が優れてたなんてな……おかげで助かったーー)
ボオッーー、とスライムに〝魔炎弾〟が直撃するーー。
が、しかし……
「にゅにゅっ!(効かない!!)」
「グオオッ!?」
ちょっとだけ焦げているような感じもするが……概ね致命的なダメージは受けていなかった。
〝魔竜〟もよほど驚いたのだろうか……当然だ。
〝茶のダンジョン〟と呼ばれるレベルの第一階層ーーそんなところでウヨウヨしているスライムなど、〝魔竜〟の炎であれば一瞬で蒸発するのがオチだ。
しかし、スライムには元から多少弾力があるゆえの防御力に、ポピィの打ち直したセシリアの防護服を着飾った状態で、事前にセシリアからありったけの《付与魔法》を受けていたのだ。
しかしそれで何とか耐え切れるレベルまで昇華するとは……少女二人の活躍も甚だしい。
そうこうしている間に、ユウキがついに〝魔竜〟の懐へ入り込む。
「よぉ……逃げるなんてつれねぇじゃねえか?もっと鬼ごっこしようぜっーー!!」
ユウキが魔竜に手を触れる寸前ーー〝魔竜〟はユウキの手を交わす……かに見えたがそれを読んでいたユウキはバックステップで僅かに〝魔竜〟に触れ、懐から〝あるもの〟を取り出す。
ザシュッーー!!
「へっ、お前にとっちゃト・ラ・ウ・マ・だ・ろ・う・ー・ー・?・こいつはポピィからだ、受け取れーー!!」
思い切りポピィの短剣を〝魔竜〟に差し込み、その短剣の柄の部分を掴んで離さないユウキ。
「グオオオオオオオオオオアアアアアアアッ!!!!!」
ジタバタと暴れる〝魔竜〟に振り落とされそうになりながら、ユウキは〝最後の奥義〟を使うーー。
「へっーーさっきは一対一だったから躊躇ったが、もう躊躇はいらねぇ!喰らえっーー!!」
ズウウウウウッーー
《魂吸収ソウルドレイン》ーーユウキの〝反転血種上限色覚〟状態の〝奥義〟であるーー。
魂を吸収するのはユウキにとっても大きな負担となり得るが、それは〝魔竜〟にとっては非にならないレベルでのダメージとなった。
「グッーーグアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
「ぐっ……!!」
僅か五秒ばかりだが、互いに大分ダメージを負ったところで、ユウキがセシリアに合図をする!
「セシリアー!今だーーー!!」
「〝我が祈りに答えよーー我が力に答えよーーいずれにも訪れる怨嗟の時よーー恐怖にも勝る絶望を打ち払う刃よーーその力よ、我の身に宿り、全てを虚無に帰したまえーー!!〟《闇黒消滅ブラック・ダーク魔法・フィールド》ーー!!」
呪文を唱え終わった後ーー膨大な魔気を含んだ闇属性魔法が、セシリアの手元より放たれる。
「グーーグオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!」
ドゴオオオオオオオオオオンッーー!!!
セシリアの魔法が直撃した後ーー大きな砂煙が舞い散る中、遂にその〝魔竜〟は倒れたのだったーー。
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