第15話 遭遇

 ケイトのお家にお邪魔させて貰ってから一週間後、次のデートの約束の日になった。


「バッド君……今日もおつかれの様子だね……」


「ちょ、ちょっとね……今週もハードでさ……」


 ケイトには本当に申し訳ないと思っている。だがこれがまた仕方ない。あの川に魔力を流す修行がかなりの魔力を使う。その割には全く成長出来ていないんだけどな。


 この一週間の成果は流す魔力量を減らすことができるようになったくらいだ。止めるなんて全くできない。


 まぁあとは……筋トレ毎日100回ずつが全く慣れない。毎日筋肉痛だ。


「でもまぁ……今日はお買い物に連れ回しちゃうよ! 疲れててもお構いな……あっ! すいません」


 ケイトは俺の方を見ながら歩いていたせいか、前から来た男に激突してしまった。


「すいません」


 俺も謝る。でも、この男も避けようと思ったら良けれたはずだろう。なんか感じ悪いな。さっさと行こう……あれ?


 ケイトの様子を見ると、さっきとは打って変わって、恐怖に満ち溢れているような顔をしていた。


「ケイト。なぜこんなところにこんなやつといるんだ? こいつは誰だ?」


 なんだ? こいつケイトの名前を知ってるのか?


 話しかけられても黙り込んでいるケイトを見て、俺はアクションを起こす。


「ちょっと……あなたはケイトさんと、どんな関係性なので……」


「ちょっと君は黙っててくれ」


「はい……」


 負けた。圧で負けた。普通に負けた。


 でも、今ケイトは絶対に脅えている。この男に。


「ごめんね……バッド君……」


 震えた声を絞り出すように言ったケイトは、その男と目を合わせないように話し始めた。


「どうして……ここにいるの……」


「どうしててって、遠出から帰ってきただけだ。久しぶりに街の様子見にな。ケイトこそ何をしてる」


「何って……私の勝手でしょ」


「少し見ない間に生意気になったものだ」


 この二人の関係。少しわかったかもしれない。恐らくだがこの二人……


「いつまでいるの……お父さん……」


「軽く一週間だ。明日から一週間、空けておくように」


 それを聞いた瞬間。ケイトは全てを悟ったように顔を引きつらせた。

 見たことの無いケイトの顔。俺の知らない、彼女の感情。


 ケイトの父と名乗る男は、ケイトと俺の間を割るように歩いて行った。


 以前遮られたという言葉。きっとこいつがこの街の領主だ。そして、こいつはケイトやライトさんの表情を暗くする。そんな奴なんだ。


「大丈……」


「お母さんには! お母さんには手出さないで……」


 声をかけようとした俺の声を遮るように、ケイトは男に向かって叫んだ。


「……」


 お母さんには手を出すな。ケイトの家庭。想像もしたくないことがたくさん現れる。


 前世では両親が14歳で死ぬ、と言っていた。

 という事は、この男ももう時期死ぬ、ということだ。


 確定はしてないが恐らく、この男は何かしらケイトやライトさんに危害を被っているのだろう。でも、ケイトやライトさんに目で見てわかるほどの怪我は見当たらなかったはずだ。


 少しの間、いなかったらしいから、治ってしまっただけなのかもしれない。自分で治癒魔法で治してしまったのかもしれない。

 でも、この状況……かなりまずい。


 聞こうにも聞けないし、この前俺の家であった一件にも関わってきていそうだ。


 もし、あの時の涙と関係があるのなら。俺は放っておけない。


 だからといって今は絶対にでしゃばっては行けないことだって分かってる。


 俺の記憶によると、ケイトの両親が亡くなるのは俺の両親が亡くなる一週間程前だ。


 俺がやるべきことはまず、ケイトの両親の死を回避すること……なのか?


 この男は生きてていいのか? てか、未来って変わる可能性があるんだったら……今見てるこの光景も変化したあとなんじゃないのか?


 分からない分からない。どうしろって言うんだよ。


 てか、ケイトの両親はダンジョンで死んだんだろ? この家族が夫婦仲良くダンジョンなんて行くのか……


「バッド君?」


 思考を遮ってきたのは、ケイトの声だった。

 気が付いたらあの男はもうおらず、ケイトの表情もさっきよりはマシになっていた。


「あ、ごめん……」


「こっちこそごめんね。なんか悪いとこ見せちゃったよね」


 今、俺は踏み込んでいいのか。ここで話を聞けば何か変わるのか。


 ……やめておこう。俺が聞いたところで何も変わらない……


「そんなことないよ。大丈夫。何かあったら……俺に出来ることだったら、何でもするから」


「……ありがとね」


 小さく呟いたケイトはどこか浮かない表情をしていた。


 ☆☆☆


 その日の夕方。あまり今日の記憶は残っていない。


「今日は家まで送るよ」


「……いいの?」


「うん。いつもこっち来てもらってばっかだし。森抜けるくらいまでは送らせて」


 ストーカー宣言では無い。普通に心配だからだ。本当だからな? 嘘じゃないぞ?


「じゃぁ……お言葉に甘えて」


 俺とケイトは街を出て歩き出した。


 約10分ほど歩き森を抜け、1週間前に訪れた大きな宮殿が見えてくる。その宮殿は俺とケイトの感情とは裏腹に真っ白で純白なままだ。


「まぁ……薄々分かってると思うけど、あの昼会った人がこの街の領主だよ」


「やっぱ……そうなんだな」


「今日はごめんなさい」


「あ、謝らないでいいんだよ!」


「この前も聞いたけどさ……? 私の身分がこれだって知っても……仲良くしてくれる?」


 少し寂しそうな顔をしたケイト。


 ……当たり前だ。


「あぁ。もちろん」


「……ありがとね」


 ケイトはまっすぐ宮殿の方を見て、俺の方は見ない。


「じゃあ……さ。もし、また一週間後。いつもの場所私が来なかったら……」


「……?」


「私のことは全部忘れて」


 ケイトのその発言は脳に直接届いたかのように、大きく聞こえた。


 俺はこれから起きることは全く分からなかった。でも、これから起きることは、決して良いことでは無いこと位は分かっていた。

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